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第6章 溶ける氷

三話 饅頭に込められた気持ち

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アミはその人物、ミイに笑顔で、そして心配そうに話し掛ける。


「あらミイ、こんな夜更けにどうしたの? お父さんの傍にいなくて大丈夫?」


「父上は今ゆっくり休んでるの。だから、んっとね……」


ミイは両手を後ろに組んで、モジモジとしている。
その瞳がちらちらとユキの方を向いているのに、アミは気付いた。


「もしかして、ユキに用事があったのかな?」


「うん!」


“そういう事か”


アミは手招きでユキを呼び寄せる。彼は興味無さそうだが、アミが呼ぶ場所へ歩いていく。


「どうかしましたか?」


やってきたユキにミイは顔を赤らめながら、ユキを見上げ話し掛ける。


「あのね、父上を助けてくれてありがとう」


ミイは感謝の言葉と、後ろ手に持っていたある物をユキへと差し出す。


それは白いお饅頭だった。


小さいながらも考えたミイのユキに対する、精一杯の感謝の気持ちを形にしたものであった。


饅頭? 一体何のつもりでしょう?”


ユキはミイが御礼をしている事は理解出来る。でも何故に饅頭なのかは分からなかった。


「私の1番好きなものなの」


ミイは純粋な笑顔で、ユキに饅頭を手渡した。


「ありがとうございます……」


ユキはミイから饅頭を受け取るが、戸惑いを隠せない。


“これをどうしろと?”


「凄く美味しいから食べてね」


饅頭をユキに渡したミイは、手を振りながら家を後にする。


そして最後に振り向いてーー


“本当にありがとう”


ーーと。


「ミイはね、本当に嬉しかったのよ」


アミは饅頭片手に立ちすくんでいるユキの頭に手を乗せる。


「その御礼として、1番好きな饅頭を持ってくるなんて。ふふふ、ミイらしい」


「分かりませんよ……」


ユキは手の平にある饅頭を見つめた。


白く、小さな饅頭を。


「そんな事言わないの」


それでもアミはユキの頭を優しく撫でた。


“分からない……”


ユキは白い饅頭を一口、よく咀嚼してから飲み込む。


「美味しいでしょ?」


「甘いだけですよ」


そう、饅頭は糖分の塊なのだから甘いだけ。それ以上でもそれ以下でも無い。


しかしそれは、いつか食べた饅頭とは何処か違う気がした。


「それはね、ミイの気持ちが込められているの」


アミがユキの気持ちを見透かしたかの様に、優しい瞳で語りかける。


“気持ち?”


彼には、その気持ちが何かは分からなかった。


でもこれまでとは何か違っていた。


ーーそう、何かが変わり始めていた日の事。
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