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ベンジャミンに引き摺られ無理矢理立たされたオーウェンの視線の先には、満面の笑みで隣の花嫁を見つめるレイノルドがいた。花嫁はベールを被せられているため顔は見えないが、今朝ソフィアがレイノルドにせがまれて着用したウェディングドレスに間違いない。目の前が真っ暗になりフラリとカラダを傾けるオーウェンを、「…ちっ」と舌打ちしたベンジャミンが片手で支える。

「おい、しっかり立ってろよ。おまえが花嫁じゃねぇんだぞ、緊張も不安もねぇだろうが」

緊張、と言われて目を向けると、花嫁の肩が微かに震えているのが見えた。あんなに打ち解け、仲が良さそうなのに緊張したりするものなのだろうか。よく見ると、なぜか髪の毛が短い。肩の下、ギリギリ程度の長さだ。結婚式だというのに、…髪の毛を切った?なぜ?

訝しげな顔になるオーウェンを見て鼻で嗤ったベンジャミンは、「…じゃ、俺はこれで」とオーウェンを支えていた腕を離す。またクラリとなるオーウェンの腕を、別な誰かの手が支えた。

(…この、香りは、)

ふわりと鼻腔をくすぐる香りにハッとして傍らに目を向ける。

「…ソフィア?」

「殿下、お加減はいかがですか。体調が悪いのも気づかず、申し訳ございませんでした」

心配そうに自分を見上げる緑色の瞳に、オーウェンの瞳が潤む。「…な、んで、」

その時、「では、誓いの口づけを」と神父に促され、レイノルドがうやうやしく花嫁のベールを持ち上げた。

「…え?」

オーウェンの視界に入ったのは、涙目でブルブル震える、ソフィアにそっくりの、

「…あれは誰だい?」

「愚兄ですわ、殿下。…愚兄、と言っていいのかどうか…」

そう苦笑するソフィアは、それ以上何も言わない。その視線を追うと、神聖な誓いの口づけとは思えないほどに濃厚に花嫁の唇を貪るレイノルドが目に入る。よほど興奮しているのか、神父に声をかけられてもまったく離れる様子がなく、そのうち、花嫁がクタリと崩れた。そのカラダを嬉しそうに抱き上げたレイノルドは、「幸せになります!」と大声で叫び、大喝采を受けている。

「…どういうこと?」

呆けたように二人の姿を凝視するオーウェンに、ソフィアは何も言わず困ったように微笑んだ。
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