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第四章

それぞれの思惑①(ケイトリン視点)

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「私を、カーディナル魔法国の一員にしていただきたいのです」

ヴィーちゃんが言った言葉を、すぐに理解できなかった。カーディナル魔法国の一員に…?

私よりも、ロレックスさんの反応が早かった。

「ヴィー!?な、なん、な、何を言ってるんだい!?」

ロレックスさんはバッと立ち上がるとヴィーちゃんの前にしゃがみこみ、目線を合わせた。

「どういうこと?なんで?モンタリアーノ国に帰らないってこと?」

ヴィーちゃんは、ロレックスさんをじっと見つめた。

「お父様、オルスタイン家には、アレックスとカーティスが生まれました」

「うん、生まれたよ、それが!?」

「お父様は聞いているかどうかわかりませんが、私、魔力が発現して、いま、おばあ様とケビンさんに訓練を受けているんです」

剣の訓練はまだしていません、お父様が言ってくださったのに、というヴィーちゃんの肩を掴んでロレックスさんは「ヴィー!」と叫んだ。

「なんで、なんでカーディナルの一員になりたいのか、それを言ってくれ!」

「…私は、魔法を使って生きていきたいのです」

「なんで、モンタリアーノ国じゃダメなんだ!?」

「モンタリアーノ国は、魔法を使う国ではないからです」

「初めての魔法使いになればいいじゃないか!!」

ヴィーちゃんは、困ったような顔でロレックスさんを見た。

「受け入れる素地がないから、殿下はあんな風にねじくれてしまったんですよ、お父様。お父様は、それを目の当たりに見たからこそ、殿下をカーディナルにこさせたのでしょう?」

「そ、れは、そうだけど…」

グッと詰まるロレックスさんにヴィーちゃんが言う。

「前回の人生の通り、魔力を自覚しなければモンタリアーノ国で暮らせたでしょう。だけど、私は今回魔力を発現しました。それを、活かせるところで生きていきたいのです」

私は震える体を必死に抑えて陛下を見た。陛下も驚いたように私を見ている。私が願ったことを…ヴィーちゃんに押し付けたりはできない、しょせん叶わぬ夢だと諦めるしかないと思っていたことを、ヴィーちゃん自身が口にしてくれるなんて…!!

「お父様」

ロレックスさんは俯いたまま答えない。答えられないのだろう、ショックが大きすぎて。最愛のヴィーちゃんが、まさか、国を出たいと言うなんて。もし私がロレックスさんの立場だったらと思うと…抉られるように胸が痛む。

「お父様」

ヴィーちゃんにもう一度呼ばれて、ロレックスさんはノロノロと顔をあげた。ゴッソリと表情が抜け落ちて、真っ青な顔はまるで幽鬼のようだ。

「私は、前回の人生で死ぬ直前、殿下に抱き抱えられました」

ヴィーちゃんの言葉に頷くこともなく、ロレックスさんはただヴィーちゃんを見ている。

「私を蔑み、虐げてきた相手に抱かれて死ぬなんて、私が何をしたというのだろう?誰にも逆らわず、目立たないように、なにもしないで生きてきたのに、なんでこんな目に合わなくてはならないのか、と。悔しくて悔しくて、でもその時気づいたのです。
私は、何もしなかったのだと。ただ逃げるだけで、諦めて、闘わなかったと。
だから、誓ったのです。もう一度生きなおせるなら、次は逃げないと。精一杯生きると」

ヴィーちゃんの瞳は強く輝いていた。

「せっかく、手にすることができたのです。私は、これを…魔力を活かして生きていきます」

ロレックスさんは、ヴィーちゃんの顔を見つめたまま動かない。まるで石像にでもなってしまったかのようだ。

「お母様から、貴族クラスの魔力は発現させる訓練をしなければ発現しないと聞きました、…前回の私のように。
だから、アレックスとカーティスには魔力を発現させずに、モンタリアーノ国でお父様の跡をつがせれば、」

「ヴィー!!」

ロレックスさんが叫び、ヴィーちゃんがビクリとする。

ロレックスさんの瞳は怒りで燃え滾っていた。

「ヴィーが、カーディナルで生きていきたい。それはわかった。自分が思うように、後悔しないように生きていきたい。それもわかった。だけど、」

ロレックスさんはまたヴィーちゃんの肩を掴んだ。

「自分がそうやって生きるのに、アレックスとカーティスの人生をなぜ勝手に決める?お父様は魔力が見えないし、魔法も使えない。生まれた二人がどのくらいの魔力かわからないよ、だけど!
魔力を持ってるかもしれないのに、それを使わず生きろって?ヴィーは魔力を使う人生を選ぶのに、二人には知らせないで魔力を発現させないって?
なぜ自分の姉がカーディナル魔法国に住んでいるのか、疑問に思うだろう。シーラの出身地を黙って、こちらの祖父母にも会わせず、一切関係をたてと?ヴィーは、二人に姉だと名乗る気がないということか?」

ヴィーちゃんは真っ青な顔になって、「いいえ、」と言ったが、ロレックスさんは許さなかった。

「勝手に、誰かの人生を決める権利はない、ヴィーだって、前回ジークフリート皇子にそうされたじゃないか、それについて文句を言ってやるって、そう言ったじゃないか!」

ヴィーちゃんはボロボロと涙をこぼした。ロレックスさんも泣いていた。

「ヴィー、僕はもう、ヴィーと離れた人生はイヤなんだ。この4ヶ月、寂しくて寂しくて、生きている実感がなかった。ヴィーがいない邸に帰りたくなくて毎日城に寝泊まりした。仕事は確かにはかどったよ、だけど、なんにも楽しいことがなかった。ヴィーがいない生活はもうイヤなんだよ…」

ロレックスさんの話を聞きながら、シーラの存在はどこにあるのかと戦慄する思いだった。ロレックスさんの妻はヴィーちゃんだっただろうか…?

愛の告白にしか聞こえないロレックスさんの言葉に内心ザワザワしていると、ヴィーちゃんは泣きながら言った。

「自分勝手なことを言ってすみません、…自分がやられてイヤだったのに、…っ、でも…っ!
でも、私はカーディナル魔法国に住みたい、これだけはお願いします」

「ヴィー、…イヤだ」

「お父様…っ」

「イヤだ、そんなの、じゃあ僕は?僕だけ、ヴィーと離れて暮らせって?ひどいよ、ヴィー、イヤだよ…」

ヴィーちゃんにしがみついて泣くロレックスさんは、もはやヴィーちゃんに捨てられる恋人のようだった。シーラ…可哀想に…と現実逃避する私の耳に、陛下の衝撃的な言葉が突き刺さった。

「オルスタイン宰相、…カーディナルに移住する気はないか?」



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