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第6話:美女剣士との稽古

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 エリスから「防具をそろえておいで」と言われてから数日後、俺は簡単な革製の胸当てと腕当てを新調し、彼女との約束の場所にやってきた。そこは街外れにある広い演習場で、騎士団の訓練にも使われる設備が整っていた。

「お待たせ。防具、こんな感じで平気かな?」

「ええ、とても似合ってるわ。少し地味だけど、初心者なら上等よ。じゃあ早速始めましょうか」

 エリスはすらりとした長身と、きゅっと締まった腰のラインが魅力的だ。そのうえ、ここ数日で見慣れたはずの銀髪のポニーテールも、凛々しく輝いて見える。

「なんだか緊張してるみたいね。そんな顔してちゃ、打ち込まれるわよ」

「へ、変な意識はしてないけど……まあ、美人に見とれてしまうのはしょうがないな」

「もう、困った人ね。……でも嫌いじゃないわ、そういうの」

 エリスの言葉に思わずドキリとする。彼女は見た目がクールな印象なのに、ときどき大胆なことをさらっと言う。

「じゃあ、今日は私の得意な型を全部見せるわ。あなたが“吸収”でどれだけ取り込めるか、試させてもらうわよ」

「上等だ。……いくぞ!」

 エリスが長剣を構え、俺は木剣を握りしめる。合図とともに一歩踏み込むと、彼女はまるで風のようにすれ違いざまに斬りかかってきた。

「くっ!」

 かろうじてガードすると、衝撃が腕に響く。続けざまに突きが飛んできて、さらに回り込むように足払いまで狙ってくる。

「思ったより激しいな……けど、俺も負けない!」

 必死で目を凝らし、その動きを吸収しようと神経を研ぎ澄ます。エリスの華麗な剣筋が、俺の身体の奥底へと浸透していくようだ。

「そう、その調子よ。私の動きをなぞるだけじゃなく、あなたのものにしてみせて!」

 エリスの声に後押しされて、俺は今度こそ反撃に転じる。先ほど見えたばかりの足運びを真似し、一気に間合いを詰めると、木剣を鋭く振り抜いた。

「はっ!」

「ふふ……いいわね。まさかこんなに早く対応してくるなんて」

 エリスは微笑みを浮かべながらも、その眼差しは鋭い。彼女もまた手を抜いているわけではないのだろう。
 何度も何度も切り結ぶうちに、俺の体内にはエリスの剣技が蓄積されていく感覚があった。

「はぁ、はぁ……けど、さすがに息が切れてきた」

「一旦休憩にしましょうか。あなた、集中力がすごいから、続けすぎるとバテちゃうわよ」

 エリスは汗をぬぐい、俺も地面に腰を下ろす。息が上がっているけど、それよりも得体の知れない充実感があった。

「やっぱり、あなたのスキルはただの地味なものじゃないのね。見れば見るほど面白いわ」

「そう言ってもらえるとありがたい。正直、女神様には『期待はずれ』だなんて言われたけど……やっぱり可能性はあるよな」

「ええ、私にはそう見える。あなたがどこまで強くなるか、私も楽しみだわ」

 エリスは澄んだ瞳で俺を見つめ、優しく微笑んでくれる。その瞬間、なんだか胸が熱くなる。

「よし、もう少し休んだら、また稽古を続けよう。俺はもっともっと強くなって、いつか本当に女神様すら見返してやりたいんだ」

「いい意気込みね。私も付き合うわよ。あなたの成長を間近で見守りたいから」

 エリスの言葉には、ひとかけらの偽りも感じない。本物の剣士としての誇りと、俺への期待がそこにあった。
 こうして、俺は美女剣士エリスのもとで、地味なスキルを磨く鍛錬の日々を送ることになった。
 その先に待つのは、女神との対峙か、それとも……。今はただ、足元を固めることに全力を注ぐ。
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