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第18話:交錯する視線と新たな秩序の芽吹き
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翌朝、柔らかな日の光が薔薇園を染め上げる。
民衆が中庭で目を覚まし、穏やかに雑談を始めている。
恐怖に怯えた様子は薄れ、歓喜と安堵が漂っている。
この古城は一夜にして聖地のような扱いを受け、フィオレンティーナはその中心で微笑む。
王都から新たな使者がやって来た。
今度は国の重臣で、白髪混じりの初老の伯爵が震える声で告げる。
「フィオレンティーナ様、殿下はついに、王宮の大広間にて貴女を正妃として正式に戴冠する儀式を行いたいと願い出ました。
国は貴女の名を知り、貴女がいなければ成り立たぬことを理解しております。
どうか、王都へお戻りいただけませんか?」
フィオレンティーナは唇を噛み、考える。
王都へ戻る、それはつまり、かつて追放された場所へ凱旋するということだ。
今度は勝者として、正妃として、新たな秩序を打ち立てるために。
「殿下がそこまで頭を下げるのなら、行って差し上げましょう。
ただし、わたくしはもう二度と、飾りの花ではありません。
王宮に戻るのは、わたくしの力で守られた国を安定させるため。
殿下はおわかりですわね?」
伯爵は何度も頷く。
フィオレンティーナはライヴァンに目をやり、微笑む。
ここで王都へ戻れば、民衆の視線は彼女一色となり、王太子はただの名目上の王となる。
彼女が望むなら、いずれ王太子を退け、自らが治めることも可能だろう。
◇
昼下がり、古城から王都へ向かう馬車が準備される。
多くの民が同行を希望し、フィオレンティーナの後ろをついていく。
まるで勝利の凱旋パレードだ。
魔物が退き、薔薇の結界に守られた道を進みながら、彼女はかつての屈辱を思い返す。
あの日、王太子が自分を追放した時の冷やかな視線。
手紙も出さず、相手にもしなかったあの態度。
今や、すべて逆転した。
◇
道中で、救われた村人たちがひれ伏し、「ありがとう」と繰り返す。
フィオレンティーナは軽く手を上げるだけ。
その仕草一つで、民は大喜びし、彼女を女神扱いする。
ライヴァンは感嘆の息を漏らす。
「お嬢様、これほどまでに民心を掌握するとは……
王太子は恐らく、この先ずっとお嬢様の顔色を窺い続けるでしょう。
もう対等な立場には戻れません」
フィオレンティーナは満足げに頷く。
彼女は正妃となり、国全体を背後から操る女帝のような存在となる。
今さら王太子に愛されても滑稽なだけ。
愛など、もはやどうでもよい。
力と尊敬、そして自由、これが手に入れば充分だ。
◇
夕暮れ、王都の門が見えてくる。
薔薇色の結界が徐々に溶け込み、街路には疲弊した兵士や民が集まっている。
彼らはフィオレンティーナが戻ることを歓迎し、拍手喝采を送る。
王太子は城門前で待ち構え、土埃の中で震えるように立っている。
かつての傲慢な微笑は消え、ただ迎合するような表情で彼女を出迎えようとする。
「フィオレンティーナ……ようやく戻ってきてくれたのだな。
私は……私はもう二度と、お前を蔑ろにしない。
正妃として、この国を……」
言葉は震え、視線は定まらない。
フィオレンティーナは王太子を一瞥し、まるで部下を見下ろすような眼差しを送る。
彼女にはもう、彼を愛する気持ちなど欠片もない。
「ええ、戻ってまいりましたわ。
けれど殿下、わたくしを追い出した日のこと、決して忘れないでくださいませ。
わたくしは優雅な花嫁ではなく、薔薇の棘を秘めた存在。
もし再び侮るようなことがあれば、その時は……」
王太子は蒼白になり、唇を震わせる。
フィオレンティーナはそれ以上言葉を発しない。
彼女が支配する未来はもう明らかだ。
◇
夜、王宮の一室で、フィオレンティーナは微かに笑いを漏らす。
結界は安定し、魔物は退散し、民は彼女を崇め、王太子は完全に後悔し平伏した。
かつての弱い姫は、今や圧倒的な力を手にしている。
この国は新たな秩序の中に生まれ変わる。
王太子がどう泣こうが、懺悔しようが、彼女には関係ない。
フィオレンティーナは、自由な笑みを浮かべながら、薄紅色の髪を揺らす。
もう王太子の愛など欲しくないが、彼を従えることで、この国は彼女が選ぶ未来へと進んでいくのだ。
民衆が中庭で目を覚まし、穏やかに雑談を始めている。
恐怖に怯えた様子は薄れ、歓喜と安堵が漂っている。
この古城は一夜にして聖地のような扱いを受け、フィオレンティーナはその中心で微笑む。
王都から新たな使者がやって来た。
今度は国の重臣で、白髪混じりの初老の伯爵が震える声で告げる。
「フィオレンティーナ様、殿下はついに、王宮の大広間にて貴女を正妃として正式に戴冠する儀式を行いたいと願い出ました。
国は貴女の名を知り、貴女がいなければ成り立たぬことを理解しております。
どうか、王都へお戻りいただけませんか?」
フィオレンティーナは唇を噛み、考える。
王都へ戻る、それはつまり、かつて追放された場所へ凱旋するということだ。
今度は勝者として、正妃として、新たな秩序を打ち立てるために。
「殿下がそこまで頭を下げるのなら、行って差し上げましょう。
ただし、わたくしはもう二度と、飾りの花ではありません。
王宮に戻るのは、わたくしの力で守られた国を安定させるため。
殿下はおわかりですわね?」
伯爵は何度も頷く。
フィオレンティーナはライヴァンに目をやり、微笑む。
ここで王都へ戻れば、民衆の視線は彼女一色となり、王太子はただの名目上の王となる。
彼女が望むなら、いずれ王太子を退け、自らが治めることも可能だろう。
◇
昼下がり、古城から王都へ向かう馬車が準備される。
多くの民が同行を希望し、フィオレンティーナの後ろをついていく。
まるで勝利の凱旋パレードだ。
魔物が退き、薔薇の結界に守られた道を進みながら、彼女はかつての屈辱を思い返す。
あの日、王太子が自分を追放した時の冷やかな視線。
手紙も出さず、相手にもしなかったあの態度。
今や、すべて逆転した。
◇
道中で、救われた村人たちがひれ伏し、「ありがとう」と繰り返す。
フィオレンティーナは軽く手を上げるだけ。
その仕草一つで、民は大喜びし、彼女を女神扱いする。
ライヴァンは感嘆の息を漏らす。
「お嬢様、これほどまでに民心を掌握するとは……
王太子は恐らく、この先ずっとお嬢様の顔色を窺い続けるでしょう。
もう対等な立場には戻れません」
フィオレンティーナは満足げに頷く。
彼女は正妃となり、国全体を背後から操る女帝のような存在となる。
今さら王太子に愛されても滑稽なだけ。
愛など、もはやどうでもよい。
力と尊敬、そして自由、これが手に入れば充分だ。
◇
夕暮れ、王都の門が見えてくる。
薔薇色の結界が徐々に溶け込み、街路には疲弊した兵士や民が集まっている。
彼らはフィオレンティーナが戻ることを歓迎し、拍手喝采を送る。
王太子は城門前で待ち構え、土埃の中で震えるように立っている。
かつての傲慢な微笑は消え、ただ迎合するような表情で彼女を出迎えようとする。
「フィオレンティーナ……ようやく戻ってきてくれたのだな。
私は……私はもう二度と、お前を蔑ろにしない。
正妃として、この国を……」
言葉は震え、視線は定まらない。
フィオレンティーナは王太子を一瞥し、まるで部下を見下ろすような眼差しを送る。
彼女にはもう、彼を愛する気持ちなど欠片もない。
「ええ、戻ってまいりましたわ。
けれど殿下、わたくしを追い出した日のこと、決して忘れないでくださいませ。
わたくしは優雅な花嫁ではなく、薔薇の棘を秘めた存在。
もし再び侮るようなことがあれば、その時は……」
王太子は蒼白になり、唇を震わせる。
フィオレンティーナはそれ以上言葉を発しない。
彼女が支配する未来はもう明らかだ。
◇
夜、王宮の一室で、フィオレンティーナは微かに笑いを漏らす。
結界は安定し、魔物は退散し、民は彼女を崇め、王太子は完全に後悔し平伏した。
かつての弱い姫は、今や圧倒的な力を手にしている。
この国は新たな秩序の中に生まれ変わる。
王太子がどう泣こうが、懺悔しようが、彼女には関係ない。
フィオレンティーナは、自由な笑みを浮かべながら、薄紅色の髪を揺らす。
もう王太子の愛など欲しくないが、彼を従えることで、この国は彼女が選ぶ未来へと進んでいくのだ。
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