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第一章 復讐とカリギュラの恋

(40) 姉弟再会

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  もじゃもじゃ頭のサレは小間使いマロリーから耳打ちされていたことが現実に起きたので、夕食に出す予定だった前菜をマルチョパルポーレソースで楽しむ十二種類の蒸し野菜に変えて、メインディッシュは珍しい鯨肉のトロトロ煮付けやマルチョパルポーレのパテとフォアグラのバリエーション七種類、柔らかカブス肉の蒸し焼きとカブスシチュー、七種の野菜を裏ごししたカブスの一口スプーン、ヘナ・ノアルの毒蜘蛛カナッペ、トリュフとチョコレートのケーキやタルトレットなどのデザートを十五種類に増やして、テーブルから戻るトレーを見ながら子牛肉を焼いたりチキンを揚げたりあるものは何でも次々と出すことにした。



  
ヘシャス・ジャンヌはジグヴァンゼラを抱擁した。



「五年ぶりね、可愛い弟よ。あなたが苦しんでいるとき、何もしてあげられなくてごめんなさい。長いこと知らなかったのは、私が自分の不幸にばかり溺れていたからだわ。私の罪です。あなたはもう苦しまないで」



ジグヴァンゼラは涙を流したが心の中では死んだ少年や他の者たちへの贖罪がなされていないことを悔やみはじめた。



「ヘシャス姉様、私もあなたのことを記憶から消していました。私も自分の不幸に溺れて、自分以外のことには心を閉じていたからです。ああ、神よ、本当に、今日の日を感謝します。でなければこのカリギュラはどうなっていたことか」


「ふふ、あなたがカリギュラですって。あんなに可愛いかったあなたが……ジグヴァンゼラ、自分に戻るのよ。自分を取り戻すの。心まで悪に持っていかれてはならないわ。これからが本当の戦いよ。ルネがいなくなった今、ルネの影響を振り捨てて、光の道に行くの。もしも心に咎めを抱くなら、光の道を歩むことこそがあなたの贖罪だわ」



ヘシャス・ジャンヌは、オリバルート・ヨハネセン第二王子に肩を抱かれて塔の窓からルネの処刑直前までを見たのだった。



あれが弟でなくて良かった
ジグヴァンゼラは
噂ではカリギュラだと
揶揄されてはいるものの
被害者なのよ
悪の権化ではないわ
転身して人生をまだやり直せる
まだ進む道があり、まだ証明できる
失った自分自身を取り戻すのよ


その時、第二王子が言った。 

『領地の法は領主だ。幼い彼がそれを自覚していなかったことが問題だった。ジグヴァンゼラは十四才でいきなり領主になり、領主になったことすら知らなかったのだから仕方ない。朝廷と連絡し合い、領地の法として存在することの正しい畏れと神に服することを学べば、彼は素晴らしい領主になれる』

ヘシャス・ジャンヌは感謝した。


「ジグヴァンゼラ、折角会えたけど、私は第二王子に嫁すれば遠く離れることになります。王子も領地を持っておられるの。皇后様と先の妃の持参領地と国の定めた公地領の一部。私は侯爵令嬢で先の妃より身分が低く、持参できるものもなかったので、婚約者になれませんでしたが……」

ヘシャス・ジャンヌは『王子に捨てられた何もできない穀潰し』と言ってメナリーに針で刺された手の痛みを思い出す。愛する王子は他の女性と結ばれて、実家では継母の針に刺されて辛かった。

「これからは光の道を歩み、神に服するようにと王子も言っておられます。ジグヴァンゼラ、あなたも、あなたの傍に神がいると思って」

「ヘシャス姉様。ありがたきお言葉……どうか、今までの分もお幸せに」


声にならない。


「ジグヴァンゼラ、愛すべき弟よ……」

















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