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第5章 阿鼻叫喚~ 辺獄空間の死闘

一話 地獄絵図

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シグレの全方位を包む水蒸気は高濃度な迄に圧縮され、今にも弾けそうであった。


“――駄目だ! 間に合わない!!”


シグレが村雨を振り翳す。正に一瞬連斬。常人の目には、幾多もの閃光が走った様にしか見えない。


「伏せろぉぉぉぉぉ!!」


刹那、ユキの叫び声が空気を切り裂くが如く響き渡る。


『えっ!?』


『何だ!?』


『一体……何が?』


“――ユキ!?”


シグレの剣閃が四方八方へと、何かが破裂する様な音が一瞬だけ辺りへと響き渡った。


「ちっ!!」


ユキはその瞬間には、既に行動を終えていた。自らの前方位に、巨大な氷の柱を生み出していたのだ。そしてその氷の柱が、何かとぶつかり合う衝撃で崩れ落ちるまで、実にほんの刹那の刻の事。


永遠にも感じられた、この一連の出来事。


シグレが村雨を振り翳してから現在の静寂に到る迄、その間僅か5秒余りの出来事であった。


『一体……何が?』


誰もが異変に気付いたのは、その直後の事。


“ーーっ!!”


彼の叫び声の意味が漸く理解出来た。否、理解したくは無かった。


伏せる事無く、呆然と立ち竦んでいた者達に異変が起こる。


『嘘だ……』


『そんな……』


各々の身体に、赤い線状のものが次々と浮かび上がっていく。


ある者は胴。ある者は首。ある者は顔の一部。各々が異なる、受け入れ難い赤い線。


『あ……ああぁーー』


それが合図の皮切りであるかの様に、同時に赤い鮮血が身体から破裂し、一気に吹き上がった。


自分が斬られている事も気付かない活け作りの魚の様に、各々の分離した身体の部位が鮮血と共にずり落ち、無造作に地面へと転がり落ちていく。


「うぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「きぃゃあぁぁぁぁぁぁ!!」


「ヒィィィィィ!!」


辛うじて難を逃れた者達は、その惨状を目の当たりにして悲鳴とも似つかない、声にならない絶叫を響き渡らせる。


静寂から突如訪れた惨劇。現場は酸鼻を極め、怒号と悲鳴の交錯する阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
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