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最終章

僕の、(ナディール視点)

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ハルト君は宣言通り、卒業式前日までルヴィちゃんを離さなかった。前日も、夜9時過ぎても出てこなくて、サヴィオン兄さんが乗り込もうとしたがダメだった。

「ナディール、頼む。あのシールドを外してくれ」

ハルト君がかけたシールドが強力すぎて、サヴィオン兄さんでも破れないらしい。

「僕、ハルト君に殺されたくないんだけど」

「大丈夫だ。おまえならなんとかなる」

何か違うと思いつつ、ハルト君の自室の前に兄さんと飛ぶ。部屋の前ではアンジェ姉さんが金切り声をあげていた。

「ジーク!!いい加減にしなさい!!ルヴィちゃんを卒業式に出すって約束したでしょ!!」

すごいシールド張ってるなぁ。ハルト君の執念を感じる。

「ハルト君」

一応声をかける。

「…ナディール叔父上?」

「そうだよ。外すよ」

「ちょ、ちょっと待ってください、ナディール叔父上を呼ぶなんて…あ、ルヴィ、でる、あ…っ」

…聞かなくていいものを聞いてしまった。

ハルト君に殺されたほうがまだマシだった気持ちになる。

しばらくすると、真っ赤に上気した顔のハルト君がガウンを羽織ってドアは開けずに直接外に飛んできた。「すみません、部屋は見せられません、というか、ルヴィの匂いが、」「いや、見ないし。ルヴィちゃん、早く帰しなよ。明日卒業式なんだから」「…あ、そうか、卒業式…」

ハルト君は「ナディール叔父上、すみません」と言ってまた消えた。そして、またシールドを張った。

「あと一時間したら出ます」

「ジーク!!」

「アンジェ様、今からルヴィを風呂に入れますから、」

「イヤー!!バカ!やめて!生々しいのやめて!!私にケンカ売ってんの!?独り身の寂しい私に!?買うわよ!!」

それっきり静かになったハルト君は、きっちり
一時間後にルヴィちゃんを抱いて出てきた。

「…ルヴィちゃん。ごめんね。うちの変質者が…」

「ア、アンジェ様、申し訳ありません、こんな、」

「じゃ、行くよ、ルヴィ」

スッと消えるハルト君。

「コラー!!」

「じゃ、僕も戻るね」

僕も自室に戻った。

あんなにだいっきらいだったハルト君と、あの話し合いのあとなんだか仲良くなった。魔法についても魔力についても負けたくない気持ちはまだまだあるけど、「ぶっ壊れて粉々になれ」という気持ちはなくなった。

卒業式が終わると、宣言通りハルト君はすぐにルヴィちゃんと結婚した。そして、そのまま城に暮らしている。王政を終わらせる、といいながらなかなかそちらは進まず、今はアンジェ姉さん、サヴィオン兄さん、カティ姉さんが3人で統治してる感じ。カティ姉さんは育児で忙しいし、サヴィオン兄さんは海軍総督も兼ねてるから実質アンジェ姉さんが女王みたいなもんだ。「婚期がさらに遅れる」というので、「もう過ぎたでしょ。通り過ぎたんだから、戻れないよ」と言ったら水泡に入れられた。ほんとのことなのに、なぜだ。

ハルト君は、第一部隊に今まで通り所属し、ルヴィちゃんも第五部隊に配属されたが、毎朝ハルト君がルヴィちゃんを送って睨みを効かすため、男性団員はルヴィちゃんに近づけないみたいだ。帰りも迎えに行きたいみたいだが、ルヴィちゃんに「ハルト様のお仕事を邪魔したくない」と言われて諦めたらしい。

僕はハルト君の反応が面白いので、ルヴィちゃんにたくさんかまっている。もちろん僕も第五部隊には睨みを効かせてる。かまうのは僕だけの特権だからね。

ある日、またルヴィちゃんのところに行ったら、顔色が悪い。タイミングが悪いことに、ハルト君はセグレタリー国に遠征中だ。今にも倒れそうなので、「ごめん、ルヴィちゃん、触るね」と言って、抱き上げて城に連れ帰った。そしたら、妊娠中だって、城の医官に言われた。ハルト君より先に聞いちゃった。ははは。またしばらくからかえる。

「ルヴィちゃん、おめでと。いいなぁ、赤ちゃん」

ルヴィちゃんは、キョトンとした顔でぼくを見た。

「…僕、いちばん下だったし、ほら、あんまり仲良くなかったから、カティ姉さんの赤ちゃんにも会いにいかなくてさ。赤ちゃんて、どんな感じなのか、わからなくて。いいな、って」

ルヴィちゃんは、ニコニコすると、「ナディール様、生まれたらたくさん抱っこしてあげてください」と言う。

「…え?」

「私も、6歳のときに弟が生まれたのですが、柔らかくて、すごくあったかくて、触ると気持ちいいんですよ。ナディール様がよかったら、ですが」

「いいの?ほんとに?僕が触ってもいいの?」

「もちろんです。連れてきていただいてありがとうございます」

ルヴィちゃんて、すごいな。ハルト君が執着する気持ちがわかる。そばにいると、僕みたいなぶっ壊れてる人間も、なんだか少しはまともになれた気持ちになるんだよね。

3日後に帰ってきたハルト君は怒り狂っていた。ははははは。楽しい。僕が先にルヴィちゃんの妊娠を知っちゃったからね。ふふ。

ルヴィちゃんのお腹はどんどん大きくなる。すごいなぁ。毎日、ルヴィちゃんを見に行く。ハルト君が「ナディール叔父上!仕事してください!ルヴィに近づくのはやめてください!」って怒りまくってるけど、僕はどこでもできる仕事だからね。ははは。

ルヴィちゃんは、翌年の5月に赤ちゃんを産んだ。双子だった。男の子と女の子。毎日ルヴィちゃんを見に行ってた僕が、たまたまルヴィちゃんの陣痛にぶつかり、ルヴィちゃんを医務室に連れて行った。ハルト君はまたいない。ははははは。信じたことないけど、神様ありがとう。こんな嫌がらせができるなんて最高だ。ハルト君を5年はからかえる。

なかなか産まれなくて苦しそうで、赤ちゃんの声が聞こえたとき、涙がこぼれた。安心したのか、なかなか止まらなかった。こんなこと今までなかったのに。

「ルヴィちゃん、お疲れ様」

ハルト君以外の面々が揃ってる。ある意味すごいメンツだな。

「ナディール様、ありがとうございます」

ルヴィちゃんはニコニコして答えてくれた。

赤ちゃんは、ふたり並んでベッドにいた。

黒い髪に緑の目と、黒い髪に赤い目。二人とも魔力が高い。

僕は吸い寄せられるように、赤い目の赤ちゃんに触れた。

「ナディール様、その子が女の子です。緑の目の赤ちゃんが、男の子です」

ルヴィちゃんに頷き、じっと見る。

赤ちゃんも僕をじっと見て、…ほにゃ、っとした。

「ねぇ、ルヴィちゃん、抱っこしてもいいかな」

「ナディール、大丈夫なの?」

「どうやって抱くの。アンジェ姉さん、そっちの子抱いてみせて」

僕はアンジェ姉さんがする通りに赤い目の赤ちゃんを抱いてみた。まだ、じっと僕を見ている。僕と同じ赤い瞳なのに、まったく違う色に見える。

「あったかい…ルヴィちゃんの言ってた通りだ。柔らかくて、気持ちいい。赤ちゃんて、すごいね。赤ちゃんて、こんなに可愛いんだ」

そのとき。ふわっと、甘い香りがした。

一瞬のことで、どこからしたのかわからない。けど、甘やかな、優しい匂い。

僕は腕の中の赤ちゃんを見た。赤ちゃんもまだ僕を見てる。また、ふわりと香る。

「…アルマディン」

「え?」

「ルヴィちゃん、この子、アルマディンて名前にして。僕だけ、マディって呼ぶ」

「…ナディール叔父上。俺の子どもの名付けは頼んでいませんが」

「あ、ハルト君、おかえり。僕のマディだよ。可愛いでしょ。魔力も高いし、僕が育てるからね」

「な、な、な、何を!何を言ってるんですか!返してください!」

僕の腕からマディをハルト君が取り上げると、マディはギャンギャン泣き出した。ルヴィちゃんが抱っこすると、シクシクくらいに収まるが、ハルト君が抱くと、またギャンギャン泣く。

「ハルト君、マディ返して」

「ナディール叔父上の子どもじゃないですし、名前も勝手に決めないでください!」

僕が奪い返すと、僕の腕の中でマディは泣き止んだ。

「ハルト君」

「なんですか!泣き止んだからって勝利宣言でも、」

「マディは、僕のだよ。甘い香りがするもん」

「…え?」

「ハルト君、教えてくれたじゃない。ルヴィちゃんの香り」

「…え?」

「甘い匂い。嬉しい。僕のだ。やった」

「違う、違います、カンチガイです、ナディール叔父上!こんな、産まれてすぐにわかるわけが、」

「でも香るもん。僕のだよ。毎日抱っこしよう。あったかい。可愛い。膝に乗せてご飯食べさせよう。可愛いだろうなぁ。ハルト君は、見るだけ。マディを抱っこするの禁止ね。触らないでよ。僕のなんだから。そうだ、もしハルト君がマディに触ったら雷撃がはしるようにしよう。僕がハルト君に従属魔法かけるのは法律で認められてるからね。ありがとう、サヴィオン兄さん。心から感謝するよ。可愛い、マディ。嬉しい」

「いや、叔父上、今年30歳ですよね!?」

「だから?」

「年が離れすぎですよ!」

「そうかな」

「そうですよ!」

「じゃあ、マディが僕をイヤだって言ったら諦めるよ。まあ、そんなことはあり得ないけどね」

「そして、名前を決定事項みたいに呼ばないでください!」

「なんで。もう決まったんだよ。ねぇ、マディ」

マディは僕をじっと見てる。キレイな瞳。

その温かさに、隙間だらけの壊れた僕が、満たされ癒される。

「ありがとう、ルヴィちゃん」

「違う、ありがとうは、俺とルヴィの愛の結晶を無事に産んでくれたルヴィに俺が言うことです!」

「ありがとう、ハルト君」

「それはどういう意味でのありがとうなんですか!?あげません、あげませんよ、今日産まれたばっかりなのに!」

「はぁ、嬉しい。さっそく部屋を変えないと。マディが住みやすいように」

「聞いて!俺の話聞いてください、ナディール叔父上!」

「これでジークも、少しは私たちの苦労がわかるわね」

「そうだなぁ。まぁ、いいのか悪いのかわかんねぇけど」






【了】
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