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第二章 赤嶺怜の日記
求め続けよ
しおりを挟む忘れたくない重要なことは何かと問う。
全て過去の中に埋没していることに気づく。
生きていく上で最低限必要な記憶は徘徊老人と同じレベルだと誰しも思うらしいが、最低限で生きて行けるのか……
何もかも忘れて自分を失ったら、施設にも入れなくてホームレスになるしかないという。恐ろしい話だ。
こぎとえるごすむ
こぎとえるごすむと、誰が言ったか。
私が認識するから世界は在ると。
そうだ、自作のセレナーデも忘れたくないもののひとつだが、作曲したことさえも忘れてしまえばそれで惜しむこともない。
他人に盗まれることは許し難いが、忘れるなら問題にすることもできないのが、辛い事実だ。
許す許さないの問題ではなくなって、人は何故、罪を犯すのかという問題になる。
名前が無くても過去が無くても、衣食住さえあれば人は生きていけるものなのだ。
たったひとつの宝物でさえ、視点を変えれば桎梏となる。
夜の帷が夕日の茜を奪い、黎明の空から星々が姿を消してゆく。
この世の呪縛から開放されるには忘れることだ。
しかし、解放された後には何が残るのだろう。アダムとイブは何のために創造されたのか。
脳内宇宙が振盪する。
創造の目的……条件付きの自由、相対概念と絶対権。
人間に完全な自由はあるのか。
神と人間の相対概念。
神の支配者としての絶対権。
ピコ・デラ・ミランドラは「人は、神の似姿と云われる由縁は自己決定の自由にある(広辞苑)」とした。
禁断の木の実から知識を得ることを神は何故、忌んだのだろう。
完全に解放された者は何処へ向かうのだろう。
この星こそがモロー博士の島だとしたら、完全に解放された者の行き先はない。
求め続けよ、さらば与えられ
叩き続けよ、さらば開かれん。
聖書マタイ七章七節
大切なことを忘れないように……
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