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16)円陣を解け

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緋芙美はひらひら舞扇を閃かせて赤い振り袖でアディウィズの周りを廻る。赤い打ち掛けを羽織っているが、その下はナマ足の見えるボディコンシャスのミニになってピンヒールを履いている。

そのピンヒールの足首がぐきっと曲がり緋芙美が倒れた。


「おのれウプンマガっ。呪詛をやめるのじゃ。今すぐにじゃ」


倒れた緋芙美のナマ足が床に延びる。


「誰じゃ、そこにおるのはっ。ウプンマガ一人ではないことはわかっておるぞ。あの若造か……」


緋芙美はピンヒールを脱いだナマ足を宙に上げて、足首をくるくる回す。


一体幾つよっ
緋芙美の年齢はっ


一瞬で現実に戻った。
壁に叩きつけられた色彩の美しい狂楽に惹かれた。その色彩は生きていて、ゆっくり垂れる。


緋芙美の艶かしいナマ足に似た形を見つけた。


ミニスカ着物にピンヒールって
そりゃ似合ってだけど

実年齢って
幾つだっけ
百年妖怪

いくら十五歳くらいにしか
見えないからって

はっ……

私、緋芙美に嫉妬してる……

ま、まさか……

いやいやいや
そんなことを
考えている場合ではないよね

そ、今はあいつらを叩きのめす方法を

何か良い方法はないかな……

私にできることで

それにしても綺麗な足

いやいや
あいつらの作戦を水泡に帰して
完全に終わらせることができる方法



ふひゃひゃ
ふゆちゃんなら、わかるだろう
自分が何をすれば良いのか
何ができるかを



ウプンマガ……
私は何をすれば……


ふゆちゃんが小説に
書いた通りになったのだから


うっ、ウプンマガ
私に責任があると……

私だって
まさかあんな狂信的なファンが
私の小説を聖書だとか
アホみたいに崇めて実践するなんて
ひとっつも思わなかったから



ふひゃひゃ
それはそうだろう
ふゆちゃんに悪意は無かった

しかしね、今は
そんなことじゃないよ

ふゆちゃんにできることで
戦いに勝つ戦法はひとつ




何、ウプンマガ
教えて



いきなりグゴゴゴゴ……と地響きが部屋を揺らした。咄嗟に篝火が倒れないように脚を掴む者、グラスの台を押さえる者、祈り続ける者、ウプンマガは最後のグラスを手にした瞬間だったからそのグラスに満たされた液体が零れた。


部屋の中央から黒々とした煙が竜のように渦を巻く。そのなかから金色に光る無数の目玉が泡のように湧いて出た。


ひえぁっ
なにっ……


「ヒュッ。ウプンマガ、アディウィズと緋芙美の邪魔立てをするな」


蠢く煙の中から声がする。

修行者一団の声から璃人が「みんな、負けるなっ」と叫ぶ。呪文を唱える声はまるで混声合唱のように大きくなった。

揺れる篝火が消えかかる。煙はウプンマガの身体を蛇のようにぐるぐるととぐろ巻く。


うぅぅ……


ウプンマガ、しっかりっ
あぁっ……


鋭い痛みで縛られる。


「ヒュッ。帝国復興トライアングルには我らも参加しておるのだ。お前ら人間ごときの霊力などで潰せると思うな。良いな、今すぐにこの円陣を解け」

修行者団の呪詛と壁の絵の具がアナグラムの文字になって宙を舞いながら煙に混じり、ウプンマガの身体を締め付けて動きを封じた黒い煙の目玉が瞬きを繰り返す。


「ヒュッ。何だ、何をしている。止めるのだ。今すぐに止めろ。ええい、円陣を解け」


「そうはいくか。お前らに好き放題はさせん」


璃人の声が毅然と響く。呪詛はオラトリオのように部屋を駆け巡り、煙の中で並び替わる文字列に、瞠目いた目玉が白目を剥いて消滅していく。


冬菜はスクリーンを眺めた。


立ち上がった緋芙美の身体を文字列が蛇のようにぐるぐる巻きに締め付ける。


「ウプンマガぁぁ、止めろぉぉ、やめるのじゃぁぁ。そなた、死にたいのじゃなぁ、ひいぃぃ」


緋芙美の悲鳴。アディウィズの青い髪がふわりと浮いた。傍らのサーベルが空を斬る。


「剣よ、宇憤魔我の祈りを断ち切れっ」


緋芙美の身体を締め付けていた彩り鮮やかな文字列が空で刻まれた。


ウプンマガの周りの修行者団に乱れが出る。数人の修行者が苦しみに呻いてしなだれるも、祈りを止めようとしない。声色が弱り掠れたが、次第に重く禍々しく呪詛文言は唱えられる。

緋芙美は有り得ない方向に身体をねじ曲げられて悲鳴を上げた。

その周りでサーベルを振りかざし空を斬り続けるアディウィズの青い髪が逆立つ。剣は陣壊の舞を舞う。

文字列に苦しむ緋芙美の向こうに黒煙に無数の目玉が付いた大きな影が顕現したからだ。黒煙が薄れると、黒いローブから出たくすんだ緑灰色に細かな凹凸のある腕が見えた。湾曲した爪は驚くほど長い。


「愚かしい人間どもめ。宇憤魔我が何者だとて我らへの呪詛を祷するのだ」


一瞬だが、アディウィズの眉間が狭まり、左目の下に微かな皺ができた。

緑灰色の腕が極彩色の文字列を紐のように引っ張って千切り捨てる。文字列の言葉の鋭さに、緋芙美の着物が裂けた。






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