26 / 45
第一章 出会い編
26、私は歩きます
しおりを挟む
四限が終わって、後は昼食を食べて帰るだけなのですが、思いの外広まっていますわね。昨日のシユウ様との会話。自国の王子の婚約者と、他国の王子の一対一の密談は、学園内での良い話の種になっています。仕方ないと言えば仕方ありませんが。
私の耳になるべく入らないように学生達も配慮はしているようですが、なにせ人数があまりに膨大です。聞きたくなくとも聞こえてしまいます。というか、やはり蝿は愚かですわね。あの会話を聞いていたのは昨日のあの場にいた八名のみ。そして半分が従者。ならば、容疑者は自動的に四名に絞られるわけです。
そんなことはどんな馬鹿でも理解できる話ですわ。なので私としては、広まるにしてももう少し時間をおいてからだと思っていたのですが、どうも見通しが甘かったというか、愚かさに対する理解の浅さというか。見くびっていましたという言い方であっていますかね。
別に犯人を捜そうなどと私は思っていませんが、このまま噂が広まると、徐々に私の不貞へと噂の方向性は変化していくでしょう。そうなると間接的に王子への風評被害にも繋がり、最悪の場合、城が動き出す可能性があります。それは少しよろしくありません。
昨日の携帯があれば連絡を取ること自体は可能ですが、校内での接触を一切断つなどということになるのは極力避けたいところです。そうなってもおかしくないような状況まで進行してしまうと、それはもう国際問題に成りかねないので、色々な意味でまずいですわ。
というか、昨日の会話が出回っているとなると私達の関係性を疑われるだけでなく、ロデウロの王子の不仲まで噂になるわけで、そんなことが関係者の耳になんて入った日にはもう一大事ですわよ。ただでさえ国交が不安定なのに喧嘩を売るような噂が流れていたらもう、どうしようもありません。
シーツァリアとロデウロの関係性が崩壊するのは確かに時間の問題ですが、それを国民が積極的に早くしてどうするのかという話です。そこまで大事になるとは考えていなかったのでしょうが、学生間の噂の伝達速度は侮れないものがあります。早めに収束させないと取り返しのつかないことに。
いえ、ならないでしょうか。そもそも兄弟仲が悪いという情報を漏らしたのはシユウ様自身であり、おそらくそれも何らかの目的があってわざと漏らしたもののはず。つまり今の状況はシユウ様にとって望むところなのでは。私だけで考えてもわかりませんし、そこは本人に確認を取りましょう。
そんなことをつらつら考えながら当てもなく校内を歩いている私ですが、歩いている理由はあります。やたらと歩きまわることで、根も葉もない噂話をしている生徒達に対する抑止力になっているつもりです。いつどこで渦中の人間がその話を聞いているか分からないという恐怖は、口を重くさせますから。
噂を口にしていることが立場的にまずいと少しでも思っているなら、私を見た段階でその口は閉じられるはずなのです。まあ、そういったことに対して躊躇いの無い人種を何人か知っているので安心はできませんし、こうして歩いていると絡まれる危険性も高くなるのですが。
「おお! アンナ様探しましたよー! 四限が終わってすぐに教室に向かったらもういなかったんで、てっきり帰ったのかと思ってたんですが、よかったよかった! お話お聞かせ願えますか?」
「お断りしますわ。貴女の取材に応えて状況が好転したことが一度でもありましたか? ろくなことにならないことを何度も繰り返すほど私は愚かではありません。お引き取りくださいな」
「でも、このままじゃ噂は広まる一方ですよ? 校内を歩きまわって抑止しようって考えてるんでしょうけれど、結局は貴女のいないところで話すだけ。根本的には何の変化もしません。どころか、必死になって鎮静化させようとすればするほど噂の信憑性は増していきます」
「言われなくてもわかっています。ですが、噂は長続きしないから噂なのです。一週間もすれば皆飽きるだろうと私は思っています。貴女だって新しい物好きでしょう?」
「噂に供給がなければそうでしょうね。追加の情報とかがなければ。ですが学園内には渦中の人物が二人共います。たった一回廊下ですれ違っただけでも再燃することは、文字通り、火を見るより明らかというものですよ」
「脅しですの?」
「協力ですよ」
「物は言いようですわね」
新聞部部長、ミラフリウス・フェイス・ニアアーカイブ。通称ミラー。私と同学年ですが、その立場は私以上に複雑だと言ってもいいでしょう。なにせ彼女は以前言った七か国の中間組織の正式なメンバーであり、校内での全ての活動が許可されている稀有な存在なのです。
ですから、私にこのような無礼と言ってもいい声を掛けてきても、オーラの立場では仲裁にも入れないのです。立場的には私と同じくらいかそれ以上、いえ、国の外部組織の一員である彼女とそういう比較をするのは適切ではないのですかね。
「穏便に収めたいなら私に協力してくださいよ。情報操作はお手の物ですよ。知ってるでしょう?」
「……迂闊なことを書いたらそのメモ帳を燃やしますので、そのつもりでいてくださいね?」
ミラーは笑顔を消すとメモ帳を懐にしまいました。弱点は知っていますのよ。一方的に有利を取れると思ったら大間違いですわ。
私の耳になるべく入らないように学生達も配慮はしているようですが、なにせ人数があまりに膨大です。聞きたくなくとも聞こえてしまいます。というか、やはり蝿は愚かですわね。あの会話を聞いていたのは昨日のあの場にいた八名のみ。そして半分が従者。ならば、容疑者は自動的に四名に絞られるわけです。
そんなことはどんな馬鹿でも理解できる話ですわ。なので私としては、広まるにしてももう少し時間をおいてからだと思っていたのですが、どうも見通しが甘かったというか、愚かさに対する理解の浅さというか。見くびっていましたという言い方であっていますかね。
別に犯人を捜そうなどと私は思っていませんが、このまま噂が広まると、徐々に私の不貞へと噂の方向性は変化していくでしょう。そうなると間接的に王子への風評被害にも繋がり、最悪の場合、城が動き出す可能性があります。それは少しよろしくありません。
昨日の携帯があれば連絡を取ること自体は可能ですが、校内での接触を一切断つなどということになるのは極力避けたいところです。そうなってもおかしくないような状況まで進行してしまうと、それはもう国際問題に成りかねないので、色々な意味でまずいですわ。
というか、昨日の会話が出回っているとなると私達の関係性を疑われるだけでなく、ロデウロの王子の不仲まで噂になるわけで、そんなことが関係者の耳になんて入った日にはもう一大事ですわよ。ただでさえ国交が不安定なのに喧嘩を売るような噂が流れていたらもう、どうしようもありません。
シーツァリアとロデウロの関係性が崩壊するのは確かに時間の問題ですが、それを国民が積極的に早くしてどうするのかという話です。そこまで大事になるとは考えていなかったのでしょうが、学生間の噂の伝達速度は侮れないものがあります。早めに収束させないと取り返しのつかないことに。
いえ、ならないでしょうか。そもそも兄弟仲が悪いという情報を漏らしたのはシユウ様自身であり、おそらくそれも何らかの目的があってわざと漏らしたもののはず。つまり今の状況はシユウ様にとって望むところなのでは。私だけで考えてもわかりませんし、そこは本人に確認を取りましょう。
そんなことをつらつら考えながら当てもなく校内を歩いている私ですが、歩いている理由はあります。やたらと歩きまわることで、根も葉もない噂話をしている生徒達に対する抑止力になっているつもりです。いつどこで渦中の人間がその話を聞いているか分からないという恐怖は、口を重くさせますから。
噂を口にしていることが立場的にまずいと少しでも思っているなら、私を見た段階でその口は閉じられるはずなのです。まあ、そういったことに対して躊躇いの無い人種を何人か知っているので安心はできませんし、こうして歩いていると絡まれる危険性も高くなるのですが。
「おお! アンナ様探しましたよー! 四限が終わってすぐに教室に向かったらもういなかったんで、てっきり帰ったのかと思ってたんですが、よかったよかった! お話お聞かせ願えますか?」
「お断りしますわ。貴女の取材に応えて状況が好転したことが一度でもありましたか? ろくなことにならないことを何度も繰り返すほど私は愚かではありません。お引き取りくださいな」
「でも、このままじゃ噂は広まる一方ですよ? 校内を歩きまわって抑止しようって考えてるんでしょうけれど、結局は貴女のいないところで話すだけ。根本的には何の変化もしません。どころか、必死になって鎮静化させようとすればするほど噂の信憑性は増していきます」
「言われなくてもわかっています。ですが、噂は長続きしないから噂なのです。一週間もすれば皆飽きるだろうと私は思っています。貴女だって新しい物好きでしょう?」
「噂に供給がなければそうでしょうね。追加の情報とかがなければ。ですが学園内には渦中の人物が二人共います。たった一回廊下ですれ違っただけでも再燃することは、文字通り、火を見るより明らかというものですよ」
「脅しですの?」
「協力ですよ」
「物は言いようですわね」
新聞部部長、ミラフリウス・フェイス・ニアアーカイブ。通称ミラー。私と同学年ですが、その立場は私以上に複雑だと言ってもいいでしょう。なにせ彼女は以前言った七か国の中間組織の正式なメンバーであり、校内での全ての活動が許可されている稀有な存在なのです。
ですから、私にこのような無礼と言ってもいい声を掛けてきても、オーラの立場では仲裁にも入れないのです。立場的には私と同じくらいかそれ以上、いえ、国の外部組織の一員である彼女とそういう比較をするのは適切ではないのですかね。
「穏便に収めたいなら私に協力してくださいよ。情報操作はお手の物ですよ。知ってるでしょう?」
「……迂闊なことを書いたらそのメモ帳を燃やしますので、そのつもりでいてくださいね?」
ミラーは笑顔を消すとメモ帳を懐にしまいました。弱点は知っていますのよ。一方的に有利を取れると思ったら大間違いですわ。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる