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幸せな絵

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換金日の午前中に出掛けた。

いつもは通らない道の端っこに、車椅子のお婆さんが露天を開いていた。綺麗なカボチャが丸々で100円。

「嘘ぉ……安いっ」

「沢山収穫できたからねぇ。これもあげるよ」

B4くらいの水彩の人物画。

「タダより高いものはないって言うじゃないですか。大丈夫かなぁ……」

「カボチャのオマケだ。心配要らないよ」



夜、絵の中の人物が揺れた。



妄想の中で換金前の宝くじ売り場にいる。左手の掌にマジックで書かれた番号を、ロトで買う。気分だけでもほくほくしながらの帰り道、カボチャ売りのお婆さんがいた。

「今のうちに換金した方がいいよ。早く、早く」

「ぇ…買ったばかりなのに……」

「何を言ってるんだい。今日が最後の換金日だから、早く、急いで……」

急かされて宝くじ売り場で調べてもらうと、10億円当たっている。



夜、絵の中の人物が揺れた。



ふと、妄想から覚める。手に通帳を握っていた。何気なく開くと9億円分の丸が並んでいる。

「夢……」

頬をつねると痛みを感じる。見ると、ベッドに札束が敷き詰められていた。ざっと1億円。

震撼しつつ触る。

「夢だ……」

左手に通帳、右手で現金を撫でて、ついに1億円の上に寝転がって通帳を開き、9億円の数字を撫でる。

「消えるなよ…夢でも暫くはこのままで……」



朝、目覚めてもまだ現金の上で、通帳にも9億円の数字が表記されたまま。

「まだ夢を見ているのね。取り敢えず幾らか使ってみるか……」

シャワーにも入らず1千万をバッグに入れて家を出ると、カボチャ売りのお婆さんがいた。

「いいことがあっただろう」

「ええ、お礼にこれを……」

バッグの中から札束を1つ掴み出す。

「嬉しいねぇ…有り難くもらっておくよ。では、いいことのお祝いにこれをあげるよ」

B4くらいの水彩の風景画。




夜、風景画が揺れた。



妄想の中、不動産屋と一緒に物件を見ていた。郊外の洒落た洋館で、格安だと言う。

「土地が広すぎるので売れ残っていまして、お安くしております」

「夢みたいにステキな処。あぁ、私はまだ夢を見ているのかしら……いいわ。どうせ夢なら覚めないうちに……」




引っ越した。
家族全員が住んでもまだ空き部屋が幾つもある。

お婆さんからもらった二枚の絵を、階段の壁に掛けた。風景画に洋館が浮かんでいる。

「あれ……この家じゃないかしら……まあいいわ。似ているだけでしょ……」

うとうとと妄想に遊びながら、あのお婆さんにお礼をしなければと思った。

「嫌だね、私は既に百万貰ったし…」

「じゃあ、あと百万……」

「止めなさいよ、百万、百万って他人にお金あげて歩くんじゃないよ。ガメツク使いなさい、しっかり考えて……」



数年経った。夢は覚めない。現実なんだとわかってきたが、あのカボチャ売りのお婆さんには会えなかった。

しかし、最初に貰った人物画に、自分が似てきた気がする。

「はい、笑って……」

ホームパーティーの為にお洒落をして、階段を下りしな、スマホを向けられた。軽くポーズをとる。

見せてもらった画像は、階段の壁に飾った人物画そのものだ。手摺とランプと衣装と顔が、見事に一致した。


その夜、妙に酔っぱらい階段から落ちた。


気がつくと、私はカボチャ売りになっていた。道の向こうから能天気な若い私が歩いて来る。

「あっ、カボチャ売りのお婆さん。久しぶりぃ…お婆さんの忠告に従っておけば良かった。お金、使いきっちゃった」

「じゃあ、今は何をしているの」

「ミニホテルです。家族全員で働いています」

「それは良かった。私の気持ちだから、これを貰っておくれ」

私は、菜園の絵をあげた。カボチャ、レタス、ニンジン、ピーマン、トマトも実っている。



気がつくと、私は果樹園にいた。様々な果物がたわわに実る楽園のような場所。木漏れ日の中で車椅子に座り、A4のスケッチブックに果樹園を描く。

時々、記憶が過去に戻る。今度、若い私に会ったら果樹園の絵をあげよう。孫やひ孫に囲まれた幸せな人生の絵をあげよう。そしていつか葬式の絵も……









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