8 / 30
第08話:新たな課題と商業ギルドの依頼
しおりを挟む
グリーゼ王国の官吏として働き始めてからしばらく経ち、セシルには新たな依頼が舞い込んできた。
それは王国内の商業ギルドからの申し出で、物資流通の要となる交易管理を円滑化してほしいという内容だった。
「どうやら、魔物被害によって一部の貿易路が滞っているらしいんです。そのせいで商人たちの物流も混乱しているようで……」
副官アーロンから説明を受けたセシルは、かつての知識を思い起こす。
ラヴィーニア王国では王子の雑用の一環として、近隣諸国との商談や外交にも書類レベルで携わっていた。
その際に物資の管理や調整の大変さを思い知ったが、今度は自らその最前線に立つことになる。
「なるほど。魔物の被害で街道が封鎖されると、商隊は安全な道を探す必要がありますね。そのための地図や許可証が混乱しているのでしょう」
「商業ギルドの代表が近々ここを訪れる予定で、具体的な対策を協議したいとのことです」
アーロンの話にセシルは大きく頷き、「ぜひ対応させてください」と熱意を示した。
これは単に軍事的な防衛だけでなく、国全体の経済を安定させるためにも重要な案件だ。
◇
数日後、王宮に設けられた会議室に、グリーゼ国内の有力商人たちが集まった。
それぞれが不満や要望を抱えており、司会役を務めるアーロンが議事進行に苦労しているのが見て取れる。
「だから、新しい貿易路が確保されない限り、こちらも商売が成り立たないんですよ!」
「安全なルートを提示するのは軍の役目だろう! それが難しいなら、せめて保証金を出してくれないと困る」
部屋中が言葉の応酬で騒々しい。
しかし、セシルは冷静に皆の意見をメモしつつ、必要な情報を整理する作業を始めた。
「皆さん、少し落ち着いてください。まずは問題点を明らかにしましょう。街道が使えないルートはどこか。そして、どの物資がどのくらい滞っているのか、一覧表を作って把握しましょう」
セシルは地図を広げ、商人たちから聞き出した情報を記入していく。
幾つかの街道で魔物が出没し、周辺の村が孤立しそうだという話もある。
加えて、必要物資のうち特に食料や薬草が不足しつつある地域など、優先度を可視化していく。
「それから、商業ギルドの皆さんが本当に望んでいるのは何でしょうか? 安全な通行か、それとも輸送コストの保証か……」
「両方必要ですよ! できるだけ被害が出ないように守ってほしいし、仮に被害があったら補償もほしい!」
「なるほど、では補償の額や条件について、まずはしっかり話し合いましょう。その上で、軍がどこまで護衛を出せるか調整する必要があります」
セシルの落ち着いた進行により、少しずつ会議室の熱が冷まされ、具体的な項目に沿って意見交換ができるようになっていった。
「これは……今までどれだけ無計画に話し合っていたのか、思い知らされますね」
商人の一人が苦笑しつつ、セシルのまとめた書類を眺める。
そこには各ルートの危険度と必要となる護衛兵の規模、さらに費用見積もりまでが綺麗に整理されていた。
「誤解を恐れずに言えば、こうした問題は誰かがきちんと情報をまとめて、優先順位を提示するだけで大きく進展すると思います。ですから、今後の意思決定の場では、こういった整理を続けることを提案します」
セシルがそう述べると、ギルドの代表たちは大きく頷いた。
「素晴らしい……あなたは以前からこういうお仕事をしていたのですか?」
「以前は王太子殿下の雑用係でしたが、書類整理には慣れています」
「雑用だなんてもったいない。こんな人材、見たことないですよ。グリーゼ王国は良い人を得ましたね」
商人たちの声に頬を染めつつ、セシルは「皆さんが協力してくださるからこそです」と低姿勢を貫く。
それでも周囲の評価はますます高まり、今やセシルの名は軍や行政だけでなく商業ギルドの間でも広まっていった。
それは王国内の商業ギルドからの申し出で、物資流通の要となる交易管理を円滑化してほしいという内容だった。
「どうやら、魔物被害によって一部の貿易路が滞っているらしいんです。そのせいで商人たちの物流も混乱しているようで……」
副官アーロンから説明を受けたセシルは、かつての知識を思い起こす。
ラヴィーニア王国では王子の雑用の一環として、近隣諸国との商談や外交にも書類レベルで携わっていた。
その際に物資の管理や調整の大変さを思い知ったが、今度は自らその最前線に立つことになる。
「なるほど。魔物の被害で街道が封鎖されると、商隊は安全な道を探す必要がありますね。そのための地図や許可証が混乱しているのでしょう」
「商業ギルドの代表が近々ここを訪れる予定で、具体的な対策を協議したいとのことです」
アーロンの話にセシルは大きく頷き、「ぜひ対応させてください」と熱意を示した。
これは単に軍事的な防衛だけでなく、国全体の経済を安定させるためにも重要な案件だ。
◇
数日後、王宮に設けられた会議室に、グリーゼ国内の有力商人たちが集まった。
それぞれが不満や要望を抱えており、司会役を務めるアーロンが議事進行に苦労しているのが見て取れる。
「だから、新しい貿易路が確保されない限り、こちらも商売が成り立たないんですよ!」
「安全なルートを提示するのは軍の役目だろう! それが難しいなら、せめて保証金を出してくれないと困る」
部屋中が言葉の応酬で騒々しい。
しかし、セシルは冷静に皆の意見をメモしつつ、必要な情報を整理する作業を始めた。
「皆さん、少し落ち着いてください。まずは問題点を明らかにしましょう。街道が使えないルートはどこか。そして、どの物資がどのくらい滞っているのか、一覧表を作って把握しましょう」
セシルは地図を広げ、商人たちから聞き出した情報を記入していく。
幾つかの街道で魔物が出没し、周辺の村が孤立しそうだという話もある。
加えて、必要物資のうち特に食料や薬草が不足しつつある地域など、優先度を可視化していく。
「それから、商業ギルドの皆さんが本当に望んでいるのは何でしょうか? 安全な通行か、それとも輸送コストの保証か……」
「両方必要ですよ! できるだけ被害が出ないように守ってほしいし、仮に被害があったら補償もほしい!」
「なるほど、では補償の額や条件について、まずはしっかり話し合いましょう。その上で、軍がどこまで護衛を出せるか調整する必要があります」
セシルの落ち着いた進行により、少しずつ会議室の熱が冷まされ、具体的な項目に沿って意見交換ができるようになっていった。
「これは……今までどれだけ無計画に話し合っていたのか、思い知らされますね」
商人の一人が苦笑しつつ、セシルのまとめた書類を眺める。
そこには各ルートの危険度と必要となる護衛兵の規模、さらに費用見積もりまでが綺麗に整理されていた。
「誤解を恐れずに言えば、こうした問題は誰かがきちんと情報をまとめて、優先順位を提示するだけで大きく進展すると思います。ですから、今後の意思決定の場では、こういった整理を続けることを提案します」
セシルがそう述べると、ギルドの代表たちは大きく頷いた。
「素晴らしい……あなたは以前からこういうお仕事をしていたのですか?」
「以前は王太子殿下の雑用係でしたが、書類整理には慣れています」
「雑用だなんてもったいない。こんな人材、見たことないですよ。グリーゼ王国は良い人を得ましたね」
商人たちの声に頬を染めつつ、セシルは「皆さんが協力してくださるからこそです」と低姿勢を貫く。
それでも周囲の評価はますます高まり、今やセシルの名は軍や行政だけでなく商業ギルドの間でも広まっていった。
11
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
【完結】幼い頃からの婚約を破棄されて退学の危機に瀕している。
桧山 紗綺
恋愛
子爵家の長男として生まれた主人公は幼い頃から家を出て、いずれ婿入りする男爵家で育てられた。婚約者とも穏やかで良好な関係を築いている。
それが綻んだのは学園へ入学して二年目のこと。
「婚約を破棄するわ」
ある日突然婚約者から婚約の解消を告げられる。婚約者の隣には別の男子生徒。
しかもすでに双方の親の間で話は済み婚約は解消されていると。
理解が追いつく前に婚約者は立ち去っていった。
一つ年下の婚約者とは学園に入学してから手紙のやり取りのみで、それでも休暇には帰って一緒に過ごした。
婚約者も入学してきた今年は去年の反省から友人付き合いを抑え自分を優先してほしいと言った婚約者と二人で過ごす時間を多く取るようにしていたのに。
それが段々減ってきたかと思えばそういうことかと乾いた笑いが落ちる。
恋のような熱烈な想いはなくとも、将来共に歩む相手、長い時間共に暮らした家族として大切に思っていたのに……。
そう思っていたのは自分だけで、『いらない』の一言で切り捨てられる存在だったのだ。
いずれ男爵家を継ぐからと男爵が学費を出して通わせてもらっていた学園。
来期からはそうでないと気づき青褪める。
婚約解消に伴う慰謝料で残り一年通えないか、両親に援助を得られないかと相談するが幼い頃から離れて育った主人公に家族は冷淡で――。
絶望する主人公を救ったのは学園で得た友人だった。
◇◇
幼い頃からの婚約者やその家から捨てられ、さらに実家の家族からも疎まれていたことを知り絶望する主人公が、友人やその家族に助けられて前に進んだり、贋金事件を追ったり可愛らしいヒロインとの切ない恋に身を焦がしたりするお話です。
基本は男性主人公の視点でお話が進みます。
◇◇
第16回恋愛小説大賞にエントリーしてました。
呼んでくださる方、応援してくださる方、感想なども皆様ありがとうございます。とても励まされます!
本編完結しました!
皆様のおかげです、ありがとうございます!
ようやく番外編の更新をはじめました。お待たせしました!
◆番外編も更新終わりました、見てくださった皆様ありがとうございます!!
「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。
石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。
ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。
ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。
母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。
好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】
須木 水夏
恋愛
大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。
メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。
(そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。)
※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。
※ヒーローは変わってます。
※主人公は無意識でざまぁする系です。
※誤字脱字すみません。
婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~
ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された
「理由はどういったことなのでしょうか?」
「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」
悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる
それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。
腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。
【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる