中学生溺愛王子はお化粧男子 777文字小説

27 チョコちゃん劇場

昼あとにやっぱり外出してみようと思って、一年ぶりに街に出た。人が少ないのかな。この時間は学校だったから、よくわからないけれど、人通りがない方が外出訓練になる。

スーパーに寄った。案外、買い物客はいる。ゴーストタウンではないから、買い物客がいるのは想定していたけれど、家族以外の人間を現実に見るのは驚異的ですらある。一年ぶりというのは長い。テレビの中のサイズとは違う。すれ違う時も、臭うような生身の感覚が強烈に押し寄せる。

僕はコマルナが怖くなった。

のど飴とスポーツドリンクとうがい薬を買って丸パナリアパートに行った。一階二号室。ドアの前に立つ。レジ袋をドアノブに掛けて帰るつもりが、ふと思い立って裏に回った。

駐車場の側に窓がある。チョコちゃんの声がした。英語の教科書を音読している。

真面目にやっているんだ。イントネーションの滅り張りがもう少しあれば聞ける。

「ホストに向いているよ」

「とんでもない。僕はチョコちゃんにだけだよ。どうしたの、本当のことだよ」

急に声が変わった。

「もうダメ、チョコはメロメロ。トロケル」

え……それって僕にも言った。

「チョコちゃんが刺激的だから、れずびあんとか画像チューとかハリウッドまで追いかけてとか」

「でも、もうチョコだけの波流君ではなくなる」

あれ……僕の名前。ラインメールの音読か。

「そんなことないよ。れずびあんはチョコちゃんとだけだよ」

「きゃあああ……れずびあん王子に溺愛されています。もうトロケル。メロメロ。ファンタジー。きゃっほう」

わははは……ヤバい。爆笑しかけた。
僕は口を押さえて窓から離れた。チョコちゃんの英語の音読が聞こえる。独りでも楽しそうだ。

やっぱりドアノブにレジ袋を掛けて帰ることにした。

（チョコちゃん、ドアノブ見て）

（うん。待って、見てみるね）

僕はもうアパートから二十メートルは離れている。

（波流君、いまどこ）