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第13話:捜査と裏切り
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捜査はすぐに動き出し、シエラが使っている宿舎の部屋が徹底的に調べられることになった。
騎士団と役人が部屋を隈なく捜索し、薬棚や資料のひとつひとつに目を通す。
シエラはぎこちない気持ちで見守りながら、何か仕掛けをされないかと気が気ではなかった。
「ここにある薬品はすべてシエラ様が持ち込んだもので間違いありませんか?」
「ええ、必要最小限のものだけです。村で診療をしていた頃から使っている調合道具や薬草類、記録ノートがほとんどです」
捜査員たちが鼻をひくつかせながら嗅いだり、瓶を開けて確認したりしている。
そのうちの一人が怪訝そうに声を上げた。
「これは……どうして毒草の一種を乾燥させたものがあるんだ? 普通の医師が使うものじゃないだろう?」
シエラは喉を鳴らしながら、落ち着いて答える。
「それは厳重な調合をすれば、痛み止めや麻酔の役割を果たします。強い毒性があることは承知していますが、用量を誤らなければ有益な薬になるんです。貴族の医師の中にも、同様の使い方をしている方はいますよ」
捜査員たちは「ふむ」と頷くが、やはり毒草というだけで不信感を抱くらしい。
続けて資料を確認し始めると、何かの書類を手に取り声を上げた。
「これは……? どうやら魔法と薬の複合的な調合について書かれているが、専門用語が多くて分からんな。だが“毒”という文字が散見されるぞ」
「毒も解毒も根本的には同じ作用を変化させる研究です。相反するものを理解しないと、解毒薬も作れません」
シエラがそう説明するも、彼らの表情はすっきりしない。
おそらく、普通の医術師からすれば危険に思える研究内容だろう。
闇医術と言われるゆえんも、こういった部分にあるのかもしれない。
結局、いくつかの資料や薬草が“証拠”として押収されることになり、シエラは抵抗したかったが、将軍の助言もあってやむなく容認した。
ラナート将軍が言うには、下手に抵抗すれば敵対勢力の思う壺になるという。
その夜、シエラは一人机に向かって深い溜め息をつく。
「私の研究がまた闇だと疑われてる。あの毒の事件との関連を仕立て上げられたら、どうしよう……」
思考に沈んでいたそのとき、部屋の扉がノックされた。
扉を開けると、そこに立っていたのは意外にも軍医師の一人、アメリアという若い女性だった。
「シエラ先生、こんな時間にすみません。少しお話ししたいことがありまして……」
アメリアは軍医師の中でも比較的早くシエラの研究に理解を示した人物だった。
シエラは彼女を招き入れ、部屋の椅子に座るよう促す。
「夜分にどうしました? 捜査に協力してくれてたんですよね」
アメリアは言いにくそうに視線を落とし、拳を握りしめる。
「本当は、私もあなたの研究に期待していたんです。でも、上層部にはあなたを快く思っていない人がまだ多いんです。何かあればすぐに“闇医術”の烙印を押す気満々で……」
「分かります。私もそれは感じています」
アメリアはさらに声を低くする。
「それで、あくまで噂なんですけど……カルロという貴族が、あなたの研究を完全に自分の手柄にしようとしてるようなんです。彼は一部の貴族だけでなく、研究者や商人にも資金援助をして、あなたを追い落とす準備を進めているらしい」
シエラはやはりという気持ちで深くうなずく。
あの仮面の男といい、今回の毒事件といい、すべてがカルロの策略の可能性が高い。
「でも、彼がもし毒を使って王都の人々を苦しめたとしたら……そんな大罪を犯してまで、私を陥れようとするなんて。赦せないわ」
「先生、どうかお気をつけください。上層部がカルロの言い分に同調すれば、本当にあなたが犯人扱いされるかもしれない」
シエラは俯きながらも、拳を固める。
「ありがとうございます、アメリアさん。貴重な情報です。私にできることは、一人でも多くの人を助けて、この研究が闇ではないと証明することしかありません。たとえカルロがどんな罠を仕掛けても、負けるわけにはいきません」
アメリアはその言葉を聞き、軽く微笑んだ。
「私も協力します。まだ分からないことだらけですが、先生の研究は本物ですから」
そう言ってアメリアは部屋を後にする。
シエラは消灯の時間が近づく廊下の闇を見つめながら、静かに誓った。
「こんなところで終わるつもりはない。私を嘲笑したあの人たちに、絶対に実力を示してみせる」
騎士団と役人が部屋を隈なく捜索し、薬棚や資料のひとつひとつに目を通す。
シエラはぎこちない気持ちで見守りながら、何か仕掛けをされないかと気が気ではなかった。
「ここにある薬品はすべてシエラ様が持ち込んだもので間違いありませんか?」
「ええ、必要最小限のものだけです。村で診療をしていた頃から使っている調合道具や薬草類、記録ノートがほとんどです」
捜査員たちが鼻をひくつかせながら嗅いだり、瓶を開けて確認したりしている。
そのうちの一人が怪訝そうに声を上げた。
「これは……どうして毒草の一種を乾燥させたものがあるんだ? 普通の医師が使うものじゃないだろう?」
シエラは喉を鳴らしながら、落ち着いて答える。
「それは厳重な調合をすれば、痛み止めや麻酔の役割を果たします。強い毒性があることは承知していますが、用量を誤らなければ有益な薬になるんです。貴族の医師の中にも、同様の使い方をしている方はいますよ」
捜査員たちは「ふむ」と頷くが、やはり毒草というだけで不信感を抱くらしい。
続けて資料を確認し始めると、何かの書類を手に取り声を上げた。
「これは……? どうやら魔法と薬の複合的な調合について書かれているが、専門用語が多くて分からんな。だが“毒”という文字が散見されるぞ」
「毒も解毒も根本的には同じ作用を変化させる研究です。相反するものを理解しないと、解毒薬も作れません」
シエラがそう説明するも、彼らの表情はすっきりしない。
おそらく、普通の医術師からすれば危険に思える研究内容だろう。
闇医術と言われるゆえんも、こういった部分にあるのかもしれない。
結局、いくつかの資料や薬草が“証拠”として押収されることになり、シエラは抵抗したかったが、将軍の助言もあってやむなく容認した。
ラナート将軍が言うには、下手に抵抗すれば敵対勢力の思う壺になるという。
その夜、シエラは一人机に向かって深い溜め息をつく。
「私の研究がまた闇だと疑われてる。あの毒の事件との関連を仕立て上げられたら、どうしよう……」
思考に沈んでいたそのとき、部屋の扉がノックされた。
扉を開けると、そこに立っていたのは意外にも軍医師の一人、アメリアという若い女性だった。
「シエラ先生、こんな時間にすみません。少しお話ししたいことがありまして……」
アメリアは軍医師の中でも比較的早くシエラの研究に理解を示した人物だった。
シエラは彼女を招き入れ、部屋の椅子に座るよう促す。
「夜分にどうしました? 捜査に協力してくれてたんですよね」
アメリアは言いにくそうに視線を落とし、拳を握りしめる。
「本当は、私もあなたの研究に期待していたんです。でも、上層部にはあなたを快く思っていない人がまだ多いんです。何かあればすぐに“闇医術”の烙印を押す気満々で……」
「分かります。私もそれは感じています」
アメリアはさらに声を低くする。
「それで、あくまで噂なんですけど……カルロという貴族が、あなたの研究を完全に自分の手柄にしようとしてるようなんです。彼は一部の貴族だけでなく、研究者や商人にも資金援助をして、あなたを追い落とす準備を進めているらしい」
シエラはやはりという気持ちで深くうなずく。
あの仮面の男といい、今回の毒事件といい、すべてがカルロの策略の可能性が高い。
「でも、彼がもし毒を使って王都の人々を苦しめたとしたら……そんな大罪を犯してまで、私を陥れようとするなんて。赦せないわ」
「先生、どうかお気をつけください。上層部がカルロの言い分に同調すれば、本当にあなたが犯人扱いされるかもしれない」
シエラは俯きながらも、拳を固める。
「ありがとうございます、アメリアさん。貴重な情報です。私にできることは、一人でも多くの人を助けて、この研究が闇ではないと証明することしかありません。たとえカルロがどんな罠を仕掛けても、負けるわけにはいきません」
アメリアはその言葉を聞き、軽く微笑んだ。
「私も協力します。まだ分からないことだらけですが、先生の研究は本物ですから」
そう言ってアメリアは部屋を後にする。
シエラは消灯の時間が近づく廊下の闇を見つめながら、静かに誓った。
「こんなところで終わるつもりはない。私を嘲笑したあの人たちに、絶対に実力を示してみせる」
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