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第20話:想いが交錯する日常と決意
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カフェでのやりとりから数日。
セシルは懸案となっていた新設災害管理局の整備に追われていた。
部屋割りや人事構成、各地の情報拠点との連絡網づくりなど、やることは山積みだが、やりがいも大きい。
◇
「これが災害管理局の基本方針案です。軍や商業ギルド、魔術師団とも連携を強化して、緊急時には即座に対応できる仕組みを作りたいと思っています」
セシルはまとめ上げた書類を、オズワルドやアーロン、そして数人の役職者へ提示する。
それは防衛計画、物資流通、医療支援など、多岐にわたる分野を一本化した内容だった。
「これは……すごいな。ここまで網羅的に整理されているのは初めてだ。行政や軍の管轄を超えて連携することで、スピードアップが図れるわけだ」
「はい。一部、専門部署の新設が必要になるかもしれませんが、長期的に見ればコスト以上の価値があるはずです」
意欲的に話すセシルを見て、オズワルドは深く頷く。
「すぐに国王陛下に提案してみるべきだな。ここまで具体的なものなら、予算が下りる見通しも立ちやすい」
「承知しました。では私が陛下へ提出書類を整えます」
セシルは笑顔を浮かべながら、また新たな一歩を踏み出そうとしていた。
◇
会議が終わり、夕暮れの官庁街を歩いていると、オズワルドがそっと声をかける。
「セシル、少し話せるか? 最近、お前が妙に悩んでいるように見えるんだ」
「え……私、悩んでるように見えましたか?」
セシルは自分でも気づかぬうちに表情に出ていたことに驚く。
レナードとの再会や、彼の告白のこと。どうしても頭の片隅に引っかかっていたのだ。
「実は……ラヴィーニア王子に、改めて“戻ってきてほしい”と言われました。もちろん断りましたけど、そのことで少し考えることがあって」
セシルが素直に打ち明けると、オズワルドは僅かに眉を寄せる。
「そうか。お前が抱え込んでいるのではないかと心配していた。……ラヴィーニアに未練はないんだよな?」
「もうありません。今の私にとって、グリーゼでの生活がとても充実しているんです。だから戻る気はまったくありません」
セシルはきっぱりと言い切る。
オズワルドは安堵したように息をつき、そしてわずかに目を伏せて言葉を続ける。
「よかった……。お前がもし戻ることを選んだら、俺は……正直、とても嫌だったからな」
「将軍……?」
「済まない、変なことを言った。だが、お前と過ごす時間が俺には大切でな。お前がいなくなるなんて考えたくもないんだ」
オズワルドの低い声は、まるで告白めいた響きを帯びていた。
セシルの胸がどくんと高鳴る。
「私も、あなたと一緒にこの国のために働けることが、すごく嬉しいです。これからも、ずっと……」
そこまで言いかけて、セシルは恥ずかしさに言葉を詰まらせる。
オズワルドは微笑み、そっとセシルの肩に手を置いた。
「ありがとう、セシル。……まだはっきり口にはしないけれど、いずれきちんと伝えたいことがある。もう少しだけ、待っていてくれ」
彼の手の温かさに、セシルは素直に頷く。
レナードからの告白がどうであれ、今の彼女の想いは確実にオズワルドのほうへ向かっていた。
◇
夕焼けに染まる王都の空を見上げながら、セシルは静かに決意を固める。
自分が守りたいものは、この国と、ここで出会った人々。
そして、いつかオズワルドが伝えてくれる想いを、真っすぐに受け止めたい。
「私が歩むのは、もう迷いのない道……」
微かな風に髪が揺れ、彼女の心もまた、新しい未来へと羽ばたこうとしている。
セシルは懸案となっていた新設災害管理局の整備に追われていた。
部屋割りや人事構成、各地の情報拠点との連絡網づくりなど、やることは山積みだが、やりがいも大きい。
◇
「これが災害管理局の基本方針案です。軍や商業ギルド、魔術師団とも連携を強化して、緊急時には即座に対応できる仕組みを作りたいと思っています」
セシルはまとめ上げた書類を、オズワルドやアーロン、そして数人の役職者へ提示する。
それは防衛計画、物資流通、医療支援など、多岐にわたる分野を一本化した内容だった。
「これは……すごいな。ここまで網羅的に整理されているのは初めてだ。行政や軍の管轄を超えて連携することで、スピードアップが図れるわけだ」
「はい。一部、専門部署の新設が必要になるかもしれませんが、長期的に見ればコスト以上の価値があるはずです」
意欲的に話すセシルを見て、オズワルドは深く頷く。
「すぐに国王陛下に提案してみるべきだな。ここまで具体的なものなら、予算が下りる見通しも立ちやすい」
「承知しました。では私が陛下へ提出書類を整えます」
セシルは笑顔を浮かべながら、また新たな一歩を踏み出そうとしていた。
◇
会議が終わり、夕暮れの官庁街を歩いていると、オズワルドがそっと声をかける。
「セシル、少し話せるか? 最近、お前が妙に悩んでいるように見えるんだ」
「え……私、悩んでるように見えましたか?」
セシルは自分でも気づかぬうちに表情に出ていたことに驚く。
レナードとの再会や、彼の告白のこと。どうしても頭の片隅に引っかかっていたのだ。
「実は……ラヴィーニア王子に、改めて“戻ってきてほしい”と言われました。もちろん断りましたけど、そのことで少し考えることがあって」
セシルが素直に打ち明けると、オズワルドは僅かに眉を寄せる。
「そうか。お前が抱え込んでいるのではないかと心配していた。……ラヴィーニアに未練はないんだよな?」
「もうありません。今の私にとって、グリーゼでの生活がとても充実しているんです。だから戻る気はまったくありません」
セシルはきっぱりと言い切る。
オズワルドは安堵したように息をつき、そしてわずかに目を伏せて言葉を続ける。
「よかった……。お前がもし戻ることを選んだら、俺は……正直、とても嫌だったからな」
「将軍……?」
「済まない、変なことを言った。だが、お前と過ごす時間が俺には大切でな。お前がいなくなるなんて考えたくもないんだ」
オズワルドの低い声は、まるで告白めいた響きを帯びていた。
セシルの胸がどくんと高鳴る。
「私も、あなたと一緒にこの国のために働けることが、すごく嬉しいです。これからも、ずっと……」
そこまで言いかけて、セシルは恥ずかしさに言葉を詰まらせる。
オズワルドは微笑み、そっとセシルの肩に手を置いた。
「ありがとう、セシル。……まだはっきり口にはしないけれど、いずれきちんと伝えたいことがある。もう少しだけ、待っていてくれ」
彼の手の温かさに、セシルは素直に頷く。
レナードからの告白がどうであれ、今の彼女の想いは確実にオズワルドのほうへ向かっていた。
◇
夕焼けに染まる王都の空を見上げながら、セシルは静かに決意を固める。
自分が守りたいものは、この国と、ここで出会った人々。
そして、いつかオズワルドが伝えてくれる想いを、真っすぐに受け止めたい。
「私が歩むのは、もう迷いのない道……」
微かな風に髪が揺れ、彼女の心もまた、新しい未来へと羽ばたこうとしている。
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