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19)やるべきことは
しおりを挟む「アディウィズ、邪魔しないで」
「冬菜……と言うのか」
アディウィズが冬菜を見つめた。剣を片手にスクリーンに近づく。
「アディウィズ……あんたは何様だから私の小説を勝手に実践してんのよっ」
「これこれ、冬菜とやら。総帥様とお呼びするのじゃ。そなたこそ何者じゃ」
緋芙美が咎め立てする間に近づいたアディウィズは、セクシーな表情で冬菜の顔を覗き込む。
「冬菜とやら。聞き捨てならぬことをぬかしたな。一体何を書いたと言うのだ」
うわっ
セクシー……きゃああ……
イケメソに迫られているっ
じゃないってば
いくら美しくても
あぁ……
アディウィズの指先が冬菜の顎に触れそうになった時、緑灰色の腕からフラッシュが瞬いた。その閃光はスクリーンの冬菜を攻撃する。
眩しい……
アディウィズのいたスクリーンが光で弾けた。爬虫類系異星人とおぼしき緑灰色の生き物も緋芙美も消失した。
眩しい光が消えて暗転する。
暫く補色が支配する暗闇が続き、いきなり現実に戻る。
極彩色の壁の上布にバッサリと切目が入る。布地が斜めに垂れ、近くの修行者が霊力を与えられたアディウィズのサーベルの斬気に薙ぎ倒され吐血した。
それでも声を大にして朗々と祈祷する修行者の姿に、釘付けになる。血は胸の辺りを真っ赤に染めて、膝にも滴り落ちる。それでも微動だにせず祈る姿は、冬菜の闘志を沸き立たせ、全身がプルプルと怒りに震えるのを自覚させた。
絶対に負けない
あの爬虫類め
私に何を指示したってのよ
半殺しにしたいくらいよ
覚えておきなさい
絶対に負けないから
地球を好き勝手に
壊させやしない
そうよ
地球に関する権利は
神から人間に与えられたもの
あんな異星人
やっつけてやる
でも、どうやって……
あぁ、ボンクラは
緋芙美だけで十分ってのに
なのにあのアディウィズも
エクストラの狂信的ファンの癖に
作者の私がわからないなんて
なーんてポンコツぶり
あ、そうか
言うの忘れてた
私がエクストラだって
そーれーにーしーてーもー
冬菜の目がめらめらと燃える。
「アディウィズっ。止めてっ」
怒りに任せて叫ぶ。
呪詛文言の渦巻く中で、空の金杯を両手に持ちながら舞うウプンマガの身体の中で、冬菜は初めて脱出を試みようとした。
自力であそこに行けるか
行くのだ
アディウィズを止めに
私がエクストラだと言うのよ
あんたが聖書だと奉じている
あの小説の作者エクストラだと
でなければ
ウプンマガの祈りが
みんなの祈祷が
台無しになる
ふひゃ……
違うよ、冬ちゃん
冬ちゃんがやるべきことは
書くことだよ
小説のラストをね
ふひゃひゃ……
今こうしているのに
どうやって書けと言うのよ
それは冬ちゃん
冬ちゃんが考えることだよ
バサリとウプンマガの着物の胸が斬られた。
あうぁ……
ふ、冬ちゃん……
書くんだよ、続きを
冬ちゃん
それが一番大事なことだ
うぅ……
壁の布地が再びバサリと斬られた。
祈りの円陣が崩れる。
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