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第04話:思わぬ高評価
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オズワルドはセシルの作成したメモや地図を片手に、詰め所の兵たちへ指示を出し始めた。
「いいか、優先度は西の森が最も高い。ここでオークの群れを喰い止めるんだ。北の関所には増援を回しつつ、必要な支援物資はこのリストに従って手配する。東の川沿いは比較的安全らしいから、そちらへ市民を避難させるよう案内しろ」
簡潔かつ的確なオズワルドの指示は、セシルのメモに完全に依拠していた。
兵たちは素早く動きだし、これまでの混乱が嘘のように作戦が組み立てられていく。
「すごい……たったこれだけの整理で、こんなにも行動が変わるのね」
セシルは少し感心する一方、自分がどこか恥ずかしくも感じた。
ここまで役立つとは思っていなかったし、そもそも自分はただの第三者に過ぎないのだ。
「助かった。まさかこんな形で頭を使ってもらえるとは思わなかったな」
オズワルドが礼を言うと、セシルは「いえ、そんな」と首を横に振った。
「本当に大したことはしていません。私が長年王子に付き添い、ただ書類をまとめていた延長で……」
「いや、充分だ。むしろお前の手腕をもっと借りたいくらいだ。オズワルド・グレイム。グリーゼ王国軍の将軍だ」
彼はそう名乗ると、セシルにも名を尋ねてきた。
セシルは少しだけ迷ったが、侯爵令嬢であることを隠す必要もないと思い、素直に名乗る。
「私はセシル・ラインハート。かつては王太子殿下の婚約者だった……いえ、今はもう破棄されています」
「そうか。……それは気の毒だが、逆に言えば、お前は自由の身ということでもあるな」
オズワルドはまるで新たな戦力を見つけたかのように目を輝かせている。
セシルはその熱視線に多少戸惑いつつも、心のどこかで嬉しく感じていた。
◇
「将軍、討伐隊を結成しました! すぐに出発します!」
「よし、頼んだぞ。こっちは北の関所向けに部隊を送る。俺はしばしここで指揮を執る」
オズワルドの的確な指示に、兵たちは続々と動き出す。
その合間にも、被害報告や物資の要請が舞い込み続けるが、セシルがまとめた一覧表のおかげで順番に処理が行われていった。
「セシル。悪いが、これも整理してもらえないか? ついでに、国王陛下への定時報告用に概略もまとめたいんだが……」
オズワルドは申し訳なさそうな顔で、大量の書類を彼女に差し出す。
セシルは頷くと、すぐにペンを走らせて状況をテーブル化し、誤字脱字を確認しながらわかりやすく書類をまとめた。
「これで分かりやすくなったと思います。あとは現場の最新情報を更新すれば、国王陛下に提出できる状態です」
あっという間の速さで書類を整えたセシルに、オズワルドは驚きを通り越して感心している様子だ。
「こんな短時間でここまでまとめるとは……お前の能力は本物だな」
「雑用をたくさんこなしてきた経験、というだけです」
「うちの国には、こうした書類仕事を高効率にこなせる人材が不足している。災害対策の統括機関も確立していないし……まったく、頭が痛い問題ばかりだ」
オズワルドは苦々しくそう漏らし、手元の書類を見やる。
セシルには今のグリーゼ王国の状況が、ほんの少し見えてきた。
つまり、国境地帯の魔物対応はいつも手が足りず、情報整理もままならない。
今回の混乱も、その積年の問題が一気に吹き出した結果なのだろう。
「セシル、お前……これからグリーゼの王都に行くのだろう? ならば、ぜひうちの国の中心部を見てくれないか。案外、力になれるかもしれない」
不意にそう持ちかけられ、セシルは目を瞬かせる。
「私が力になれる……?」
「先ほどのお前の手腕だけでも、充分に国を救えるレベルだ。実際、今こうして助けられているんだからな」
オズワルドが冗談めかして笑うと、セシルは戸惑いつつも微笑んだ。
“国を救える”――大げさに聞こえるが、セシルが培ってきた雑用スキルが誰かの役に立つなら、それも悪くはない。
◇
その後、関所での作業がひと段落つき、セシルは無事に入国手続きを終えることができた。
オズワルドはまだ国境に残って指揮を執るといい、セシルに「王都へ着いたら、一度こちらに報告してほしい」と伝えてきた。
「王都にいる俺の部下に話を通しておく。その後、もしお前が嫌でなければ、また協力してもらえると助かる」
「わかりました。私でお力になれるのなら、いつでもお声かけください」
まるで誓いの言葉のように答えたセシルに、オズワルドは満足そうに頷いた。
こうして、セシルとグリーゼ王国の予期せぬ出会いは、さらに深い関わりへと進んでいく。
「いいか、優先度は西の森が最も高い。ここでオークの群れを喰い止めるんだ。北の関所には増援を回しつつ、必要な支援物資はこのリストに従って手配する。東の川沿いは比較的安全らしいから、そちらへ市民を避難させるよう案内しろ」
簡潔かつ的確なオズワルドの指示は、セシルのメモに完全に依拠していた。
兵たちは素早く動きだし、これまでの混乱が嘘のように作戦が組み立てられていく。
「すごい……たったこれだけの整理で、こんなにも行動が変わるのね」
セシルは少し感心する一方、自分がどこか恥ずかしくも感じた。
ここまで役立つとは思っていなかったし、そもそも自分はただの第三者に過ぎないのだ。
「助かった。まさかこんな形で頭を使ってもらえるとは思わなかったな」
オズワルドが礼を言うと、セシルは「いえ、そんな」と首を横に振った。
「本当に大したことはしていません。私が長年王子に付き添い、ただ書類をまとめていた延長で……」
「いや、充分だ。むしろお前の手腕をもっと借りたいくらいだ。オズワルド・グレイム。グリーゼ王国軍の将軍だ」
彼はそう名乗ると、セシルにも名を尋ねてきた。
セシルは少しだけ迷ったが、侯爵令嬢であることを隠す必要もないと思い、素直に名乗る。
「私はセシル・ラインハート。かつては王太子殿下の婚約者だった……いえ、今はもう破棄されています」
「そうか。……それは気の毒だが、逆に言えば、お前は自由の身ということでもあるな」
オズワルドはまるで新たな戦力を見つけたかのように目を輝かせている。
セシルはその熱視線に多少戸惑いつつも、心のどこかで嬉しく感じていた。
◇
「将軍、討伐隊を結成しました! すぐに出発します!」
「よし、頼んだぞ。こっちは北の関所向けに部隊を送る。俺はしばしここで指揮を執る」
オズワルドの的確な指示に、兵たちは続々と動き出す。
その合間にも、被害報告や物資の要請が舞い込み続けるが、セシルがまとめた一覧表のおかげで順番に処理が行われていった。
「セシル。悪いが、これも整理してもらえないか? ついでに、国王陛下への定時報告用に概略もまとめたいんだが……」
オズワルドは申し訳なさそうな顔で、大量の書類を彼女に差し出す。
セシルは頷くと、すぐにペンを走らせて状況をテーブル化し、誤字脱字を確認しながらわかりやすく書類をまとめた。
「これで分かりやすくなったと思います。あとは現場の最新情報を更新すれば、国王陛下に提出できる状態です」
あっという間の速さで書類を整えたセシルに、オズワルドは驚きを通り越して感心している様子だ。
「こんな短時間でここまでまとめるとは……お前の能力は本物だな」
「雑用をたくさんこなしてきた経験、というだけです」
「うちの国には、こうした書類仕事を高効率にこなせる人材が不足している。災害対策の統括機関も確立していないし……まったく、頭が痛い問題ばかりだ」
オズワルドは苦々しくそう漏らし、手元の書類を見やる。
セシルには今のグリーゼ王国の状況が、ほんの少し見えてきた。
つまり、国境地帯の魔物対応はいつも手が足りず、情報整理もままならない。
今回の混乱も、その積年の問題が一気に吹き出した結果なのだろう。
「セシル、お前……これからグリーゼの王都に行くのだろう? ならば、ぜひうちの国の中心部を見てくれないか。案外、力になれるかもしれない」
不意にそう持ちかけられ、セシルは目を瞬かせる。
「私が力になれる……?」
「先ほどのお前の手腕だけでも、充分に国を救えるレベルだ。実際、今こうして助けられているんだからな」
オズワルドが冗談めかして笑うと、セシルは戸惑いつつも微笑んだ。
“国を救える”――大げさに聞こえるが、セシルが培ってきた雑用スキルが誰かの役に立つなら、それも悪くはない。
◇
その後、関所での作業がひと段落つき、セシルは無事に入国手続きを終えることができた。
オズワルドはまだ国境に残って指揮を執るといい、セシルに「王都へ着いたら、一度こちらに報告してほしい」と伝えてきた。
「王都にいる俺の部下に話を通しておく。その後、もしお前が嫌でなければ、また協力してもらえると助かる」
「わかりました。私でお力になれるのなら、いつでもお声かけください」
まるで誓いの言葉のように答えたセシルに、オズワルドは満足そうに頷いた。
こうして、セシルとグリーゼ王国の予期せぬ出会いは、さらに深い関わりへと進んでいく。
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