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第二章 懇親会編
41、私は嫌なことを思い出します
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「なんつーか悪い奴らじゃないんだけど、王族っていうのはなんかどいつもこいつも癖が強いのが多くてな。今のプレントの国王とか、アンナが見たら多分本当にこの人が国王なのかって疑うレベルだと思う」
「このまま生きていれば一生会うことはないでしょうからその心配は無用です。それより、まだ六人です。ユリーシクからの参加者について教えてもらっていませんが?」
「え? ユリーシク? ……あ、そっか。忘れてた」
「忘れてたって……、面識がないのですか?」
「いや、ある。らしい」
「らしい? ……どうしました、ちょっと早めのボケですか?」
「かなり早めだろ。ボケてねえし。これについてはちょっと話そうと思ってたんだけど、完全に忘れてたな。うーん、やっぱりそういう能力だからってことなのかね。携帯の待ち受けとかにしといた方がいいかもな」
「何のお話ですか? 先ほどから支離滅裂なことばかり……、やはりボケて」
「ねえよ! どんだけ俺を年寄り扱いしたいんだよ。えっと……、あった。ちょっとこれ見てくれ」
「なんです、この、メモ?」
シユウ様が鞄から取り出したメモは、控えめに言っても丁寧に記述されたものとは思えませんでした。走り書きと言うか、時間がない中で必死に書かれたものと言うのが正しいのでしょうか。ただ、筆跡自体はこの二年間でうんざりするほど見たシユウ様の者で間違いありませんわね。
子供の筆跡というのは変わり易いものですが、シユウ様にその傾向は一切ありません。子供らしくないというか、そういうものとして出来上がった字と言うと、十二歳に使う言葉としては不適当でしょうか。読みやすい字を書くように幼い頃から習っていたと考えるのが妥当なのでしょうが。
私の字も、それなりに強制を受けて出来上がったものですが、それでも二転三転、角ばったり丸くなったりといった過程を経ています。ちなみに今は微妙に丸っこいです。世間一般で言えば綺麗な字の部類に入ると自負はしていますが、いずれは直すことになるでしょうね。
ともかく、テーブルの上に出された皺のついたそのメモを私は手に取ります。右上に大きな字で重要と書いてあるわけですが、この管理の雑さから見るに重要なものとして保管されていた感じはしませんわね。部屋の掃除をしていたら偶然出てきましたといった感じです。
『重要! 忘れるな! 机の前の壁にでも貼っておけ!』
「貼ってありましたの?」
「いや、書類の山の中に埋まってた。書いたはいいけど忘れたんだろうな」
「杜撰な……」
『ユリーシク第一王女の名前はメロデア・ロジャンデ・セーブインター。良い奴。めっちゃ良い奴。ただし少しだけ暴力的。要注意。』
「……ユリーシク第一王女? どういうことです? ユリーシクには第二王女しかいないはずです。将来的には第二王女が国を継ぐと……、え? 違う……、第二王女しかいない? そんなわけがないですわね。第一がいるから第二がいるわけで……、しかし第一王女の話など一度も……」
「うん、これ見つけた時に俺も同じような状態になった。だって、ユリーシクに第一王女がいるなんて聞いたことも無かったし、こんな名前にも聞き覚えが無かったんだから」
『能力は本人曰く「防衛的忘却」。他者に自分の存在を忘れさせる能力だ。お前、要は俺がこの紙を見る度に混乱することは想像が容易だけど、それはこの能力があるから起こる現象だ。』
「自分を忘れさせる能力……? もし仮にユリーシクに第一王女がいるというのが事実だとすれば、王位継承権が第一位の存在のはずです。そんな方の能力としてこれは……」
「国を継ぐってわけにはいかない能力だな。なんて言ったって国民にも忘れられちゃうってことだし。国が混乱するのは想像に難くない」
『本人と会えば過去の記憶は思い出される。忘れるまでにかかる時間は本人と話した時間に比例して長くなる。大体一時間の会話で一日猶予が伸びるらしい。多分その辺りも俺は具体的に覚えてないと思う。』
「覚えてますか?」
「全く。そもそもこいつに関する知識とか記憶とか全部ないのにそこだけ残ってるわけない」
「理解しようとすればするほど王族にとって致命的ですわね。自国の国民からも、他国の王族からも忘れられてしまう。後を継ぐどころか、国の為に何かを成すことだってできるかどうか……」
『これを見つけられた時だけでいいから、メロデアに会った年月日を書いておけ。絶対に部屋の山に積むなよ。思い出したら連絡でもしてくれ。』
「……最後に会ったのは半年ほど前ですか。この日の具体的なスケジュールは調べましたか?」
「昨日調べた。ロデウロ、セルム、ユリーシクで会食してたっぽいんだけど、なんにも思い出せない。多分フラットも一緒にいたはずなんだけど、そこに関しても全然。フラットがユリーシクの女子をナンパしまくったっていう嫌な記憶を俺が忘れようとしてるって可能性もあるけど」
「メロデア様に関しては何も、ですか」
私としては、気になっているのは最後の文なのです。連絡をしてくれという簡素な文ですが、どうにも違和感がありますわね。普通に考えれば、記憶のあるシユウ様から記憶の無いシユウ様に向けての言葉なのでしょうが、それにしては微妙におかしいような。
思い出したら連絡しておいた方がいいかも、などといった文章の方が適当に思います。してくれ。これもしかして、メロデア様が書いたのではないでしょうか。全文が走り書きになっているので明確に判断し難く、誰かが似たように書いたら恐らく見分けはつかないはず。
メロデア様の事を忘れないようにメモを書いたならば、その場で書いたと考えるのが妥当ですわ。つまり、これが書かれた時は近くにいたはず。書き加えることも十分に可能だった。結局妄想でしかありませんが、まあ、ありえる、でしょうか。
ああ、駄目ですわね。余計なことを思い出してしまいました。懇親会の話をして忘れられていたのに、妄想などという単語一つから全部思い出しました。そもそも今日の目的として私が設定してきたこと。リーデアから言われてきたこと。
デートの誘い。簡単に言えるなどと大口を叩いてしまった自分を殴りたい気分ですわ。
「このまま生きていれば一生会うことはないでしょうからその心配は無用です。それより、まだ六人です。ユリーシクからの参加者について教えてもらっていませんが?」
「え? ユリーシク? ……あ、そっか。忘れてた」
「忘れてたって……、面識がないのですか?」
「いや、ある。らしい」
「らしい? ……どうしました、ちょっと早めのボケですか?」
「かなり早めだろ。ボケてねえし。これについてはちょっと話そうと思ってたんだけど、完全に忘れてたな。うーん、やっぱりそういう能力だからってことなのかね。携帯の待ち受けとかにしといた方がいいかもな」
「何のお話ですか? 先ほどから支離滅裂なことばかり……、やはりボケて」
「ねえよ! どんだけ俺を年寄り扱いしたいんだよ。えっと……、あった。ちょっとこれ見てくれ」
「なんです、この、メモ?」
シユウ様が鞄から取り出したメモは、控えめに言っても丁寧に記述されたものとは思えませんでした。走り書きと言うか、時間がない中で必死に書かれたものと言うのが正しいのでしょうか。ただ、筆跡自体はこの二年間でうんざりするほど見たシユウ様の者で間違いありませんわね。
子供の筆跡というのは変わり易いものですが、シユウ様にその傾向は一切ありません。子供らしくないというか、そういうものとして出来上がった字と言うと、十二歳に使う言葉としては不適当でしょうか。読みやすい字を書くように幼い頃から習っていたと考えるのが妥当なのでしょうが。
私の字も、それなりに強制を受けて出来上がったものですが、それでも二転三転、角ばったり丸くなったりといった過程を経ています。ちなみに今は微妙に丸っこいです。世間一般で言えば綺麗な字の部類に入ると自負はしていますが、いずれは直すことになるでしょうね。
ともかく、テーブルの上に出された皺のついたそのメモを私は手に取ります。右上に大きな字で重要と書いてあるわけですが、この管理の雑さから見るに重要なものとして保管されていた感じはしませんわね。部屋の掃除をしていたら偶然出てきましたといった感じです。
『重要! 忘れるな! 机の前の壁にでも貼っておけ!』
「貼ってありましたの?」
「いや、書類の山の中に埋まってた。書いたはいいけど忘れたんだろうな」
「杜撰な……」
『ユリーシク第一王女の名前はメロデア・ロジャンデ・セーブインター。良い奴。めっちゃ良い奴。ただし少しだけ暴力的。要注意。』
「……ユリーシク第一王女? どういうことです? ユリーシクには第二王女しかいないはずです。将来的には第二王女が国を継ぐと……、え? 違う……、第二王女しかいない? そんなわけがないですわね。第一がいるから第二がいるわけで……、しかし第一王女の話など一度も……」
「うん、これ見つけた時に俺も同じような状態になった。だって、ユリーシクに第一王女がいるなんて聞いたことも無かったし、こんな名前にも聞き覚えが無かったんだから」
『能力は本人曰く「防衛的忘却」。他者に自分の存在を忘れさせる能力だ。お前、要は俺がこの紙を見る度に混乱することは想像が容易だけど、それはこの能力があるから起こる現象だ。』
「自分を忘れさせる能力……? もし仮にユリーシクに第一王女がいるというのが事実だとすれば、王位継承権が第一位の存在のはずです。そんな方の能力としてこれは……」
「国を継ぐってわけにはいかない能力だな。なんて言ったって国民にも忘れられちゃうってことだし。国が混乱するのは想像に難くない」
『本人と会えば過去の記憶は思い出される。忘れるまでにかかる時間は本人と話した時間に比例して長くなる。大体一時間の会話で一日猶予が伸びるらしい。多分その辺りも俺は具体的に覚えてないと思う。』
「覚えてますか?」
「全く。そもそもこいつに関する知識とか記憶とか全部ないのにそこだけ残ってるわけない」
「理解しようとすればするほど王族にとって致命的ですわね。自国の国民からも、他国の王族からも忘れられてしまう。後を継ぐどころか、国の為に何かを成すことだってできるかどうか……」
『これを見つけられた時だけでいいから、メロデアに会った年月日を書いておけ。絶対に部屋の山に積むなよ。思い出したら連絡でもしてくれ。』
「……最後に会ったのは半年ほど前ですか。この日の具体的なスケジュールは調べましたか?」
「昨日調べた。ロデウロ、セルム、ユリーシクで会食してたっぽいんだけど、なんにも思い出せない。多分フラットも一緒にいたはずなんだけど、そこに関しても全然。フラットがユリーシクの女子をナンパしまくったっていう嫌な記憶を俺が忘れようとしてるって可能性もあるけど」
「メロデア様に関しては何も、ですか」
私としては、気になっているのは最後の文なのです。連絡をしてくれという簡素な文ですが、どうにも違和感がありますわね。普通に考えれば、記憶のあるシユウ様から記憶の無いシユウ様に向けての言葉なのでしょうが、それにしては微妙におかしいような。
思い出したら連絡しておいた方がいいかも、などといった文章の方が適当に思います。してくれ。これもしかして、メロデア様が書いたのではないでしょうか。全文が走り書きになっているので明確に判断し難く、誰かが似たように書いたら恐らく見分けはつかないはず。
メロデア様の事を忘れないようにメモを書いたならば、その場で書いたと考えるのが妥当ですわ。つまり、これが書かれた時は近くにいたはず。書き加えることも十分に可能だった。結局妄想でしかありませんが、まあ、ありえる、でしょうか。
ああ、駄目ですわね。余計なことを思い出してしまいました。懇親会の話をして忘れられていたのに、妄想などという単語一つから全部思い出しました。そもそも今日の目的として私が設定してきたこと。リーデアから言われてきたこと。
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