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第09話:何でも屋の官吏として

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 災害対策に交易管理――セシルのもとには、ますますさまざまな依頼が舞い込むようになった。
 今や彼女の働きぶりは「何でも屋の官吏」と評され、グリーゼ王国の要人たちがこぞって協力を求めてくる。

「今度は宮廷魔術師から魔法に関する研究報告書をまとめてほしいと要請が来ています。魔物対策の魔法強化について協議したいらしく……」

 アーロンは次々に舞い込む新たな仕事をセシルに伝えるが、その量の多さにさすがに申し訳なさそうだ。

「魔法研究の報告書ですか……専門的な部分は魔術師の方々に任せるとして、構成を整えるのは私がやりましょう。きっと可読性が上がるはずです」

「本当にいいのですか? あまり無理をしては……」

 アーロンの心配をよそに、セシルは笑顔で「大丈夫ですよ」と答える。
 かつてレナードに押し付けられていた頃は重荷に感じていた事務作業が、今では誰かの役に立てている喜びに変わっていた。

 ◇

 軍の詰め所から官庁街の事務所へ移動し、午後は商業ギルドの案件を一通り片付ける。
 そして夕刻には魔術師たちの研究室に顔を出し、報告書の構成を一緒に考える。
 セシルの一日は多忙を極めていたが、不思議と心が軽い。

「これで、この章をもっと分かりやすくまとめられそうですね。助かります!」

「いえ、私も専門的な話が聞けて面白いです。学ぶことが多いですよ」

 魔術師たちはセシルへの親近感を募らせ、気軽に研究内容を話してくれる。
 セシルもそれを聞いて、新たな知識を得る充実感を味わっていた。

 ◇

 そんな日々のなか、セシルは自身の働きによって、人々が笑顔を取り戻す光景をたびたび目にするようになった。
 以前は王太子の影として動き、ほとんど自分の評価など考えたこともなかった。
 だが、今こうして人に感謝され、自分の存在が公に認められている事実が誇らしい。

「私は本当に、ここに来て正解だったのかもしれない」

 そんな思いを抱きながら、セシルは今日も新たな書類の山に取りかかる。
 オズワルドからは「少しは休め」とたびたび言われるが、自ら望んで働いているからこそ、疲労感もさほどではない。

「将軍、これが予定表と進捗管理のリストです。今のところ順調に回っていますよ」

「おお、毎度ながら助かる。まったく、お前の整理能力には頭が下がるな」

 オズワルドが感嘆の溜息を漏らす。
 セシルは微笑みながら、必要な書類を渡していく。

「将軍は国境の軍備を優先すると言っていましたよね? それならばこちらの資料は早めに目を通していただいた方がいいかと」

「助言ありがとう。こういう一言があるだけで、俺も仕事が早くなる。これからも頼むぞ、セシル」

 オズワルドの真摯な視線に、セシルは少し胸が弾む。
 この国に来て、尊敬できる仲間や上官に出会えたことに、改めて感謝した。
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