54 / 110
第四章
それぞれの思惑①(ケイトリン視点)
しおりを挟む
「私を、カーディナル魔法国の一員にしていただきたいのです」
ヴィーちゃんが言った言葉を、すぐに理解できなかった。カーディナル魔法国の一員に…?
私よりも、ロレックスさんの反応が早かった。
「ヴィー!?な、なん、な、何を言ってるんだい!?」
ロレックスさんはバッと立ち上がるとヴィーちゃんの前にしゃがみこみ、目線を合わせた。
「どういうこと?なんで?モンタリアーノ国に帰らないってこと?」
ヴィーちゃんは、ロレックスさんをじっと見つめた。
「お父様、オルスタイン家には、アレックスとカーティスが生まれました」
「うん、生まれたよ、それが!?」
「お父様は聞いているかどうかわかりませんが、私、魔力が発現して、いま、おばあ様とケビンさんに訓練を受けているんです」
剣の訓練はまだしていません、お父様が言ってくださったのに、というヴィーちゃんの肩を掴んでロレックスさんは「ヴィー!」と叫んだ。
「なんで、なんでカーディナルの一員になりたいのか、それを言ってくれ!」
「…私は、魔法を使って生きていきたいのです」
「なんで、モンタリアーノ国じゃダメなんだ!?」
「モンタリアーノ国は、魔法を使う国ではないからです」
「初めての魔法使いになればいいじゃないか!!」
ヴィーちゃんは、困ったような顔でロレックスさんを見た。
「受け入れる素地がないから、殿下はあんな風にねじくれてしまったんですよ、お父様。お父様は、それを目の当たりに見たからこそ、殿下をカーディナルにこさせたのでしょう?」
「そ、れは、そうだけど…」
グッと詰まるロレックスさんにヴィーちゃんが言う。
「前回の人生の通り、魔力を自覚しなければモンタリアーノ国で暮らせたでしょう。だけど、私は今回魔力を発現しました。それを、活かせるところで生きていきたいのです」
私は震える体を必死に抑えて陛下を見た。陛下も驚いたように私を見ている。私が願ったことを…ヴィーちゃんに押し付けたりはできない、しょせん叶わぬ夢だと諦めるしかないと思っていたことを、ヴィーちゃん自身が口にしてくれるなんて…!!
「お父様」
ロレックスさんは俯いたまま答えない。答えられないのだろう、ショックが大きすぎて。最愛のヴィーちゃんが、まさか、国を出たいと言うなんて。もし私がロレックスさんの立場だったらと思うと…抉られるように胸が痛む。
「お父様」
ヴィーちゃんにもう一度呼ばれて、ロレックスさんはノロノロと顔をあげた。ゴッソリと表情が抜け落ちて、真っ青な顔はまるで幽鬼のようだ。
「私は、前回の人生で死ぬ直前、殿下に抱き抱えられました」
ヴィーちゃんの言葉に頷くこともなく、ロレックスさんはただヴィーちゃんを見ている。
「私を蔑み、虐げてきた相手に抱かれて死ぬなんて、私が何をしたというのだろう?誰にも逆らわず、目立たないように、なにもしないで生きてきたのに、なんでこんな目に合わなくてはならないのか、と。悔しくて悔しくて、でもその時気づいたのです。
私は、何もしなかったのだと。ただ逃げるだけで、諦めて、闘わなかったと。
だから、誓ったのです。もう一度生きなおせるなら、次は逃げないと。精一杯生きると」
ヴィーちゃんの瞳は強く輝いていた。
「せっかく、手にすることができたのです。私は、これを…魔力を活かして生きていきます」
ロレックスさんは、ヴィーちゃんの顔を見つめたまま動かない。まるで石像にでもなってしまったかのようだ。
「お母様から、貴族クラスの魔力は発現させる訓練をしなければ発現しないと聞きました、…前回の私のように。
だから、アレックスとカーティスには魔力を発現させずに、モンタリアーノ国でお父様の跡をつがせれば、」
「ヴィー!!」
ロレックスさんが叫び、ヴィーちゃんがビクリとする。
ロレックスさんの瞳は怒りで燃え滾っていた。
「ヴィーが、カーディナルで生きていきたい。それはわかった。自分が思うように、後悔しないように生きていきたい。それもわかった。だけど、」
ロレックスさんはまたヴィーちゃんの肩を掴んだ。
「自分がそうやって生きるのに、アレックスとカーティスの人生をなぜ勝手に決める?お父様は魔力が見えないし、魔法も使えない。生まれた二人がどのくらいの魔力かわからないよ、だけど!
魔力を持ってるかもしれないのに、それを使わず生きろって?ヴィーは魔力を使う人生を選ぶのに、二人には知らせないで魔力を発現させないって?
なぜ自分の姉がカーディナル魔法国に住んでいるのか、疑問に思うだろう。シーラの出身地を黙って、こちらの祖父母にも会わせず、一切関係をたてと?ヴィーは、二人に姉だと名乗る気がないということか?」
ヴィーちゃんは真っ青な顔になって、「いいえ、」と言ったが、ロレックスさんは許さなかった。
「勝手に、誰かの人生を決める権利はない、ヴィーだって、前回ジークフリート皇子にそうされたじゃないか、それについて文句を言ってやるって、そう言ったじゃないか!」
ヴィーちゃんはボロボロと涙をこぼした。ロレックスさんも泣いていた。
「ヴィー、僕はもう、ヴィーと離れた人生はイヤなんだ。この4ヶ月、寂しくて寂しくて、生きている実感がなかった。ヴィーがいない邸に帰りたくなくて毎日城に寝泊まりした。仕事は確かにはかどったよ、だけど、なんにも楽しいことがなかった。ヴィーがいない生活はもうイヤなんだよ…」
ロレックスさんの話を聞きながら、シーラの存在はどこにあるのかと戦慄する思いだった。ロレックスさんの妻はヴィーちゃんだっただろうか…?
愛の告白にしか聞こえないロレックスさんの言葉に内心ザワザワしていると、ヴィーちゃんは泣きながら言った。
「自分勝手なことを言ってすみません、…自分がやられてイヤだったのに、…っ、でも…っ!
でも、私はカーディナル魔法国に住みたい、これだけはお願いします」
「ヴィー、…イヤだ」
「お父様…っ」
「イヤだ、そんなの、じゃあ僕は?僕だけ、ヴィーと離れて暮らせって?ひどいよ、ヴィー、イヤだよ…」
ヴィーちゃんにしがみついて泣くロレックスさんは、もはやヴィーちゃんに捨てられる恋人のようだった。シーラ…可哀想に…と現実逃避する私の耳に、陛下の衝撃的な言葉が突き刺さった。
「オルスタイン宰相、…カーディナルに移住する気はないか?」
ヴィーちゃんが言った言葉を、すぐに理解できなかった。カーディナル魔法国の一員に…?
私よりも、ロレックスさんの反応が早かった。
「ヴィー!?な、なん、な、何を言ってるんだい!?」
ロレックスさんはバッと立ち上がるとヴィーちゃんの前にしゃがみこみ、目線を合わせた。
「どういうこと?なんで?モンタリアーノ国に帰らないってこと?」
ヴィーちゃんは、ロレックスさんをじっと見つめた。
「お父様、オルスタイン家には、アレックスとカーティスが生まれました」
「うん、生まれたよ、それが!?」
「お父様は聞いているかどうかわかりませんが、私、魔力が発現して、いま、おばあ様とケビンさんに訓練を受けているんです」
剣の訓練はまだしていません、お父様が言ってくださったのに、というヴィーちゃんの肩を掴んでロレックスさんは「ヴィー!」と叫んだ。
「なんで、なんでカーディナルの一員になりたいのか、それを言ってくれ!」
「…私は、魔法を使って生きていきたいのです」
「なんで、モンタリアーノ国じゃダメなんだ!?」
「モンタリアーノ国は、魔法を使う国ではないからです」
「初めての魔法使いになればいいじゃないか!!」
ヴィーちゃんは、困ったような顔でロレックスさんを見た。
「受け入れる素地がないから、殿下はあんな風にねじくれてしまったんですよ、お父様。お父様は、それを目の当たりに見たからこそ、殿下をカーディナルにこさせたのでしょう?」
「そ、れは、そうだけど…」
グッと詰まるロレックスさんにヴィーちゃんが言う。
「前回の人生の通り、魔力を自覚しなければモンタリアーノ国で暮らせたでしょう。だけど、私は今回魔力を発現しました。それを、活かせるところで生きていきたいのです」
私は震える体を必死に抑えて陛下を見た。陛下も驚いたように私を見ている。私が願ったことを…ヴィーちゃんに押し付けたりはできない、しょせん叶わぬ夢だと諦めるしかないと思っていたことを、ヴィーちゃん自身が口にしてくれるなんて…!!
「お父様」
ロレックスさんは俯いたまま答えない。答えられないのだろう、ショックが大きすぎて。最愛のヴィーちゃんが、まさか、国を出たいと言うなんて。もし私がロレックスさんの立場だったらと思うと…抉られるように胸が痛む。
「お父様」
ヴィーちゃんにもう一度呼ばれて、ロレックスさんはノロノロと顔をあげた。ゴッソリと表情が抜け落ちて、真っ青な顔はまるで幽鬼のようだ。
「私は、前回の人生で死ぬ直前、殿下に抱き抱えられました」
ヴィーちゃんの言葉に頷くこともなく、ロレックスさんはただヴィーちゃんを見ている。
「私を蔑み、虐げてきた相手に抱かれて死ぬなんて、私が何をしたというのだろう?誰にも逆らわず、目立たないように、なにもしないで生きてきたのに、なんでこんな目に合わなくてはならないのか、と。悔しくて悔しくて、でもその時気づいたのです。
私は、何もしなかったのだと。ただ逃げるだけで、諦めて、闘わなかったと。
だから、誓ったのです。もう一度生きなおせるなら、次は逃げないと。精一杯生きると」
ヴィーちゃんの瞳は強く輝いていた。
「せっかく、手にすることができたのです。私は、これを…魔力を活かして生きていきます」
ロレックスさんは、ヴィーちゃんの顔を見つめたまま動かない。まるで石像にでもなってしまったかのようだ。
「お母様から、貴族クラスの魔力は発現させる訓練をしなければ発現しないと聞きました、…前回の私のように。
だから、アレックスとカーティスには魔力を発現させずに、モンタリアーノ国でお父様の跡をつがせれば、」
「ヴィー!!」
ロレックスさんが叫び、ヴィーちゃんがビクリとする。
ロレックスさんの瞳は怒りで燃え滾っていた。
「ヴィーが、カーディナルで生きていきたい。それはわかった。自分が思うように、後悔しないように生きていきたい。それもわかった。だけど、」
ロレックスさんはまたヴィーちゃんの肩を掴んだ。
「自分がそうやって生きるのに、アレックスとカーティスの人生をなぜ勝手に決める?お父様は魔力が見えないし、魔法も使えない。生まれた二人がどのくらいの魔力かわからないよ、だけど!
魔力を持ってるかもしれないのに、それを使わず生きろって?ヴィーは魔力を使う人生を選ぶのに、二人には知らせないで魔力を発現させないって?
なぜ自分の姉がカーディナル魔法国に住んでいるのか、疑問に思うだろう。シーラの出身地を黙って、こちらの祖父母にも会わせず、一切関係をたてと?ヴィーは、二人に姉だと名乗る気がないということか?」
ヴィーちゃんは真っ青な顔になって、「いいえ、」と言ったが、ロレックスさんは許さなかった。
「勝手に、誰かの人生を決める権利はない、ヴィーだって、前回ジークフリート皇子にそうされたじゃないか、それについて文句を言ってやるって、そう言ったじゃないか!」
ヴィーちゃんはボロボロと涙をこぼした。ロレックスさんも泣いていた。
「ヴィー、僕はもう、ヴィーと離れた人生はイヤなんだ。この4ヶ月、寂しくて寂しくて、生きている実感がなかった。ヴィーがいない邸に帰りたくなくて毎日城に寝泊まりした。仕事は確かにはかどったよ、だけど、なんにも楽しいことがなかった。ヴィーがいない生活はもうイヤなんだよ…」
ロレックスさんの話を聞きながら、シーラの存在はどこにあるのかと戦慄する思いだった。ロレックスさんの妻はヴィーちゃんだっただろうか…?
愛の告白にしか聞こえないロレックスさんの言葉に内心ザワザワしていると、ヴィーちゃんは泣きながら言った。
「自分勝手なことを言ってすみません、…自分がやられてイヤだったのに、…っ、でも…っ!
でも、私はカーディナル魔法国に住みたい、これだけはお願いします」
「ヴィー、…イヤだ」
「お父様…っ」
「イヤだ、そんなの、じゃあ僕は?僕だけ、ヴィーと離れて暮らせって?ひどいよ、ヴィー、イヤだよ…」
ヴィーちゃんにしがみついて泣くロレックスさんは、もはやヴィーちゃんに捨てられる恋人のようだった。シーラ…可哀想に…と現実逃避する私の耳に、陛下の衝撃的な言葉が突き刺さった。
「オルスタイン宰相、…カーディナルに移住する気はないか?」
107
お気に入りに追加
8,258
あなたにおすすめの小説
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
【R18】義弟ディルドで処女喪失したらブチギレた義弟に襲われました
春瀬湖子
恋愛
伯爵令嬢でありながら魔法研究室の研究員として日々魔道具を作っていたフラヴィの集大成。
大きく反り返り、凶悪なサイズと浮き出る血管。全てが想像以上だったその魔道具、名付けて『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』を作り上げたフラヴィは、早速その魔道具でうきうきと処女を散らした。
――ことがディルドの大元、義弟のパトリスにバレちゃった!?
「その男のどこがいいんですか」
「どこって……おちんちん、かしら」
(だって貴方のモノだもの)
そんな会話をした晩、フラヴィの寝室へパトリスが夜這いにやってきて――!?
拗らせ義弟と魔道具で義弟のディルドを作って楽しんでいた義姉の両片想いラブコメです。
※他サイト様でも公開しております。
【R-18】後宮に咲く黄金の薔薇
ゆきむら さり
恋愛
稚拙ながらもHOTランキング入りさせて頂けました🤗 5/24には16位を頂き、文才の乏しい私には驚くべき順位です!皆様、本当にありがとうございます🧡
〔あらすじ〕📝小国ながらも豊かなセレスティア王国で幸せに暮らしていた美しいオルラ王女。慈悲深く聡明な王女は国の宝。ーしかし、幸福な時は突如終わりを告げる。
強大なサイラス帝国のリカルド皇帝が、遂にセレスティア王国にまで侵攻し、一夜のうちに滅亡させてしまう。挙げ句、戦利品として美しいオルラ王女を帝国へと連れ去り、皇帝の後宮へと閉じ籠める。嘆くオルラ王女に、容赦のない仕打ちを与える無慈悲な皇帝。そしてオルラ王女だけを夜伽に召し上げる。
国を滅ぼされた哀れ王女と惨虐皇帝。果たして二人の未来はー。
※設定などは独自の世界観でご都合主義。R作品。ハッピエン♥️
クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった
山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』
色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる