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オブライアン公爵家
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ヴァイオレットが公爵家に来ると決まったのは、卒業式の前々日だった。その日クリスフォードは学園を休む許可を父にもらい、ヴァイオレットを待った。
「…クリスフォード様」
硬い表情でこちらを見るヴァイオレットに、クリスフォードは土下座して「すまなかった!」と叫んだ。
「僕は、ヴァイオレット、君が好きだ。13歳で君と婚約してから、ずっと、ずっと、ずっと好きだった。君を誰にも渡したくなくて、自分の欲望のまま、あんな酷いことをして、すまなかった。僕のことを許せないとは思うが、僕に君の人生を共に歩ませて欲しい、生まれてくる子どもは僕が責任を持って育てる。4月からは働くし、」
「クリスフォード様、顔を上げて…あの、座っても、よろしいですか?」
「す、すまない!」
顔を真っ青にして立ち上がったクリスフォードは、ヴァイオレットが座れるように椅子を引くとすぐにそこから離れ、一番遠い席に座った。
「ヴァイオレットちゃん、座って」
「ヴァイオレット嬢、愚息が申し訳なかった」
頭を下げるエイダンに、ヴァイオレットは顔色を悪くした。
「さ、宰相閣下、おやめください、…むしろ、こんな厚待遇を、ありがとうございます…わたくし、どう返したらいいかわかりませんが、何年かかっても、」
「家族なんだから、そんなことを思う必要はない」
「…え?」
ヴァイオレットと目が合うと、ふ、と笑ったエイダンは、
「俺とシーナの初孫を、ありがとう、ヴァイオレット」
と言った。ヴァイオレットの瞳から涙が溢れる。
「…わたくしは、身持ちが悪いとされ、家を出された女ですのに、オブライアン家の血を引いた子どもかどうか、わかりませんのに、」
「王妃陛下が、君たちに…うちの愚息もだが、影を付けていてね。根も葉もないバカな噂だということを証明してくれて、君のご両親も君の除籍を取り消したよ。なにより、うちのバカ息子の責任だ。どんなことをしても取り返しはつかないが、君と君の生んでくれる子どもはオブライアン公爵家が責任を持つ。シーナ、頼むぞ」
エイダンの言葉に、シーナは微笑み、
「ヴァイオレットちゃん、主人が言った通りよ。もし貴女がここを出たいなら、それはまた一緒に考えましょ?まずは、赤ちゃんを生むことを第一に考えて」
「…はい。ありがとうございます」
そう言ったあと、ヴァイオレットは涙に濡れた顔でクリスフォードを見た。
「クリスフォード様」
「は、はい!」
「こちらに、来てください」
「え、…いいの」
戸惑うような顔になるクリスフォードに頷くと、おどおどしながら立ち上がりヴァイオレットの元に進んだ。近くに来たクリスフォードの手を、ヴァイオレットがギュ、と握る。
「先ほど、クリスフォード様はわたくしを好きだと仰いましたね」
「う、うん、」
「それは本当ですか?ご両親に言われて、渋々そう仰ったのではないのですか」
「違う!そんな、…僕は、ヴァイオレットが好きなんだ!」
ヴァイオレットは、クリスフォードを睨み付けると、
「ではなぜ、あの男爵令嬢と親密になさっていたのですか」
「…それは、」
言い淀むクリスフォードに、ヴァイオレットはため息をついた。
「やはり嘘なんですね」
「ち、違う、ヴァイオレット、」
「クリスフォード君、もういいよ、言って大丈夫。陛下にも許可もらってきたし。あ、お邪魔してます、宰相閣下」
突然聞こえてきた声に全員の視線が集中する。
「…テイラー上級魔術師」
そこにはニコニコと微笑む、金髪の長身の男が立っていた。瞳の色は左右で異なり、赤と緑の瞳である。その瞳が、す、と細められた。
「…クリスフォード様」
硬い表情でこちらを見るヴァイオレットに、クリスフォードは土下座して「すまなかった!」と叫んだ。
「僕は、ヴァイオレット、君が好きだ。13歳で君と婚約してから、ずっと、ずっと、ずっと好きだった。君を誰にも渡したくなくて、自分の欲望のまま、あんな酷いことをして、すまなかった。僕のことを許せないとは思うが、僕に君の人生を共に歩ませて欲しい、生まれてくる子どもは僕が責任を持って育てる。4月からは働くし、」
「クリスフォード様、顔を上げて…あの、座っても、よろしいですか?」
「す、すまない!」
顔を真っ青にして立ち上がったクリスフォードは、ヴァイオレットが座れるように椅子を引くとすぐにそこから離れ、一番遠い席に座った。
「ヴァイオレットちゃん、座って」
「ヴァイオレット嬢、愚息が申し訳なかった」
頭を下げるエイダンに、ヴァイオレットは顔色を悪くした。
「さ、宰相閣下、おやめください、…むしろ、こんな厚待遇を、ありがとうございます…わたくし、どう返したらいいかわかりませんが、何年かかっても、」
「家族なんだから、そんなことを思う必要はない」
「…え?」
ヴァイオレットと目が合うと、ふ、と笑ったエイダンは、
「俺とシーナの初孫を、ありがとう、ヴァイオレット」
と言った。ヴァイオレットの瞳から涙が溢れる。
「…わたくしは、身持ちが悪いとされ、家を出された女ですのに、オブライアン家の血を引いた子どもかどうか、わかりませんのに、」
「王妃陛下が、君たちに…うちの愚息もだが、影を付けていてね。根も葉もないバカな噂だということを証明してくれて、君のご両親も君の除籍を取り消したよ。なにより、うちのバカ息子の責任だ。どんなことをしても取り返しはつかないが、君と君の生んでくれる子どもはオブライアン公爵家が責任を持つ。シーナ、頼むぞ」
エイダンの言葉に、シーナは微笑み、
「ヴァイオレットちゃん、主人が言った通りよ。もし貴女がここを出たいなら、それはまた一緒に考えましょ?まずは、赤ちゃんを生むことを第一に考えて」
「…はい。ありがとうございます」
そう言ったあと、ヴァイオレットは涙に濡れた顔でクリスフォードを見た。
「クリスフォード様」
「は、はい!」
「こちらに、来てください」
「え、…いいの」
戸惑うような顔になるクリスフォードに頷くと、おどおどしながら立ち上がりヴァイオレットの元に進んだ。近くに来たクリスフォードの手を、ヴァイオレットがギュ、と握る。
「先ほど、クリスフォード様はわたくしを好きだと仰いましたね」
「う、うん、」
「それは本当ですか?ご両親に言われて、渋々そう仰ったのではないのですか」
「違う!そんな、…僕は、ヴァイオレットが好きなんだ!」
ヴァイオレットは、クリスフォードを睨み付けると、
「ではなぜ、あの男爵令嬢と親密になさっていたのですか」
「…それは、」
言い淀むクリスフォードに、ヴァイオレットはため息をついた。
「やはり嘘なんですね」
「ち、違う、ヴァイオレット、」
「クリスフォード君、もういいよ、言って大丈夫。陛下にも許可もらってきたし。あ、お邪魔してます、宰相閣下」
突然聞こえてきた声に全員の視線が集中する。
「…テイラー上級魔術師」
そこにはニコニコと微笑む、金髪の長身の男が立っていた。瞳の色は左右で異なり、赤と緑の瞳である。その瞳が、す、と細められた。
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