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チェイサーとのやり取りを聞いていたソフィアは、

(ああ、この方は…)

繊細なのは、私に対してのみなのだ、と思い実の兄がやり込められているにも関わらず自然と緩んでしまう顔を取り繕うのに必死だった。

元々ソフィアは、自意識過剰で自尊心の塊である双子の兄が苦手だった。何を根拠にそんな態度を取れるのか不思議で、母にそっと愚痴をこぼしたこともある。それとなく母は父に伝えてくれたようで、たぶん父に注意されたであろう数日は大人しくなっているのだが、一週間もするとまた元に戻ってしまう。ソフィアがオーウェンの婚約者に決まったとき、チェイサーが真っ先に言ったのは「これで僕の人生も安泰だ」だった。

あの時はいまいち意味がわからなかったが、いま、兄の発言を聞いてハッキリした。兄は私が婚約者になったから、自分も当然オーウェンの側近になれると思っていたのだろう。バカすぎて話にならない。それをきちんと指摘し、切り捨ててくれたオーウェンを頼もしく思い、公私混同をしない清廉さを知ってますます好きな気持ちが昂りそっと窺うと、不安そうに瞳を揺らしているオーウェンと目が合った。

「…オーウェン様?」

どうしたのですか、と尋ねると、「…あの、ソフィア、あの、」とモゴモゴする。

「オーウェン様?」

「…僕のこと、…嫌いになった?」

「え…?」

強張った顔でこちらを見つめるオーウェンの言っている意味がわからず、ソフィアはただ、

「大好きです、オーウェン様。嫌いになったりしません」

と伝え、オーウェンの手を握った。

「私の兄が、愚か者すぎて申し訳なく思います。私が兄の立場であれば、今の状態でもし、もしも、ですよ、…側近に、と言われても、辞退させていただくと思います。王族の婚約者の家族、親戚、…だからこそ、迂闊に中に入ってはならないのではないかと。先程父が申し上げたように、実力を知らしめた後ならばお受けする道もあるかと思いますが、あの兄は、私が婚約者に決まったからこそ殿下の側近になれるだなどと…。どうしようもない愚か者です」

ソフィアの言葉を聞いたオーウェンは、ほんのりと嬉しそうに笑い。

「ソフィアは、僕の予想を超えてくるな」

とポツリと呟き微笑んだ。
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