17 / 30
第17話:ラヴィーニアの密使と隣国間の思惑
しおりを挟む
翌日、セシルは王宮の応接室で、ラヴィーニア王国の公務官たちと面会した。
アーロンやグリーゼ側の書記官が同席し、公的な会議の形を整えている。
◇
「セシル・ラインハート殿、私どもはラヴィーニア王国・外務省より参りました。貴国との友好関係と災害対策の連携を深めたく、意見交換に伺った次第でございます」
公務官の一人が整然と挨拶を述べると、セシルは丁寧に頭を下げる。
「ようこそ、グリーゼ王国へ。私も災害管理を担当する者として、できる限りの情報共有は惜しみません」
「それはありがたい。……ただ、我々は先に王子殿下がお越しになった際の話も聞いておりまして。殿下は貴女を再び王国へ呼び戻そうとしているのではないか、と」
ストレートな言葉に、セシルは少しだけ表情を強張らせる。
隣席のアーロンがやんわりと口を挟む。
「セシル殿は当国の官吏として、すでに重要な任務を担っております。我々としては、お引き渡しするつもりはありません」
アーロンの落ち着いた口調に、ラヴィーニア側の公務官たちは苦笑しつつも、ある程度織り込み済みという様子だった。
「もちろん、その点については理解しています。ただ、殿下は“かつての婚約者として手助けが欲しい”と強く願っておられるようで……。なにか、融和策はないものでしょうか?」
セシルは眉をひそめる。
融和策とは、要するにセシルを通じてラヴィーニアとグリーゼの関係を円滑にしたいということだろうか。
「私個人としては、ラヴィーニア王国とは敵対関係ではありません。ですが、私が戻ることはありません。今はグリーゼの一員ですから」
きっぱりと答えたセシルの声には、揺るぎない決意があった。
それを受け、ラヴィーニア側は微妙な表情を浮かべる。
◇
「しかしながら、当王国としても、セシル・ラインハート殿の意見は非常に貴重だと考えております。もし可能であれば、災害管理に関するノウハウを共有していただきたい。ラヴィーニアも魔物被害や自然災害が増えつつあるので……」
セシルは一瞬躊躇しつつも、「情報共有はやぶさかではありません」と答える。
「ただし、グリーゼ王国の了承が前提です。私はこの国に仕えておりますので、公的な手続きを踏むならご協力します」
「もちろん、その点は承知しております。では、後日改めて手続きを……」
こうして、ラヴィーニア王国との“災害対策連携”という名目で、セシルが一部の情報や計画を提供する可能性が出てきた。
しかし、その裏にはレナードの思惑が渦巻いていることを、セシルは敏感に察していた。
◇
面会が終わり、公務官たちが帰ったあと、アーロンが心配そうに声をかける。
「セシル殿、大丈夫ですか? ご無理なさらないでくださいね。彼らの本当の狙いが何か分かりませんし……」
「はい、ありがとうございます。でも、公的な支援をするのは悪いことではありません。災害対策を共有するのは両国にメリットがありますから」
セシルはそう言って微笑むものの、その表情には一抹の不安が滲む。
レナードが絡む以上、単純な国際協力だけで済むとは限らない。
「……何かあれば、すぐに私や将軍に言ってください。セシル殿を守るのが我々の使命でもありますので」
アーロンの真剣な瞳に、セシルは素直に頷く。
王子の思惑など、自分が動揺する必要はない。今の彼女はもう“雑用係”ではなく、グリーゼを守る立派な官吏なのだ。
アーロンやグリーゼ側の書記官が同席し、公的な会議の形を整えている。
◇
「セシル・ラインハート殿、私どもはラヴィーニア王国・外務省より参りました。貴国との友好関係と災害対策の連携を深めたく、意見交換に伺った次第でございます」
公務官の一人が整然と挨拶を述べると、セシルは丁寧に頭を下げる。
「ようこそ、グリーゼ王国へ。私も災害管理を担当する者として、できる限りの情報共有は惜しみません」
「それはありがたい。……ただ、我々は先に王子殿下がお越しになった際の話も聞いておりまして。殿下は貴女を再び王国へ呼び戻そうとしているのではないか、と」
ストレートな言葉に、セシルは少しだけ表情を強張らせる。
隣席のアーロンがやんわりと口を挟む。
「セシル殿は当国の官吏として、すでに重要な任務を担っております。我々としては、お引き渡しするつもりはありません」
アーロンの落ち着いた口調に、ラヴィーニア側の公務官たちは苦笑しつつも、ある程度織り込み済みという様子だった。
「もちろん、その点については理解しています。ただ、殿下は“かつての婚約者として手助けが欲しい”と強く願っておられるようで……。なにか、融和策はないものでしょうか?」
セシルは眉をひそめる。
融和策とは、要するにセシルを通じてラヴィーニアとグリーゼの関係を円滑にしたいということだろうか。
「私個人としては、ラヴィーニア王国とは敵対関係ではありません。ですが、私が戻ることはありません。今はグリーゼの一員ですから」
きっぱりと答えたセシルの声には、揺るぎない決意があった。
それを受け、ラヴィーニア側は微妙な表情を浮かべる。
◇
「しかしながら、当王国としても、セシル・ラインハート殿の意見は非常に貴重だと考えております。もし可能であれば、災害管理に関するノウハウを共有していただきたい。ラヴィーニアも魔物被害や自然災害が増えつつあるので……」
セシルは一瞬躊躇しつつも、「情報共有はやぶさかではありません」と答える。
「ただし、グリーゼ王国の了承が前提です。私はこの国に仕えておりますので、公的な手続きを踏むならご協力します」
「もちろん、その点は承知しております。では、後日改めて手続きを……」
こうして、ラヴィーニア王国との“災害対策連携”という名目で、セシルが一部の情報や計画を提供する可能性が出てきた。
しかし、その裏にはレナードの思惑が渦巻いていることを、セシルは敏感に察していた。
◇
面会が終わり、公務官たちが帰ったあと、アーロンが心配そうに声をかける。
「セシル殿、大丈夫ですか? ご無理なさらないでくださいね。彼らの本当の狙いが何か分かりませんし……」
「はい、ありがとうございます。でも、公的な支援をするのは悪いことではありません。災害対策を共有するのは両国にメリットがありますから」
セシルはそう言って微笑むものの、その表情には一抹の不安が滲む。
レナードが絡む以上、単純な国際協力だけで済むとは限らない。
「……何かあれば、すぐに私や将軍に言ってください。セシル殿を守るのが我々の使命でもありますので」
アーロンの真剣な瞳に、セシルは素直に頷く。
王子の思惑など、自分が動揺する必要はない。今の彼女はもう“雑用係”ではなく、グリーゼを守る立派な官吏なのだ。
1
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~
ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された
「理由はどういったことなのでしょうか?」
「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」
悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる
それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。
腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。
王子様、あなたの不貞を私は隠します
岡暁舟
恋愛
アンソニーとソーニャの交わり。それを許すはずだったクレアだったが、アンソニーはクレアの事を心から愛しているようだった。そして、偽りの愛に気がついたアンソニーはソーニャを痛ぶることを決意した…。
「王子様、あなたの不貞を私は知っております」の続編になります。
本編完結しました。今後続編を書いていきます。「王子様、あなたの不貞を私は糧にします」の予定になります。
【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?
しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。
王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!!
ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。
この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。
孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。
なんちゃって異世界のお話です。
時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。
HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24)
数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。
*国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。
そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。
木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。
ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。
不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。
ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。
伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。
偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。
そんな彼女の元に、実家から申し出があった。
事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。
しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。
アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。
※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる