断罪された悪役令嬢たち

蜜柑マル

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オブライアン公爵家

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一時間後、クリスフォードは凶悪な顔で帰って来た。

「父上!一緒に来てください、母上がヴァイオレットを渡してくれません!僕が強姦魔だなどと…なんていいぐさだ!」

いや、本当のことだろう、とエイダンは思ったが何も答えず支度を始めた。

「…どちらに?」

「シーナのところだ。謝罪に行く。あの腐れ女がやってきたこと、俺がしてきたこと、全部洗いざらいぶちまけてくる」

クリスフォードは鼻で嗤うと、

「他の女を抱いたりするからです」

「強姦魔に言われたくない」

「僕は強姦魔じゃありません!」

言い合いをする二人に、レインハルトがすがり付く。

「僕も行きます、母上に会わせてください、…まさか母上は、僕を捨てる気ですか?」

涙ぐむレインハルトを二人は覚めた目で見る。

「おまえ、今まで散々貶めてたくせに、よくそんなこと言えるな」

「それは、父上と兄上のせいです!」

「俺は悪くない!」

すると、部屋に入ってきた侍女頭に、「うるさい!!」と怒鳴られた。

「あんたら全員が奥様を大事にしてなかった!それが事実でしょ!…その中で一番悪いのは、もちろんエイダン坊っちゃま…旦那様です」

侍女頭は、エイダンが幼い頃よりオブライアン公爵家に仕えており、エイダンのことも忖度無しに悪いことは悪いと叱ってくれる数少ない使用人のひとりだった。

「だいたい、シーナ様だって初めてなんですよ。それを、他の女で筆おろしだなんて…バカもいい加減にしてください。あんなにシーナ様のことが好きで好きでようやく婚約できて泣いて喜んでたくせに…まったく、情けない。言うべきことも言わず、出てくる言葉は強がりばっかり。シーナ様からすればただの貶め発言でしかないことばっかり。しかも昨夜、無理矢理シーナ様を…」

「父上も強姦魔じゃないですか」

「シーナは俺の妻だ!」

「夫婦間でも、同意が得られてないのに無理矢理自分の欲望を発散するためにする行為は、性的な暴力として立証されます」

どや顔で言うクリスフォードの鳩尾を、エイダンは殴りつけた。痛みにのたうち回るクリスフォードを足で踏みつける。

「夫婦間もそうなら、婚約者でしかないおまえがやったことは重犯罪だな。俺がヴァイオレット嬢の代わりにおまえを訴えてやる」

「旦那様、とにかく、今までのことはきちんと謝罪してください。シーナ様はお許しにならないでしょうがね」

侍女頭の冷たい言葉にエイダンの顔が青ざめる。

「ゆ、許して、もらえなかったら、どうすれば、」

「離縁してあげてください」

「イヤだ!」

ボタボタ涙を流すエイダンを息子ふたりは声もなく見た。こんな父の姿を見たことがなかったため、衝撃を受けたのだ。

「…そんなに、母上が好きなら、もっと大事になさればよかったのに」

「始まりが間違ってたんですから、素直に離縁すべきかと」

澄ました顔で言うクリスフォードの腹を、今度はレインハルトが殴りつける。

「それなら強姦した兄上も、ヴァイオレット様を手放すべきでしょう。結婚する前にそんな目に合わされて、しかも家から放逐されて…母上が助けてくれたからまだしも、本来なら娼館に売られていたかもしれないんですよ、人買いに拐われて」

レインハルトの言葉を聞いて、クリスフォードの顔色がみるみる青ざめていく。

「…自分が、一生面倒を見るからいいかと思ってた」

「とりあえず、カラダの関係でどうにかする、という公爵家とは思えないバカな手段を取るのはおやめください」

辛辣な侍女頭の言葉に、一様に頭を垂れた男たちは馬車に揺られてシーナの実家に向かった。

もちろんその日は会ってももらえず、次の日からエイダンは朝仕事に行く前と、精力的に終わらせた仕事の後…夕方から深夜まで、シーナの実家の前で正座しつづけた。今までの数々の酷い所業についても手紙を毎日したためた。

寒さが厳しくなる12月の末から、雨の日でも構わずそうしているエイダンに、シーナが折れたのは実に2ヶ月後、2月半ばのことだった。
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