塩と砂糖

高本 顕杜

文字の大きさ
上 下
1 / 1

塩と砂糖

しおりを挟む
 ――あれ、俺、今どっち入れた?
 大樹は、それぞれの手にある塩と砂糖の小瓶を見つめ、困惑した。

 今日は、帰りの遅い彼女に代わり、大樹が夕食を作る事になっていた。料理などほとんどしない大樹が選んだメニューは、冷蔵庫にある野菜の適当炒めだった。野菜を適当に切って、適当に炒めて、適当に味付けするだけ。楽勝だろう、そう意気揚々とキッチンに立った大樹だったが、味付けの工程の時、判明してしまったのだ――。
 全ての黒幕たる犯人が!
 大樹は、その瞬間、驚嘆の声を上げ、ドラマを流しているスマホにかじりついた。そうしてそのまま、横目ですくった白い調味料を、フライパンへ振りかけたのだった。

 ――こりゃ、また怒られるなぁ。
 大樹は頭を抱えた。以前にも同じようにやらかした事があった。その時は、激甘料理を作ってしまい、食材を無駄にして! と彼女にこっぴどく怒られることとなった。
 数時間後くらうであろう説教の事を考え、項垂れる大樹だったが、いやまて、と頭をあげた。打開策がひらめいたのだ。
 ――前回怒られたのは、味見もせず料理を食卓に出してしまったからだ。だから俺も事前に気が付けず、怒られるハメになった。ならば話は簡単だ。味見をすればいいじゃないか。ちゃんと塩が入っているなら、万事解決だ。もし、砂糖が入ってしまっていれば、証拠隠滅のために今作っているものは食べてしまおう。そして、新たに作り直してしまえばいいんだ。
 良案の至った大樹は、さっそく箸でフライパンの中のキャベツを一欠片つまむと、おそるおそる口へと運び、噛みしめた。
 瞬間、大樹は箸をキッチンに叩きつける。
 ――や、やった!! しょっぱい!!
 これで、彼女に怒られることも、余計に腹を膨らませる事もなくなった。一件落着。諸事万端。
 大樹は、心地いい脱力感に襲われ、丸椅子に腰を預けた。それから、料理の支度が終わってから、優雅に飲もうと淹れていたコーヒーに手を伸ばす。大業を成し遂げた後の様な解放感に包まれながら、コーヒーを口に含んだ。
 しかし、瞬間、予想だにしなかった刺激が口の中を刺した。

「しょっぱ!!」
 
 大樹は思わず飛び上がり、コーヒーを吹き出した。
 よそ見していたのは料理の時だけではなかったのだ。
 そして、大樹より拡散されたコーヒーは、スコールの如く降り注ぎ、フライパンの中を濡らすのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

ChatGPTに陰謀論を作ってもらうことにしました

月歌(ツキウタ)
ライト文芸
ChatGPTとコミュニケーションを取りながら、陰謀論を作ってもらいます。倫理観の高いChatGPTに陰謀論を語らせましょう。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...