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第七話 姉妹

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痩せた影に駆け寄って声をかけた。


「お姉ちゃん。お姉ちゃんよね……」


振り返る顔に見覚えがある。


「私に妹はいないけど」


長い髪の毛に隠れて顔の半分は見えにくいけど、間違いない。


「私を忘れたの。お姉ちゃんは長いこと意識不明で、私もたまには面会に行ったけど……お姉ちゃん……お姉ちゃんは金属バットを持って復讐してくれたのに、ごめんね。私、お姉ちゃんの役に立てなくて」

「復讐……」

「そうよ。私も思い出したくないけれど、お姉ちゃんは私のためにレイプ犯に復讐してくれたのよ」

「復讐……」

「お姉ちゃんに感謝してたのに、お礼も言えなくて」

「私があなたのために復讐したの」

「そうよ。私のために……有り難う、お姉ちゃん」


淡いブルーストライプの病院服の上下に茶色の院内スリッパを履いている姉の、痩せた腕を掴む。


「記憶が混濁している。あなたのために復讐したとして、私はそれからどうしたの」


真正面から顔を見た。生気のない青白い顔だが紛れもなく姉だ。


「お姉ちゃん、ジュダス教から悪魔の輪廻教会に改宗したよね。多分そのあと直ぐに震災で……」


地割れで建物自体が三十メートル落下した恐ろしい事件だった。 


「やっぱりそうなの。で、あんたは何故ここにいるの」

「バス事故で記憶が飛んで……」

「お父さんとお母さんは……」

「あの災害でお姉ちゃんが意識不明で救助されてから、二人ともすっかり口を利かなくなって。お姉ちゃん以外に助かった人はいなかったからお姉ちゃんは運が良かった方なのよ。でも、こんなところで再会するなんて……互いに大した運でもなかったか」


間隅 李阿羅マスミ リアラの僕のようになったのは、李阿羅が金銭的に恵まれたクラスメートで向こうの方から近づいてきたからだった。

私はレイプ事件の被害者として人生終わったも同じでストレス溜まっていたから、李阿羅に誘われた学校帰りのカラオケはストレス解消になるし、李阿羅も悪いことばかりをしていたわけではなかったから何となくつるんでいたけれど、李阿羅が仲間に入れたがったもう一人のクラスメートとの間で問題を起こしてからは、ギクシャクするようになった。


だって……
集団レイプだと聞いたから


「そうね。私は長期入院で記憶混濁してるから整理したいのだけど、金属バットで闇討ちしたのはあんたのためだったと言うのね。自分のことのように夢を見ていたのよ」


 間隅李阿羅のお兄さんのクラスメートが大怪我したから、一緒に見舞に行こうと言われて病院についていったことがある。


「長期間の睡眠障害かな。お姉ちゃんは事実と違うことを夢の中で経験していたのかもね」


包帯に巻かれた男子先輩のベッドの前で、李阿羅が何かを落として私がそれを拾いながら、お辞儀をしているみたいに見えるかもと思ったっけ。


「まあ、夢のほとんどは現実とは違うもの。仕方ないけど、あんたと会って事実確認できたのは良かったのかな」


その逆パターンもあった。退院したその先輩が私の前で腰を折り曲げて頭を下げるような素振りを見せた。李阿羅がスマホで撮影しているみたいだったけど、メール来てたからと誤魔化されて確認まではしなかった。


「そうだね。良かったんだよ。だって、お父さんとお母さんは生きてるよ。心配しているはずだから、どうしても謎を解いて戻らなければ。ね、二人で一緒に戻ろう」

「そうだね。一緒に戻ろう。そのために会わせてもらったのかもしれない」


間隅李阿羅の悪巧みはあいつのお兄さんのグループを使うことだったから、内情はよく知らないけれど、もしもあのレイプ事件が李阿羅の画策したことだったのなら許せない。


お姉ちゃんは金属バットで復讐をしてくれたのに

もしかしたらわたしが相手に謝ったかのような

或いは相手がわたしに謝ったかのような
フェイク動画とかを作成されていたりして……

あの時、冗談を言われて私の顔は笑っていた
フェイク動画とか作られていたら不味い

ううん、単なる妄想よ、そんなことする訳が

でも、妄想がもしも本当なら……
間隅李阿羅を許せない


「お姉ちゃんが金属バットで襲った相手のこと、どうやってわかったの」

「そんなグループがそうそういるものではないじゃない。だから目星をつけて接近して吐かせたのよ。間隅のグループに。あんたを襲わせたのはあいつの妹よ。間隅李阿羅ったっけ。私はそいつをやり損ねたのだけが心残りなのよね」

「お姉ちゃん……ううっ……私はさっきまで、その子と一緒にいた……」


紙切れが飛んできた。私の顔に張り付く。


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