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第29話:再建された領土と民の熱狂

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 翌日の昼下がり、王宮から馬車が出て、フィオレンティーナは近隣の再建された村を視察することになった。
 かつて魔物に荒らされた地域も、彼女の指導で復興が進み、整った井戸や新しい穀物倉庫が並び始めている。
 彼女が動くと聞きつけ、村人たちは通りを清掃し、花びらを撒き、音楽隊まで招いて出迎える準備を整えていた。

 馬車が村の入り口に近づくと、民は一斉に歓声を上げる。

 
「フィオレンティーナ様万歳!
 我々を救ってくださった女神様!」

 子供が手作りの冠を差し出し、老人が涙ながらに感謝を述べる。
 フィオレンティーナは馬車から降り、ゆったりとした所作で挨拶する。
 その佇まいはかつて王宮で習った礼儀作法の集大成だが、今は心からの自信と力が込められている。

 
「皆さん、ごきげんよう。
 わたくしは皆が平和に暮らせる国を望んでいます。
 魔物は退けられ、結界は健在。
 安心して畑を耕し、家族と共に笑顔で過ごしてください」

 民衆は熱狂的な拍手と歓声で応える。
 王太子の影すら感じさせないほど、彼女の存在は圧倒的だった。
 貴族たちが陰でどんな思惑を持っていようと、民衆がこれほどまでに正妃を支持するなら、彼女の権威は揺るがない。

 村の長老が感激の面持ちで近づく。

 
「正妃様、この穏やかな日々をありがとうございます。
 あの頃、魔物が来た時、どれほど恐ろしかったか。
 今こうして、食べ物も行き渡り、子供たちが笑えるのはすべてあなたのおかげです」

 フィオレンティーナは微笑み、手を差し出して長老の肩に軽く触れる。
 決して見下さず、しかし威厳を持って接する態度が、民衆の心を掴む。

 
「長老、わたくし一人の力ではありません。
 民が働き、土地が実り、わたくしは少しの導きと守りを与えただけ。
 けれど、これからも困ったことがあれば知らせてくださいな。
 わたくしはあなた方を見捨てません」

 その言葉に、村人たちはさらなる歓喜の声を上げる。
 人心掌握は完璧だった。
 まるで、この国はフィオレンティーナを中心に回っているように感じる。

 視察を終え、馬車に戻ると、ライヴァンが小声で囁く。

 
「お嬢様、これで民はますますあなたに忠誠を誓うでしょう。
 小さな反発など、この熱狂の前では微弱です」

 フィオレンティーナは笑みを深める。

 
「ええ、民がわたくしを支持する限り、貴族が何を企んでも無駄。
 王太子が密かに何かを企てても、民はわたくしを守るでしょう」

 その言葉には揺るぎない自信が満ちている。
 力ある者が慈悲と秩序を示せば、民は裏切らない。
 薔薇の魔力は決して衰えず、世界を安定に導く。
 フィオレンティーナは安心しきってはいないが、今は順風が吹いている。

 馬車が王都へ戻る道すがら、彼女は微かな風の音を聞きながら思索する。
 隣国との交渉、内紛の火種、そしてさらなる魔力の強化。
 課題は山積みだが、今の彼女には解決する余裕と力がある。
 この国は変わった。
 もう、誰も彼女を飾りの花と呼べない。
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