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25 ヨハンナの情報
しおりを挟むダリアの目は大きく瞠かれて、アイガを憎んでいるかのように光っている。
「そうよ。私、知っているのよ。何もかも。何もかもね」
アイガは、どうせカマをかけるつもりだろうと踏んで、だいぶ年下のおませな従妹を見つめた。
「何を知っているって」
「フフン。あんたと一緒に暮らしていたのはヨハンナ・シルベルよ」
アイガは瞠目した。心臓を射抜かれたような衝撃が走る。エル・ツァイスでヨハンナの名前を聞くとは思いもよらなかった。しかもダリアの口から。
「何故、知っている」
「だって、私の先生だったもの。私の村に画家がいると話したら、ヨハンナ先生は喜んで、元気にしているかと聞いたわよ。あんたのことを。そして、私は他のことも知っているもん。先生と一緒に暮らしていたって噂も知っている」
ダリアに背を向けて木の幹に額をくっつけた。
ヨハンナの顔が脳裏に浮かぶ。ピンを唇に咥えて豊かな赤い巻き毛を掻き上げ、剥き出しの白い腕で無造作に結い上げるいつもの姿。笑顔。
ああ……
透明になるなんて無理だ
雑じり気のない信仰を持つなんて
できそうにない
午後の穏やかな日差しの中でニコラ・ツワイゼンと過ごした時間が、遠い昔の映画のように色を失う。
神を理解できなくて苛つきながらも、飲んだくれていた頃に比べれば何と心穏やかな時間だったことか。
ああ、ヨハンナ……
「一緒に暮らしていたからって……」
「町ではね、私、いろんな処に行くの。画廊にも行ったし、喫茶店にも行ってみたの。今はね、女の子でも入れるのよ。勿論、一人では無理だけどさ。覚えてる、画廊喫茶の人たちのこと。アイガがアル中になって入院した時に、見舞いに来てくれたんでしょ。
あの人たち。あんたのことを好きなのはレズビアンだからだって言ってる。それに、あんたの絵が売れるのもあんたがレズビアンだからだって。時代は変わるべきで、レズビアンにも市民権を与えるべきだってさ。
私は面白いと思う。流石は芸術家の集まる店だなぁって。
あの人たちは、アイガは滅茶苦茶な人間でレズビアンでアル中になって入院して今は行方不明だから絵の価値が上がるって、喜んでいるのよ。あんたがエル・ツァイスにいるって知ってて、町の人たちには行方不明ってことにしている。
あんたは知らなくて当然だけどさ、滅茶苦茶なのはあの人たちの方よ。アイガの絵は目が飛び出るほどの高値だからね。信じられない」
ダリアは「言っておくけどさ、私はあんたの味方だよ」と、憎らしそうに吐き捨てた。
「ダリア……」
「何……」
「ヨハンナは何処に……」
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