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「いや、例えの話。生まれ変わった俺と恋愛できる?」 

「生まれ変わった黒木とか……」 


 どうだろうか。想像できない。 

 俺だって、別に黒木のことが嫌いってわけじゃない。生前好きだったって言ってもらえたことは嬉しいよ。ただ、無理やり俺をここに連れてきたり、レイプしようとしたり、無理やりなところが多すぎて、素直に受け入れることができないだけで。 


「そうだな。今日みたいに無理やりキスしたり、同意なくレイプしたりとかしなきゃな。現実で監禁とかシャレにならん」 

「本当!?」 

「ああ。だけど黒木が生まれ変わるなんて実感もないし、本当に受け入れることができるかどうかは……うぐっ」 


 そこまで言うと黒木がガバッと強くしがみついてきた。 
 なんだって死んでるくせに、こいつはこんなに力が強いんだ。ここは生前のイメージが強いんだろうな、きっと。 


「俺! ちょっと諦めてたけど、生まれ変われるように頑張る! いいよね!? 神様!」 


 嬉しそうな黒木の声に、黒く淀んでいた空気が、入れ替わるようにしてパッと明るく澄んだ。 
 空気中のホコリが光に当たってキラキラと光るように、何やら光るものが上から降ってくる。 

 何がなんだかよくわからないが、黒木がそわそわとしていて、俺もつられてそわそわしてきた。 

 でもちょっと待って。これってもしかして、天に召されるってやつ? 黒木、天に召されちゃうの? 


「最後にさ、ユウジにキスしたいんだけど……。ちょっとだけならユウジ怒らない?」 

「え? あ、うん……」 


 そう言い終わらないうちに、そっと唇が重なる。さっきのようながむしゃらなやつじゃない、本当に触れるだけのキス。 

 目を閉じて、唇の感触を感じて、離れたと思って目を開けると、黒木の姿はもうなかった。 


 そして空のどこからか、 

『もう、死のうなんか思うなよ!』 

 そんな声が聞こえたように思った。 


 シーンと静まり返った室内。黒木は無事、”あの世”に逝けたんだろうか。 
 しんみりとした空気の中、俺は重大なことに気がついた。 


(――それよりもちょっと待て。俺、ここに取り残されてどうすんの?) 


 ここは黒木が創った空間のはず。どこに出入り口があるのかも分からない。出入り口があるのかも定かではない。 

 どうやったら出られるんだよ!? 

 キョドりながらも出口を探そうと立ち上がった瞬間、急に場面が暗転して、体にものすごい衝撃が走った。 


「う……い、て……――――」 


 パーパーパーパーと外で鳴り響くクラクション。どこからかドンドンという音まで聞こえてくる。 
 さっきまでの無音の空間からうってかわり、いきなり喧しい場所に移った俺の頭はひどく混乱していた。 


「何だよ。これ……」 


 酷い体の痛みに呻き声を出しながら顔を上げてようやく、俺は車の運転席で、ハンドルの上にうつ伏せになっていたのだと分かった。 


「え……あ、れ? なんで? 黒木は……?」 


 ズキッと頭に痛みが走る。 


「いっー……。なにこれ……」 


 ひどい頭痛にめまいまでする。 


「俺、事故ったのか……?」 


 遠くからパトカーと救急車のサイレンの音がする。 

 誰かが通報してくれたんだろうか。なんとか首を動かして、窓のほうを見る。霞む目に、窓の向こうで佐藤が泣きながら窓を叩いているのが見えた。 


「あー……俺、生き返ったのかー……」 


 一気に体中の力が抜け、俺はそのまま気を失った。 
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