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第二章 赤嶺怜の日記
Felix Kleinの壺
しおりを挟むフェリックス・クラインの
壺の中で見上げる空は
頭を振れば
硝子の厚みに揺らぐ青
飛行機雲は
歪なシュプールを描く
壺の中で夢を見ている
意識は宇宙に飛び出すけれど
体内では毎日毎日三千億個の
細胞が勝手に死滅する
巨大な星の引力に
負けないように
宙で踏ん張ってみる
フエリックス・クラインの壺の
何処までも人に似た様
世に似た様
心に似た様よ
表が裏で裏が表の
夢の骸は溜め息となって
全てがソトヅラ
全てがウチヅラ
フエリックス・クラインの提示する
その壺の中で透明に溺れ
友の描いたゴッホの模写は
暗澹として
莫邃の淵から
とぐろを巻いて迫り来る腕
あれはきっと
病み疲れた者にしか
覗くことのできない
畏れというもの
フェリックス・クラインの壺の中で
巡り会ってもきっと
交わす言葉は
拳一個分の距離にあって
日々三千億個もの
犠牲の上に存在し
共に居並び
天を仰いだり
俯いたりしながら
霊感の指し示す
深淵より
アガペーなる者が降臨すると言う
その日を待つ
その日に壺は破壊され
闇は掻き消される
その日に
オーヴェールの教会の
空に垂れ込めるゴッホの闇は
癒しを得るのだろう
目は欲望のレンズを払拭し
畏れを湛えるものとなれ
安住できない壺の中で
夢を見ている
莫邃の淵から
とぐろを巻いて降る
底なしの空
そこが痛みの眠る墓
キメラの墓
フェリックス・クラインの
壺の中から
仰ぎ見る
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