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女王の嘆き
しおりを挟む昔、少しばかり関わったジュダス教祖は輪廻否定主義者だから、人間は他人として生まれ変わることはないと言う。
どうかな、それは……
人間が生まれ変わらなかったら
地球でこれまで死んだ魂は
何処に消えたのか
また、私の場合
今のことだが
生まれ変わりではなく
転生だけど……
私は、教祖の教えに反して、あの最悪の輪廻教会と交わった。いまから思えば全くバカなことをしたものだ。
輪廻教会の儀式の最中に不慮の事故で転生した私は、地獄とおぼしき残忍な拷問施設の女王として君臨している。金ペカペカの椅子はフカフカよ。
黒い鳥羽の衣裳はキラキラギラギラ光る。私の顔は石膏色の肌にギラギラ色の隈取りが施されて、誰だ、こんな悪魔センスのメイクをしやがったのはっ。腹立ちは紛れない。
一体どうしろというのだ
夢ではないらしいから
どうにもならない
拷問なんて
したくはないのよね
疲れるし疲れるし疲れるし
疲れるし
疲れる
でも
逃げるところもないのよね
何よ、この編みタイツ
赤と黒の斑よ
5センチもある爪で
引っ掻いてしまった
先の尖りきった
黒いレザーのピンヒールも
片方飛んでったから
片方だけニーハイブーツよ
誰が履かせたのよっ
ぼんやりと辺りを見渡して
窓から外を見たら
もとの世界が見えた
金ペカペカから窓辺に叫ぶ
「お父さん、お母さんっ」
私がまだ中学生だった頃に
住んでいた懐かしい家
両親も若い
この窓、テレビみたいだ
家族でテーブルを囲んでいる
ドラマみたいに仲良くて
場面が変わった
高校生の私が
ボロボロになって
帰ってくるなり
母が足蹴にした
『夜遊びしないでと言ったでしょ
驚いて茫然とする私が映る
喧嘩してきたと思ったようだ
実際に過去にあったことなのに
自分自身が他人みたいに見える
シャワーを浴びて涙を流す
画面の中の私は
悲しみの後に腹が立って
それで翌日、金属バットを買い
深夜に家を抜け出して
同級生男子と先輩の何人かを
一晩に二人か三人
連続三日間で全員を
闇討ちして半殺しにした
全員、半身不随
或いは意識不明
殺さなかったことを祝ってくれ
今はそう思う
拷問施設の女王だからか
しかし当時は
自分の復讐の罪に戦いて
半狂乱になり
ジュダス教徒と関わって
ジュダス聖書を学び
エホバの証人の訪問を断り
一心にジュダス教を信仰した
あれを断ったのは
まずかったかな……
私が熱心に信奉していたジュダス教は、輪廻否定主義を掲げ、沸教・辞意同教・原真主義教から信者を奪い取っていた。
そして、巨大に膨れ上がったジュダス教は、死に行く魂である信者のためにひとつの星を用意していると嘯いた。
『人は地球で死んで新たに新しい天のある新しい地で生まれ直す。善良な信者だけが甦る。それは輪廻ではなく、地球での記憶を持った自分のまま、地球にいたときとは全く違う完全な肉体として育つ。全く違っても愛する家族にはその人だとわかる。それが輪廻否定主義教だ』
ホントかよ
何処の星だって
此処のことか
では私は死んだのか
そうだよね
事故に遭ったんだもの
生きてはいないか
悪魔の輪廻教会の
儀式の最中だった
地震と地割れ
建造物倒壊
多くの人が死んだはずだ
そして、私は……
待て
教理とは違うではないか
ジュダス教なら
死んだのならもう一度
自分として生まれ直すはずだ
それが輪廻否定主義教だ
見かけは違うが
愛する家族には
私だとわかると
確かに見かけは違うが
中身は私だ
しかし
愛する家族がどこにいる
窓の外の過去画面の中にか
彼らは私を認識できない
落胆だよ、ジュダス教
悪魔の輪廻教会にも
漏れずに落胆だ
全く違う人間に
生まれるのではなかったか
どっちも嘘だったのか
どっちの教理もカネ集めの
真っ赤な嘘だったのか
私は外見も
元の私とはかなり違う
やってることも全然違う
過去世界の記憶はある
決して輪廻ではない
初めから大人として存在している
兎に角
ジュダス教についても
悪魔の輪廻教会についても
一家言あれども
最早どうにもならない
蹴り倒しに行こうにも
ここは辺鄙な異世界だ
私の管理している世界には
あの意識不明者と半身不随者も
牢で私の裁きを待っている
今日こそは聞きに行こうか
何故、こうなったか知っているか
覚えているか
あなたがた自身がやったことを
今更、反省しても遅いのだけど
一応聞かせてもらおうか
「この死の国転移の悔い改め召喚に
あなたがたの存在する理由を申せ」と
目の前には大きな画面があって、新約聖書の黙示録に似た燃える硫黄の湖も見える。
私はふと、過去を振り返った。窓に見える過去世界の中で、両親も嬉し泣きをしている。私の授賞式をホテルのパーティーホールで大々的に行った時に、離婚寸前だった両親はよりを戻し、私とも和解した。
「あぁ……あんな時代もあったのに……」
悪いことばかりではなかったと、画面の中の他人みたいな私が笑顔で伝える。
他人事みたいに遠い……
もう、戻れない世界
地球の片隅で痛みと共に
様々な感情を抱いて
私は確実に生きていた
それともあれは夢だったのか
私が生きていた地球の人生こそが
夢だったと言うのか
いや違う
夢ではない
あの夜に殺しかけた男たちが
私の両親に土下座して
許しを乞う姿を
私は期待している
土下座して
私に許しを乞う姿を
期待している
許さない
許さないから
神に許しを乞え
と答えよう
以前、私はジュダス教徒としての信仰を捨て、悪魔の輪廻教会にすがった。それなのに、この世界にはジュダス教も悪魔の輪廻教会も存在しない。今では私が女王だ。
さて、どうするか……
私には真の神を探し求めるという贅沢な願望は持ち得ないのか……
地球にいた頃にさ迷って多くの曲がり道を歪んで生きた私には、今更、真理を求めることは許されないのか……
真理とは何か……
私は答えを知っている
真理とは
生ける神の存在を
認めてはじめて手にすることのできる幸福だ
ああ……
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