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     青い花の咲き乱れる沼地(2)

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美味しそうな狐だこと……
あぁ、むしゃぶりつきたい……
でも、あの青い血が……

青く染まった姉さま狐は、沼の底で龍の傷に鱗を貼り付けていた。其の鱗は、フェリスのお城に住む人魚達と戦って手にいれた戦利品で、狐と人魚達のいがみ合いの原因だ。

フェリスのお城は沼地の底から海に出る細く長い道の途中にあった。フェリス貝殻を積み上げた巨大なお城の底に、大烏賊ピアバランが眠っていると言う。

龍は狐に約束した。

「ピアバランを起こすことなく人魚の鱗を剥ぎ取って、お前が私の傷を癒したら、地上に戻してやろう」

狐は答えた。

「私は嫌です。地上に戻る為に他人の鱗を剥ぎ取るなんて、酷すぎます」

「お前が嫌だと言うのなら、あのピラニアどもはお前を食ってしまうだろう。狐の肉に味を占めて、地上の妹を狙うだろう。お前は其れでいいのだな……」

龍は細目で睨む。

姉さま狐は龍の青い血をドレスように纏って美しい人魚の群れと戦っていたが、人魚が鋭い歯で噛みついても、青い血が直ぐに傷を癒した。

そして噛みついた人魚は姉さま狐に鱗を剥がれ、龍の血で美しい顔が青く染まるのを恐れ、泣いて逃げるのだった。

姉さま狐はそうやって手にいれた鱗を龍の傷口に貼り付けて、こんこんと眠り、次の日も、また次の日もフェリスの貝殻のお城に出向いては人魚と戦う。

朝も夜もない暮らしが何年も続いた。いくら鱗を貼り付けても、龍の負った傷は深く、くっついたはずの鱗は暫くすると枯れ葉のように剥がれ落ちてしまう。

姉さま狐は鬼狐になっていた。

「妹を守る為」青い毒のドレスを纏った鬼は、フェリスのお城の人魚達から鱗を剥ぎ取って「妹を守る為」

ある日、鬼狐はフェリスのお城に足を踏み入れた。

武器を持たない人魚達は、遠巻きに歯を剥き出して睨みつける。じりじり間合いを詰めようと取り囲んでも、鬼狐の青い毒のドレスがゆらりゆらりと獲物を狙う触手のように思えて、歯噛みするしかなかった。

「鱗が必要なのよ。鱗を頂戴。落ちた鱗があれば集めて頂戴。私は戦いたくないの」

「落ちるなんてことないわ」

「ならば奪い取るだけ」

鬼狐は人魚達に踊りかかった。

青い血のドレスに守られていなければ狐の方が殺されてしまうような場面だ。鬼となった姉さま狐は、憎しみを剥き出しにした美しくも恐ろしい顔の人魚達に襲いかかる。

人魚達は、散っては集まり散っては集まり、とうとう鬼狐をフェリス貝のお城の奥に誘い込んだ。沼地から離れて海の底の底へと誘い込む。

人魚の目が赤く光る暗い海。たくさんの赤い光りが揺れていた。其の向こうのもっと奥に、大きな赤い灯火が見える。

「あれはなに……あの灯火は……」

海水がうねる。深海の黒い海水が靄のように渦を巻く。

「お前か、鬼狐と言う奴は。悪龍の為に人魚の鱗を剥ぎ取ってもいいと思っているのか」

大きな声がした。

「龍様の傷が癒えなければ、私は地上に帰してもらえないのです」

「悪龍の傷を癒すだと……あの悪龍は天の戦いに破れて死ぬ身なのだ。人魚の鱗では癒せない。どうしてもと言うのなら、人間の血が必要だ。其れも、勇敢な若者。英雄の血だ。お前が地上に戻る為にもな……わかったら、悪龍に伝えておけ。これ以上人魚を襲うのであれば、此のピアバランが相手になると……」


鬼狐は暗い面持で龍の元に帰った。

「龍様……海の底のピアバランが目覚めてしまいました……あの者が申すには、あなた様の傷は人間の血でなければ癒されぬと

「水を通して聞こえた。成る程、俺は人間の血が好きだ……」

「あぁ……私には人間の血を得ることなどできそうにもありませぬ……
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