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28 ハクラシスの手紙のゆくえ
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「ハクラシス、どうした浮かない顔をして」
とある日の朝、アーヴァルは騎士団本部の執務室で、いつも以上に不機嫌そうでいて何か悩んでいるかのようなハクラシスに声をかけた。
「……どうもこうも……、いまだにレイズンからの連絡がない」
王都に来てすでに二カ月以上が経過していた。それなのにいまだにレイズンからは、手紙の返事がない。
この間送った6通目の手紙には追記として『生きているかくらいは分かるように、返事くらいよこせ』と書いたのだが、それにすら返信がない。
「なんだ、まだあの小僧に手紙を書いて送っていたのか」
そのやや小馬鹿にしたような言い方に、ハクラシスはギロッとアーヴァルを睨みつけた。が、すぐに気落ちしたように溜息をこぼした。
「……心配だから一度様子を見に帰りたい。なぜ上は俺に休暇の許可を出さない。アーヴァル、お前がうんと言えば済む話ではないのか」
「バカを言うな。お前は俺ではなく上の預かりだ。お前を呼んだのは陛下なのだから、何事も陛下次第だ。それにまだルルーの体調も万全ではないだろう。ルルーを残していくつもりか。ルルーのことが気がかりではないのか」
そうなのだ。傷も良くなりだいぶ動けるようになったとはいえ、ルルーはいまだに寝込む日がある。
そんなふうにルルーのことを持ち出されると、さすがに強気にはでられない。
「……一時的にだ。レイズンの様子が分かればすぐにこちらへ戻る」
それを聞いてアーヴァルはフンと鼻を鳴らし、どうだかと冷笑した。
「まだ離れて二カ月程度だろう。相手は成人した男だ。心配するほどではない。それにあの脳天気のことだ、またどこかで新しい " 友達 " とやらを捕まえて、遊び歩いているんじゃないのか」
「……」
" あの子はそんな子じゃない " と言えないのが辛い。あんなに寂しそうな顔で別れたが、鬼の居ぬ間になんとやらで、街で楽しくやっている可能性もある。
それならそれでいいが……ハクラシスの今の状況で、浮気するなとは言えないのがまた辛い。……いや、まさかあの子がたった二カ月やそこらで浮気などするはずがないと首を振った。
能天気そうで、その実繊細で一途なのがレイズンなのだ。
「純粋そうに見えて案外……ということもあるぞ」
アーヴァルがしれっとそんなことを言う。
ハクラシスは机に両肘をつき、片手で顔を覆うと、悩ましげにまた大きく溜息を吐いた。
ここのところハクラシスいつもこんな感じだった。
イライラするのは、軟禁され自分の要求が何ひとつ通らないせいである。
要求はただ一つ、残してきたレイズンがどうしているか確かめたい、それだけだ。
騎士団に戻るつもりなどなく、それなのに気が付いたらこのようなことになっていて、ハクラシスはほとほと困り果てていた。
そんなこんなで始終イライラし険しい顔がさらに険しくなっていくハクラシスと、事情を何もかも知っていてシラを切るアーヴァル。
この状況の裏側をすべて知っていてハラハラして見ている人物が、実はこの場所に一人だけ存在した。
それはアーヴァルのすぐ傍にいる人物、騎士団長補佐官ベイジル、その人だ。
彼はその名の通り騎士団長の補佐役で、秘書官も兼任しているということもあり、アーヴァルの傍にはいつも彼が影のように付き添っていた。
どこにでもいそうな地味顔で影も薄く、たまにアーヴァルでさえ彼がいることを忘れてしまうくらいだが、かといって弱気な性格ではなく、補佐官らしくアーヴァルの考えを理解した上で助言するなど、言うべきことは言い、冷静な判断力、無駄口も叩かず、口も堅い。非常に優秀な補佐官である。
プライベートと仕事の両方に関わるような内容の案件も、アーヴァルの執事長と連携をとり予定を組んだりもするため、他の者が知らないようなことも彼は知っている。
だからこそ先ほどから二人の話に、突っ込みたい気持ちが満載だった。普段壁のように徹している男も、言わないだけで心の中ではいろいろと考えているのだ。
(まったく団長の白々しさったらない)
ベイジルは、先ほどからハクラシスが心配しているレイズンという男がどこにいるか勿論知っていた。
彼がアーヴァルの元にを度々訪ねていることを知っているし、彼が弓兵として騎士団にいることも知っている。
なにしろアーヴァルを訪ねてきたレイズンを門まで迎えに行ったのもベイジルだし、部隊の推薦書を代筆したのもベイジル。そして寮を手配したのもベイジルだ。
もちろんアーヴァルが最初にハクラシスのいる山小屋に行った際に同行もしていたし、そのときレイズンの顔も見ていた。
その上、アーヴァルに " ハクラシスの元にいる男はだれか " と問われて、当時レイズンの身元調査も行ったし、その後のあの街での潜入捜査のときも密かに傍にいた。……誰も気付かなかったが。
レイズンに贈った弓だって、最終的にはベイジルが発注したようなものだ。
アーヴァルから下りてきたものがあんまりにも無茶なレシピだったので、少しだけアーヴァル以外でも扱えるように小細工したが、対魔獣仕様の弓を彼が扱えるようになっていたことにちょっと感動したのは秘密だ。
アーヴァルがなぜ自分と変わらぬような平凡な彼を抱き、側に置くのか、その真意は分からない。わかっているのはハクラシスを困らせたいだけだろうということだけだ。
(団長も本当に人が悪い)
ハクラシスの見えないところで笑いを噛み殺すアーヴァルを見て、補佐官ベイジルもまた溜息を吐いた。
「ベイジル、奴の手紙はどうした?」
ハクラシスが資料を取りに他の部屋へ移動した隙に、アーヴァルがベイジルに尋ねた。
手紙とはハクラシスが先ほど言っていたレイズン宛の手紙のことだ。
ハクラシスの書いた手紙は、屋敷の使用人から執事の元へ渡り、普通であればそこからまとめて飛脚便にお願いすることになるのだが、実は飛脚便ではなくベイジルの手に渡り、アーヴァルの元へ届けられていた。
そう、最初からハクラシスの書いた手紙は王都から一歩も出ていない。それどころかハクラシス宛に来た手紙もベイジルの手によって選別され、アーヴァルの元に届けられていた。
「……いつもの通り、すべてアーヴァル様の書斎の小箱へ入れていただくようにと、執事長へお渡ししております」
ベイジルは感情を表に出さないよう、普段通り抑揚のない声でぼそりと返答した。
「そうか、ならいい。これで何通目だ?」
「……6通目です」
「そうか、あいつも懲りないな」
クククとアーヴァルはおかしそうに喉奥で笑った。
「……本当に奴もあの小僧も疑うことを知らん。どうせ今回の手紙もくだらない内容なんだろう。一度レイズンにも見せてやりたくらいだ」
それならば本当にレイズンへ渡してやればよろしかろうにと、忍び笑いをするアーヴァルに内心呆れていた。
手紙の内容を見る限り、ハクラシスのレイズンへの愛情の示し方は、まるで親子の情のようであった。だがアーヴァルの話を聞く限り、二人は恋人同士であるらしい。かなりの年の差カップルで、ベイジルには信じがたいが……。
アーヴァルもハクラシスも人前でそうとはっきり言わないから、正直ベイジルにはこの三人の関係性がはっきりとは分かっていない。
(団長はルルー様のために、わざと嫌がらせをしているのかとも思ったりもしましたが)
ハクラシスの妻であるルルーが、アーヴァル邸の離れに住んでいるのは、一部の者だけしか知らない。
だがルルーの治療のため奔走した中の一人であるベイジルは、その一部に含まれる者であり、アーヴァルが時間の許す限りルルーのために尽力したことも知っている。
ルルーがアーヴァルにとって特別な人であることだけは、ベイジルは確信を得ていた。
(だからハクラシス閣下の不貞ともいえる行為に、腹に据えかねてあんなことをされているのかと思っていましたが……)
様子を見る限り、揶揄って愉しんでいるようでもあり。
(うーん、あの団長のことですしね……。やはり深く考えすぎか)
そもそも貴族というものは浮気がステータスであるから、" 妻のために浮気しない " という発想がない。いや、まともな人もいるが少数派だ。
それはアーヴァルも同様で、性生活についてはベイジルから見てもかなり奔放である。
(レイズンが本当にハクラシス閣下の恋人であるなら、彼と寝る理由はただ単純に " ハクラシスのものだから " であるとも考えられる。閣下から彼を寝取ることだけが目的なら、あまりにも性格が悪すぎる)
最近他に目もくれず頻繁にレイズンを呼ぶのも、今が一番面白いところなんだろうな……とアーヴァルに気づかれないようベイジルは小さく嘆息した。
「今日も彼を閨に呼ばれるのですか?」
「ああ。呼んでくれ」
「承知しました」
ハクラシスがこんな風に荒ぶる日、アーヴァルは必ずレイズンを閨に呼ぶ。これまでの傾向で、今日もそうだろうとベイジルには分かっていた。
(後ほど彼が行くことを執事長にも報告せねば)
レイズンを閨に呼ぶ日は、彼の寮の部屋のドアにメモを差し込むだけでいい。そういうことも騎士団長の予定を管理する補佐官であるベイジルの役目だ。
念の為ハクラシスの退勤時間を確認し、庭で鉢合わせしない時間を指定しなければならない。面倒ごとだけは避けなくては。
ベイジルにとってレイズンは同情すべき相手ではない。自分がすべきことは我が騎士団長アーヴァルの指示に従うこと。それさえすんなり遂行できさえすればいい。
しばらくしてハクラシスが部屋に戻ると、ベイジルはアーヴァルの後ろに一歩下がり、姿勢を正した。
とある日の朝、アーヴァルは騎士団本部の執務室で、いつも以上に不機嫌そうでいて何か悩んでいるかのようなハクラシスに声をかけた。
「……どうもこうも……、いまだにレイズンからの連絡がない」
王都に来てすでに二カ月以上が経過していた。それなのにいまだにレイズンからは、手紙の返事がない。
この間送った6通目の手紙には追記として『生きているかくらいは分かるように、返事くらいよこせ』と書いたのだが、それにすら返信がない。
「なんだ、まだあの小僧に手紙を書いて送っていたのか」
そのやや小馬鹿にしたような言い方に、ハクラシスはギロッとアーヴァルを睨みつけた。が、すぐに気落ちしたように溜息をこぼした。
「……心配だから一度様子を見に帰りたい。なぜ上は俺に休暇の許可を出さない。アーヴァル、お前がうんと言えば済む話ではないのか」
「バカを言うな。お前は俺ではなく上の預かりだ。お前を呼んだのは陛下なのだから、何事も陛下次第だ。それにまだルルーの体調も万全ではないだろう。ルルーを残していくつもりか。ルルーのことが気がかりではないのか」
そうなのだ。傷も良くなりだいぶ動けるようになったとはいえ、ルルーはいまだに寝込む日がある。
そんなふうにルルーのことを持ち出されると、さすがに強気にはでられない。
「……一時的にだ。レイズンの様子が分かればすぐにこちらへ戻る」
それを聞いてアーヴァルはフンと鼻を鳴らし、どうだかと冷笑した。
「まだ離れて二カ月程度だろう。相手は成人した男だ。心配するほどではない。それにあの脳天気のことだ、またどこかで新しい " 友達 " とやらを捕まえて、遊び歩いているんじゃないのか」
「……」
" あの子はそんな子じゃない " と言えないのが辛い。あんなに寂しそうな顔で別れたが、鬼の居ぬ間になんとやらで、街で楽しくやっている可能性もある。
それならそれでいいが……ハクラシスの今の状況で、浮気するなとは言えないのがまた辛い。……いや、まさかあの子がたった二カ月やそこらで浮気などするはずがないと首を振った。
能天気そうで、その実繊細で一途なのがレイズンなのだ。
「純粋そうに見えて案外……ということもあるぞ」
アーヴァルがしれっとそんなことを言う。
ハクラシスは机に両肘をつき、片手で顔を覆うと、悩ましげにまた大きく溜息を吐いた。
ここのところハクラシスいつもこんな感じだった。
イライラするのは、軟禁され自分の要求が何ひとつ通らないせいである。
要求はただ一つ、残してきたレイズンがどうしているか確かめたい、それだけだ。
騎士団に戻るつもりなどなく、それなのに気が付いたらこのようなことになっていて、ハクラシスはほとほと困り果てていた。
そんなこんなで始終イライラし険しい顔がさらに険しくなっていくハクラシスと、事情を何もかも知っていてシラを切るアーヴァル。
この状況の裏側をすべて知っていてハラハラして見ている人物が、実はこの場所に一人だけ存在した。
それはアーヴァルのすぐ傍にいる人物、騎士団長補佐官ベイジル、その人だ。
彼はその名の通り騎士団長の補佐役で、秘書官も兼任しているということもあり、アーヴァルの傍にはいつも彼が影のように付き添っていた。
どこにでもいそうな地味顔で影も薄く、たまにアーヴァルでさえ彼がいることを忘れてしまうくらいだが、かといって弱気な性格ではなく、補佐官らしくアーヴァルの考えを理解した上で助言するなど、言うべきことは言い、冷静な判断力、無駄口も叩かず、口も堅い。非常に優秀な補佐官である。
プライベートと仕事の両方に関わるような内容の案件も、アーヴァルの執事長と連携をとり予定を組んだりもするため、他の者が知らないようなことも彼は知っている。
だからこそ先ほどから二人の話に、突っ込みたい気持ちが満載だった。普段壁のように徹している男も、言わないだけで心の中ではいろいろと考えているのだ。
(まったく団長の白々しさったらない)
ベイジルは、先ほどからハクラシスが心配しているレイズンという男がどこにいるか勿論知っていた。
彼がアーヴァルの元にを度々訪ねていることを知っているし、彼が弓兵として騎士団にいることも知っている。
なにしろアーヴァルを訪ねてきたレイズンを門まで迎えに行ったのもベイジルだし、部隊の推薦書を代筆したのもベイジル。そして寮を手配したのもベイジルだ。
もちろんアーヴァルが最初にハクラシスのいる山小屋に行った際に同行もしていたし、そのときレイズンの顔も見ていた。
その上、アーヴァルに " ハクラシスの元にいる男はだれか " と問われて、当時レイズンの身元調査も行ったし、その後のあの街での潜入捜査のときも密かに傍にいた。……誰も気付かなかったが。
レイズンに贈った弓だって、最終的にはベイジルが発注したようなものだ。
アーヴァルから下りてきたものがあんまりにも無茶なレシピだったので、少しだけアーヴァル以外でも扱えるように小細工したが、対魔獣仕様の弓を彼が扱えるようになっていたことにちょっと感動したのは秘密だ。
アーヴァルがなぜ自分と変わらぬような平凡な彼を抱き、側に置くのか、その真意は分からない。わかっているのはハクラシスを困らせたいだけだろうということだけだ。
(団長も本当に人が悪い)
ハクラシスの見えないところで笑いを噛み殺すアーヴァルを見て、補佐官ベイジルもまた溜息を吐いた。
「ベイジル、奴の手紙はどうした?」
ハクラシスが資料を取りに他の部屋へ移動した隙に、アーヴァルがベイジルに尋ねた。
手紙とはハクラシスが先ほど言っていたレイズン宛の手紙のことだ。
ハクラシスの書いた手紙は、屋敷の使用人から執事の元へ渡り、普通であればそこからまとめて飛脚便にお願いすることになるのだが、実は飛脚便ではなくベイジルの手に渡り、アーヴァルの元へ届けられていた。
そう、最初からハクラシスの書いた手紙は王都から一歩も出ていない。それどころかハクラシス宛に来た手紙もベイジルの手によって選別され、アーヴァルの元に届けられていた。
「……いつもの通り、すべてアーヴァル様の書斎の小箱へ入れていただくようにと、執事長へお渡ししております」
ベイジルは感情を表に出さないよう、普段通り抑揚のない声でぼそりと返答した。
「そうか、ならいい。これで何通目だ?」
「……6通目です」
「そうか、あいつも懲りないな」
クククとアーヴァルはおかしそうに喉奥で笑った。
「……本当に奴もあの小僧も疑うことを知らん。どうせ今回の手紙もくだらない内容なんだろう。一度レイズンにも見せてやりたくらいだ」
それならば本当にレイズンへ渡してやればよろしかろうにと、忍び笑いをするアーヴァルに内心呆れていた。
手紙の内容を見る限り、ハクラシスのレイズンへの愛情の示し方は、まるで親子の情のようであった。だがアーヴァルの話を聞く限り、二人は恋人同士であるらしい。かなりの年の差カップルで、ベイジルには信じがたいが……。
アーヴァルもハクラシスも人前でそうとはっきり言わないから、正直ベイジルにはこの三人の関係性がはっきりとは分かっていない。
(団長はルルー様のために、わざと嫌がらせをしているのかとも思ったりもしましたが)
ハクラシスの妻であるルルーが、アーヴァル邸の離れに住んでいるのは、一部の者だけしか知らない。
だがルルーの治療のため奔走した中の一人であるベイジルは、その一部に含まれる者であり、アーヴァルが時間の許す限りルルーのために尽力したことも知っている。
ルルーがアーヴァルにとって特別な人であることだけは、ベイジルは確信を得ていた。
(だからハクラシス閣下の不貞ともいえる行為に、腹に据えかねてあんなことをされているのかと思っていましたが……)
様子を見る限り、揶揄って愉しんでいるようでもあり。
(うーん、あの団長のことですしね……。やはり深く考えすぎか)
そもそも貴族というものは浮気がステータスであるから、" 妻のために浮気しない " という発想がない。いや、まともな人もいるが少数派だ。
それはアーヴァルも同様で、性生活についてはベイジルから見てもかなり奔放である。
(レイズンが本当にハクラシス閣下の恋人であるなら、彼と寝る理由はただ単純に " ハクラシスのものだから " であるとも考えられる。閣下から彼を寝取ることだけが目的なら、あまりにも性格が悪すぎる)
最近他に目もくれず頻繁にレイズンを呼ぶのも、今が一番面白いところなんだろうな……とアーヴァルに気づかれないようベイジルは小さく嘆息した。
「今日も彼を閨に呼ばれるのですか?」
「ああ。呼んでくれ」
「承知しました」
ハクラシスがこんな風に荒ぶる日、アーヴァルは必ずレイズンを閨に呼ぶ。これまでの傾向で、今日もそうだろうとベイジルには分かっていた。
(後ほど彼が行くことを執事長にも報告せねば)
レイズンを閨に呼ぶ日は、彼の寮の部屋のドアにメモを差し込むだけでいい。そういうことも騎士団長の予定を管理する補佐官であるベイジルの役目だ。
念の為ハクラシスの退勤時間を確認し、庭で鉢合わせしない時間を指定しなければならない。面倒ごとだけは避けなくては。
ベイジルにとってレイズンは同情すべき相手ではない。自分がすべきことは我が騎士団長アーヴァルの指示に従うこと。それさえすんなり遂行できさえすればいい。
しばらくしてハクラシスが部屋に戻ると、ベイジルはアーヴァルの後ろに一歩下がり、姿勢を正した。
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