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第一章 一日目 朝 転んだらダンジョン
★(1 ) 教皇の悩み
しおりを挟む12才の教皇
ダンジョンへの石組みの長い長い階段を気を失うほど下りて下りてモンスター討伐しながら迷路をさ迷いそれから死に物狂いで上りきると、噂の国に辿り着くと言う。その名もアガイガタンディの雲上に栄える空中都市ピチョマチャ救世教国スメタナ。教皇位に座す支配者は十二才のガキ。
薄絹の窓辺から夜明けの風を求める。庭木や草花の露が細かく光るのが見えた。
「開戦か、それともドラゴルーン崇拝帝国の植民地に成り下がる同盟か。困ったものだ」
教皇が心痛を漏らす。仮に、この異世界の教皇がシェークスピアを知っていたなら、ハムレットの「生きるべきか死すべきか」というセリフに共鳴しただろう。若すぎる教皇は溜め息をついた。背後に傅くスメタナの『声』が囁く。
「ご心痛お察し致します、聖下。ですからこの私は牢に参ります」
「声よ、お前に罪はない。もう何度も占い、神楽まで舞わせてみたが答えは同じ。それでも何度も占いに頼る余が愚かなのだ」
声はシャラランと金鎖のたてる涼やかな音と共にゆるりと立ち上がると、教皇に近づいた。
「確かにご神託はドラゴルーン支配を示しております。それに、下々の願いも同じく、ドラゴルーンによる世界統一を再び願っております。ですが、それはリンジャンゲルハルト帝国の世界制覇の戦略なのでございます。聖下は決して愚かなのではございません。再び人身御供を立てて」
暗がりから一歩一歩進み、登り始めた朝日に次第に姿を現す。緋色と紫に金と宝石の装飾で飾り立てた皇太后とも見粉う豪華な姿。
「いや、余は若輩であろうとも世界の最も高き処で神を奉じる空中都市、救世教国スメタナの教皇である。ドラゴルーンへの人身御供などもう二度と捧げとうはない」
「承知しておりますとも」
声の腕が背後から教皇の肩を柔らかく包む。
「声よ、母親の真似事は止めぬか。余は神の御世を待ちたいのだ」
「いいえ、いいえ」
声の腕にちからが入る。ギュッと抱き締める。
「聖下、ドラゴルーンには」
「声よ、如何にドラゴルーンがこの世に君臨するとしても、奴らは神ではなく我らと同じ被造物の立場である。ドラゴルーンを崇めてはならぬ。同盟国サザンダーレア王国とて精神はこのスメタナと同じ。余を支えてくれているではないか」
「聖下、恐れながら申し上げます。彼のサザンダーレアは人間の自治力による世界平和を実現しようとしている軍事国家でございます。彼の者、飛ぶ女、オルト婢呼眼によってリンジャンゲルハルトを叩き潰せたとしても、次は全ての国を潰し、世界統一を果たし、迎える未来は戦前のドラゴルーンによる統一時代と同じく、軍事強国サザンダーレアが政治の頂点に立つことでしょう。その点が、神権政治を求める我がスメタナ教国とは異なります。それに、五年前に人身御供を捧げてから一応の平和は訪れましたが、人の世とは相も変わららぬものでございます。多くのドラゴルーンが天空を飛び回っていた統一時代でさえ、世界には小さな紛争や犯罪は絶えなかったと歴史の語る点を鑑みれば、たとえサザンダーレアが統治しても今とたいして変わりますまい」
「声よ、たとえその通りだとしても、このままではあの大帝国リンジャンゲルハルトとの戦争になる。声よ、今宵再び、そして最後の、誠に最後の神託神楽を頼むぞ」
声は震撼して離れた。
一度出た神託を占い直してはならない、という神殿法規は既に何度も破られているが、巫女たちが輪になって踊る神楽舞の、魔方陣に出る答えはいつも同じ。それでも教皇は違う導きを求める。
「畏み、畏み、賜りましてございます」
声は床に平頭してしばらく身動ぎせず、肩を震わせた。
「泣くでない。どんな結果になろうとも、お前に罪はない」
朝焼けの差し込む窓辺から、幼いながらも心労に青ざめた面立ちが『声』を振り向く。声から離れた暗がりで巫女たちも平頭していた。
占いはドラゴルーンの世の再来を示してきた。七十年ほど前に自治権を手にしてからというもの、人類は未だに世界平和を構築できていない。業を煮やしたリンジャンゲルハルト帝国は、ドラゴルーンを拝して世界制覇を狙い、スメタナ教国に同盟を要請していた。
余は同盟国サザンダーレア王国を裏切りたくはない。それに、余は五年前の人身御供を覚えている。当時、余は七歳であったが、捧げられた斎姫のこの世の者とは思えないみ姿に畏れを抱いた。だが、天の声はドラゴルーンの世を来たらす為に
動けと云う……
占いの盤上で光るものがある。
「声よ、盤上に変化が」
声が紅い顔を上げた。若い巫女たちも顔を上げ目を瞠く。
盤上のドラゴンダンジョンを示す賽が光っている。
ダンジョンへの階段。降りてまた登ると異世界。
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