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第20話 本質
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市場で買い物を終えたクロエは、家路についていた。
いつの間にか、日は暮れており、海に沈んでいく夕焼けの景色が美しかった。
「・・・綺麗」
汚れた自分とは、対照的な美しい夕日に照らされて、自然と涙が溢れ出る。
16歳の誕生日パーティーを境に、人生が一変してしまった。
淫魔にされ、未だに犯人の見当も付かない。
快楽と獣の精子を啜る事でしか生きられない身体に、日に日に順応している自分がいる。
魂の奥底に刻まれた歪な欲望が、頭から離れない。
身体に刻み込まれた快感に依存してしまう。
こんな変態行為をして欲情する自分は本当の自分では無い。
・・・心の奥底では気付いていた。
陵辱・恐怖・焦燥・恥辱・屈辱・苦痛・・・ありとあらゆる不快な感情や行為が快感に変換されてしまう違和感。
身体に、心に異常をきたしている事は確実だが、原因の心当たりが多過ぎて、分からない。
淫魔にされた事で、体質が変化したのか?
小鬼に付けられた快楽のピアスの影響か?
下腹部に刻まれた淫魔の刻印による効果なのか?
それとも・・・。
正直、原因はなんだって良かった。
問題は、この偽物の快感や欲望が、次第に偽物では無くなって来ていると言う事だ。
例え、作られた快感でも、快感には変わり無い。
この燃え盛る炎の様な強烈な快感に、何度も曝された肉体は、普通の快楽では満足出来ない身体にされてしまった。
陵辱され、汚される喜びを知ってしまった心は、優しさでは無く、土足で踏み荒らされる事を望んでいる。
強過ぎる刺激に慣れてしまった魂は、もう普通の刺激では満足出来ない。
偽物だったモノは、いつの間にか、クロエの本質になっていた。
もう・・・後戻りは出来ない。
人は、成長と共に変化する生き物だ。
貴族令嬢としてのプライドを捨てて、平民に堕ちた自分を受け入れた様に、変態に成り下がった自分を受け入れなければいけない。
私は・・・どうしようも無い変態なのだから。
家に着くと、黒騎士が出迎えてくれた。
「・・・綺麗になってる」
指示通り、クロエがいない間に家のお掃除をしていてくれた様で、埃も綺麗に拭き取られており、床もピカピカだ。
屋根裏部屋のベッドも布団を干したのか、フカフカになっていた。
クロエは、買ってきた雑貨や食料をしまい、夜ご飯を作ろうとして、お腹が空いていない事に気が付いた。
「・・・生命力を奪わなくても、それなりに満たされるのね」
どうやら、胎内に精子を取り込むだけでも、十分なエネルギー補給が出来る様だ。
「明日から本格的に冒険者の仕事を始めないとなぁ・・・」
仕事をしなくても、ある程度なら生きていけるくらいのお金は持ち合わせている。
それに、淫魔であるクロエには、人間の食事が必須では無いので、正直なところ、お金はそこまで必要では無い。
ただ、何もしないと言うのは、如何にも落ち着かないのだ。
人には、それぞれの立場や役割が存在する。
貴族であれば、領地の管理や税金の徴収、騎士であれば、戦争や国の治安維持、貴族令嬢であれば、結婚して後継を産む事だった。
それは、平民であっても変わらない。
農民や鍛治師にパン屋から花屋まで、それぞれがそれぞれの立場や役割を担っている。
そうやって、色んな人が歯車の様に関係し合って、社会は回っている。
役割の無い人間は、社会との接点が無くなり、孤独で不安になる。
だから、私にとっての役割は、冒険者の仕事だ。
冒険者をしている間は、私が人間として生きていると実感できる。
翌日、クロエは、再び冒険者ギルドを訪れていた。
「どの依頼にしようかな?」
朝の冒険者ギルドは、依頼の取り合いで混雑している。
基本的に依頼の受注は早い者勝ちであり、簡単で高収入な依頼を取るために朝早くから人が殺到するからだ。
しかし、クロエには、あまり関係は無かった。
Dランクである事もそうだが、クロエは、楽で高収入な仕事は求めていないからだ。
「よお!また会ったな」
依頼掲示板を眺めていると、昨日の銀髪の少年が声を掛けてきた。
まるで、クロエが来るのを待っていたかの様なタイミングだ。
「・・・何ですか?」
クロエは、不審者を見る目で少年を見つめる。
「考え直す気は無いか?」
恐らく、昨日の冒険者パーティーへの勧誘の事を言っているのだろう。
しかし、クロエは、ソロで活動する予定であり、冒険者パーティーに入る気は最初から無かった。
「すみませんが、独りで活動したいので・・・」
正体をバレたくないと言うのもあるが・・・人に見られたく無いと言うのが正直なところだった。
「お前・・・早死にするぞ?」
少年は、寂しそうにクロエを見つめる。
恐らく、純粋に心配してくれているのだろう。
確かに、クロエくらいの年齢の冒険者は死亡率が高い。
きっと、この少年も死んで行く仲間を沢山見て来たのだろう。
「そうかも知れませんね」
クロエは、笑みを浮かべる。
この3年間で幾度と無く死の危険を経験してきた。
冒険者という仕事を選んだ以上、死の危険は付きものだ。
「お前みたいな器量の良い女なら、他に幾らでも生きて行く方法はあるのに、なんでわざわざ、こんな危険な冒険者の道を選ぶんだよ?」
確かに、器量の良い孤児の少女は、娼館で働いたり、貴族の妾になったりする者も多い。
「・・・私に娼館で働けと?」
クロエは、鋭い視線を少年に向ける。
「いや、違う、そうじゃなくて・・・」
銀髪の少年は、クロエに睨まれて狼狽える。
「・・・私の事は放っておいて下さい」
クロエは、少年を無視して、依頼掲示板から一枚の依頼書を剥がして、受付へ持って行った。
いつの間にか、日は暮れており、海に沈んでいく夕焼けの景色が美しかった。
「・・・綺麗」
汚れた自分とは、対照的な美しい夕日に照らされて、自然と涙が溢れ出る。
16歳の誕生日パーティーを境に、人生が一変してしまった。
淫魔にされ、未だに犯人の見当も付かない。
快楽と獣の精子を啜る事でしか生きられない身体に、日に日に順応している自分がいる。
魂の奥底に刻まれた歪な欲望が、頭から離れない。
身体に刻み込まれた快感に依存してしまう。
こんな変態行為をして欲情する自分は本当の自分では無い。
・・・心の奥底では気付いていた。
陵辱・恐怖・焦燥・恥辱・屈辱・苦痛・・・ありとあらゆる不快な感情や行為が快感に変換されてしまう違和感。
身体に、心に異常をきたしている事は確実だが、原因の心当たりが多過ぎて、分からない。
淫魔にされた事で、体質が変化したのか?
小鬼に付けられた快楽のピアスの影響か?
下腹部に刻まれた淫魔の刻印による効果なのか?
それとも・・・。
正直、原因はなんだって良かった。
問題は、この偽物の快感や欲望が、次第に偽物では無くなって来ていると言う事だ。
例え、作られた快感でも、快感には変わり無い。
この燃え盛る炎の様な強烈な快感に、何度も曝された肉体は、普通の快楽では満足出来ない身体にされてしまった。
陵辱され、汚される喜びを知ってしまった心は、優しさでは無く、土足で踏み荒らされる事を望んでいる。
強過ぎる刺激に慣れてしまった魂は、もう普通の刺激では満足出来ない。
偽物だったモノは、いつの間にか、クロエの本質になっていた。
もう・・・後戻りは出来ない。
人は、成長と共に変化する生き物だ。
貴族令嬢としてのプライドを捨てて、平民に堕ちた自分を受け入れた様に、変態に成り下がった自分を受け入れなければいけない。
私は・・・どうしようも無い変態なのだから。
家に着くと、黒騎士が出迎えてくれた。
「・・・綺麗になってる」
指示通り、クロエがいない間に家のお掃除をしていてくれた様で、埃も綺麗に拭き取られており、床もピカピカだ。
屋根裏部屋のベッドも布団を干したのか、フカフカになっていた。
クロエは、買ってきた雑貨や食料をしまい、夜ご飯を作ろうとして、お腹が空いていない事に気が付いた。
「・・・生命力を奪わなくても、それなりに満たされるのね」
どうやら、胎内に精子を取り込むだけでも、十分なエネルギー補給が出来る様だ。
「明日から本格的に冒険者の仕事を始めないとなぁ・・・」
仕事をしなくても、ある程度なら生きていけるくらいのお金は持ち合わせている。
それに、淫魔であるクロエには、人間の食事が必須では無いので、正直なところ、お金はそこまで必要では無い。
ただ、何もしないと言うのは、如何にも落ち着かないのだ。
人には、それぞれの立場や役割が存在する。
貴族であれば、領地の管理や税金の徴収、騎士であれば、戦争や国の治安維持、貴族令嬢であれば、結婚して後継を産む事だった。
それは、平民であっても変わらない。
農民や鍛治師にパン屋から花屋まで、それぞれがそれぞれの立場や役割を担っている。
そうやって、色んな人が歯車の様に関係し合って、社会は回っている。
役割の無い人間は、社会との接点が無くなり、孤独で不安になる。
だから、私にとっての役割は、冒険者の仕事だ。
冒険者をしている間は、私が人間として生きていると実感できる。
翌日、クロエは、再び冒険者ギルドを訪れていた。
「どの依頼にしようかな?」
朝の冒険者ギルドは、依頼の取り合いで混雑している。
基本的に依頼の受注は早い者勝ちであり、簡単で高収入な依頼を取るために朝早くから人が殺到するからだ。
しかし、クロエには、あまり関係は無かった。
Dランクである事もそうだが、クロエは、楽で高収入な仕事は求めていないからだ。
「よお!また会ったな」
依頼掲示板を眺めていると、昨日の銀髪の少年が声を掛けてきた。
まるで、クロエが来るのを待っていたかの様なタイミングだ。
「・・・何ですか?」
クロエは、不審者を見る目で少年を見つめる。
「考え直す気は無いか?」
恐らく、昨日の冒険者パーティーへの勧誘の事を言っているのだろう。
しかし、クロエは、ソロで活動する予定であり、冒険者パーティーに入る気は最初から無かった。
「すみませんが、独りで活動したいので・・・」
正体をバレたくないと言うのもあるが・・・人に見られたく無いと言うのが正直なところだった。
「お前・・・早死にするぞ?」
少年は、寂しそうにクロエを見つめる。
恐らく、純粋に心配してくれているのだろう。
確かに、クロエくらいの年齢の冒険者は死亡率が高い。
きっと、この少年も死んで行く仲間を沢山見て来たのだろう。
「そうかも知れませんね」
クロエは、笑みを浮かべる。
この3年間で幾度と無く死の危険を経験してきた。
冒険者という仕事を選んだ以上、死の危険は付きものだ。
「お前みたいな器量の良い女なら、他に幾らでも生きて行く方法はあるのに、なんでわざわざ、こんな危険な冒険者の道を選ぶんだよ?」
確かに、器量の良い孤児の少女は、娼館で働いたり、貴族の妾になったりする者も多い。
「・・・私に娼館で働けと?」
クロエは、鋭い視線を少年に向ける。
「いや、違う、そうじゃなくて・・・」
銀髪の少年は、クロエに睨まれて狼狽える。
「・・・私の事は放っておいて下さい」
クロエは、少年を無視して、依頼掲示板から一枚の依頼書を剥がして、受付へ持って行った。
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