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第18話:街角の騒ぎと意外な共闘
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ラヴィーニアの公務官たちが去り、数日が経ったある昼下がり。
セシルは官庁街の近くで、新設される災害管理局の部屋割りや設備準備のために必要な材料を買い出しに出向いていた。
◇
書類作業だけでなく、こうした現場調達も欠かせない。
彼女はマーケットを歩きながら、文具や仕切り棚に使えそうな道具を品定めしている。
鮮やかな布や家具の並ぶ通りは活気に満ち、セシルもどこか心が弾んでいた。
「よし、これでだいたい必要なものは揃いそう……」
セシルが手持ちのリストを確認していると、通りの奥から騒々しい声が聞こえてきた。
「だれか、助けてくれ! 馬車が暴れ馬に襲われて……!」
その声を聞き、セシルは急いで駆け寄る。
そこには大きな荷馬車が横転し、馬がパニックを起こして暴れていた。
通行人が巻き込まれそうな危険な状況だ。
「落ち着いて! 怪我人は? 周囲に破損した荷物が散乱しているわ……」
セシルはすぐに周囲にいる人々に声をかけ、けが人の有無を確認しようとする。
「荷物の下敷きになってる人がいます! 誰か手を貸して!」
通行人たちが懸命に荷物をどかそうとするが、重くてうまくいかない。
セシルはその一方で、暴れている馬をどうにかしなければと焦った。
◇
すると、どこからか落ち着いた男の声が響いた。
「大丈夫、もう安心していい。馬を抑えるから、君たちは人命救助を続けてくれ」
セシルが振り向くと、そこにはラヴィーニア王子レナードの姿があった。
彼は取り巻きと共に現場に駆け寄り、意外にも手際よく馬を落ち着かせている。
「殿下……?」
「セシル、こんなところで会うとはね。細かい話は後だ。まずは被害を抑えよう」
レナードは取り巻きの数人に合図し、彼らも状況整理に協力し始めた。
驚いたセシルだったが、今は助け合うことが先決だと判断し、手分けして作業を進める。
◇
「こっちは大丈夫です! 怪我人は軽傷のようで、すぐに救護所へ運べそうです」
「馬車は動かせそうだ。荷物を再梱包して、近くの倉庫に運び込もう」
周囲の人々が次々に動き出し、事態は迅速に収束へ向かう。
セシルは、崩れた荷箱のリストを書き出し、破損が出ているかを確認しながら持ち主に連絡方法を指示する。
「セシル、相変わらずこういう整理は得意なんだな。昔と変わらない」
作業の合間、レナードが少し苦笑まじりに声をかけてくる。
「私の得意分野ですから。……それより、ありがとうございます。馬を抑えてくれて助かりました」
「いや、君に礼を言われる筋合いはないさ。たまたま通りかかっただけだ。……でも、君が今ここで人々のために尽くしている姿を見ると、ちょっとだけ嬉しくなるんだ」
レナードは少しだけ寂しそうに目を伏せる。
以前の傲慢な態度とは違い、どこかしおらしい雰囲気が漂っていた。
「私だって、こうした場面に遭遇すれば、当たり前に手助けします。殿下も同じだったというだけでしょう」
「そう……そうかもしれないな」
◇
事態がひと段落すると、通りの人々から感謝の声が上がった。
セシルもほっと息をつき、周囲を見回す。
大きな被害にならずに済んだのは、レナードらの協力があったのも事実だった。
「助かりました、ラヴィーニアの王子さま! お名前をお伺いしても……」
通行人の一人がそう尋ねると、レナードは照れ隠しのように笑って手を振る。
「名乗るほどのことではないよ。君たちが無事ならそれでいい」
彼がこんな風に民衆に直接手を貸す姿は、セシルにとって意外だった。
レナードの本質は、もしかすると優しさや行動力を持ち合わせているのかもしれない。
ただ、かつての彼はそれを表に出せないまま、高慢さと甘えでセシルを雑用係にしていただけだったのだろう。
◇
「セシル、少し話せるか? ここから離れてもいいなら……」
後片付けを終えたレナードが、控えめに声を掛ける。
セシルは周囲を見渡し、後は地元の人々が対応できそうだと判断すると、彼との会話に応じることにした。
「……わかりました。けれど、あまり長くは話せませんよ。私も急ぎの用事がありますので」
「ありがとう。じゃあ、この先のカフェで少しだけ……」
レナードに促され、セシルは人目の少ないカフェの片隅へと足を運ぶ。
しかし、彼と穏やかに会話をするのは、いつ以来だろう。
奇妙な気持ちのまま、セシルは席についた。
セシルは官庁街の近くで、新設される災害管理局の部屋割りや設備準備のために必要な材料を買い出しに出向いていた。
◇
書類作業だけでなく、こうした現場調達も欠かせない。
彼女はマーケットを歩きながら、文具や仕切り棚に使えそうな道具を品定めしている。
鮮やかな布や家具の並ぶ通りは活気に満ち、セシルもどこか心が弾んでいた。
「よし、これでだいたい必要なものは揃いそう……」
セシルが手持ちのリストを確認していると、通りの奥から騒々しい声が聞こえてきた。
「だれか、助けてくれ! 馬車が暴れ馬に襲われて……!」
その声を聞き、セシルは急いで駆け寄る。
そこには大きな荷馬車が横転し、馬がパニックを起こして暴れていた。
通行人が巻き込まれそうな危険な状況だ。
「落ち着いて! 怪我人は? 周囲に破損した荷物が散乱しているわ……」
セシルはすぐに周囲にいる人々に声をかけ、けが人の有無を確認しようとする。
「荷物の下敷きになってる人がいます! 誰か手を貸して!」
通行人たちが懸命に荷物をどかそうとするが、重くてうまくいかない。
セシルはその一方で、暴れている馬をどうにかしなければと焦った。
◇
すると、どこからか落ち着いた男の声が響いた。
「大丈夫、もう安心していい。馬を抑えるから、君たちは人命救助を続けてくれ」
セシルが振り向くと、そこにはラヴィーニア王子レナードの姿があった。
彼は取り巻きと共に現場に駆け寄り、意外にも手際よく馬を落ち着かせている。
「殿下……?」
「セシル、こんなところで会うとはね。細かい話は後だ。まずは被害を抑えよう」
レナードは取り巻きの数人に合図し、彼らも状況整理に協力し始めた。
驚いたセシルだったが、今は助け合うことが先決だと判断し、手分けして作業を進める。
◇
「こっちは大丈夫です! 怪我人は軽傷のようで、すぐに救護所へ運べそうです」
「馬車は動かせそうだ。荷物を再梱包して、近くの倉庫に運び込もう」
周囲の人々が次々に動き出し、事態は迅速に収束へ向かう。
セシルは、崩れた荷箱のリストを書き出し、破損が出ているかを確認しながら持ち主に連絡方法を指示する。
「セシル、相変わらずこういう整理は得意なんだな。昔と変わらない」
作業の合間、レナードが少し苦笑まじりに声をかけてくる。
「私の得意分野ですから。……それより、ありがとうございます。馬を抑えてくれて助かりました」
「いや、君に礼を言われる筋合いはないさ。たまたま通りかかっただけだ。……でも、君が今ここで人々のために尽くしている姿を見ると、ちょっとだけ嬉しくなるんだ」
レナードは少しだけ寂しそうに目を伏せる。
以前の傲慢な態度とは違い、どこかしおらしい雰囲気が漂っていた。
「私だって、こうした場面に遭遇すれば、当たり前に手助けします。殿下も同じだったというだけでしょう」
「そう……そうかもしれないな」
◇
事態がひと段落すると、通りの人々から感謝の声が上がった。
セシルもほっと息をつき、周囲を見回す。
大きな被害にならずに済んだのは、レナードらの協力があったのも事実だった。
「助かりました、ラヴィーニアの王子さま! お名前をお伺いしても……」
通行人の一人がそう尋ねると、レナードは照れ隠しのように笑って手を振る。
「名乗るほどのことではないよ。君たちが無事ならそれでいい」
彼がこんな風に民衆に直接手を貸す姿は、セシルにとって意外だった。
レナードの本質は、もしかすると優しさや行動力を持ち合わせているのかもしれない。
ただ、かつての彼はそれを表に出せないまま、高慢さと甘えでセシルを雑用係にしていただけだったのだろう。
◇
「セシル、少し話せるか? ここから離れてもいいなら……」
後片付けを終えたレナードが、控えめに声を掛ける。
セシルは周囲を見渡し、後は地元の人々が対応できそうだと判断すると、彼との会話に応じることにした。
「……わかりました。けれど、あまり長くは話せませんよ。私も急ぎの用事がありますので」
「ありがとう。じゃあ、この先のカフェで少しだけ……」
レナードに促され、セシルは人目の少ないカフェの片隅へと足を運ぶ。
しかし、彼と穏やかに会話をするのは、いつ以来だろう。
奇妙な気持ちのまま、セシルは席についた。
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