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第四章
殿下の秘密?②
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読み始めてすぐに、身体から血の気が引くのを感じる。
「…毎日、見に来てた…?」
陛下は気の毒そうな顔で私を見ていた。お父様とおばあ様は諦めたような顔で笑っていて、…お母様はいなかった。
「ちょっと刺激が強すぎるから、やっぱり出ていってもらったわ」
おばあ様はそう言うと「ヴィーちゃん」と私を呼んだ。
「はい…」
「ジークフリート皇子はね。簡単に言うと、魔力は高くて魔法も一級品だけど、それ以外は成長が伴わなかったの。誰にもきかず、教えてもらうこともせず、ただヴィーちゃんを好きだ、自分のものにしたい、それしかなくて。
肝心のヴィーちゃんの気持ちも、周りの人たちの困惑とか迷惑とか巻き込まれた人たちの行く末とか、なんにも考えられずに突っ走っちゃったみたい」
「あの、陛下」
「なんだい」
「私の部屋に入った、って…」
「不法侵入だ。申し訳ない」
「触った、って、」
「申し訳ない」
「カーディナルに一緒に住む…?誰が?誰と?」
「キミとジークだ」
「な、」
頭がクラクラして目の前もチカチカする。
「私、一言も言われてないです、こんな、」
限界を迎えた私はそこで意識が途切れた。
目が覚めると、椅子に座ったお父様に横抱きにされていた。
「ヴィー、大丈夫かい?良かった、目が覚めて」
お父様はホッとしたように息を吐くと、私の髪を撫でた。
「ルヴィア嬢、大丈夫か」
声のしたほうに視線を向けると、そこには陛下が。慌てて立ち上がろうとすると「いや、頼むからそのままいてくれ」と言われる。
お父様が、私を椅子に座らせてくれた。
「…すまないな。いくらなんでも、急すぎたよな」
「陛下からお聞きしてはいましたが、こうして改めて文字で見ると…かなり怖いですね、ジークフリート皇子は」
「拗らせすぎよね…」
おばあ様もウンウンと頷く。
二人の様子を見て私は言った。
「お父様も、おばあ様も、これをご存知だったのですか?」
二人は顔を見合わせるとコクリと頷いた。
「あのね、ヴィーちゃん」
「…はい」
「確かに以前の人生でジークフリート皇子がヴィーちゃんに対してしたことは、許されないことばかりだと思う。暴言、蔑みはもちろんだけど、…知らないうちにこんなことされてたんだからね」
本当にその通りだ。
「ジークフリート皇子は、3歳のときに家族が味方になってくれなかった」
お父様がポツリと言った。
「ひとりぼっちで、何をするでもなく毎日図書館に来て本の背表紙に目を向けて…でも、何を映すでもない虚ろな瞳が僕は耐えられなくてね。
だから、家族から離れてカーディナルに行けばいいと勧めてしまったんだ。あのまま、死んでいるように生きている彼を見ていられなかった」
「カーディナルに来て、陛下や魔術団に受け入れてもらったけど、心の奥にある虚無感みたいなものはなくならなかったんじゃないかと思うのよね。
元々魔力を暴走させてしまったのも、自分の存在を否定されたことによるものだし。
埋めたくても埋められない寂しさを抱えていたジークフリート皇子が、ヴィーちゃんを見て心が満たされたのですって」
「心が、満たされた」
「そうだ。あいつは、キミを初めて見たときにひどく嬉しそうに笑ったんだ。影がある笑いしかしなかったあいつが、5歳児らしく、それは嬉しそうに笑ったんだ」
陛下は私を見ると苦しそうな表情になった。
「ルヴィア嬢」
「はい」
「正直言って、私も、ジークのやったことや考えていたことは理解しがたい。その…気持ち悪いだろう?」
気持ち悪い…気持ち悪いというか、
「自分で自己完結して周りを見るつもりがない、権力だけはあるダメ皇子だと思いまして…気持ち悪いというか、なんでこんなふうに勝手なことするのかな、って」
私はだんだん腹が立ってきた。
「私は、自分に魔力があることを知りませんでした。だから、魔力を発現させたかったという殿下の言い分は聞きません。一言も、殿下は私に言いませんでした。
殿下が私を5歳の時から知っていて、見に来ていることも知らなかった。
私を妃候補から外した理由も知らなかった。
先ほど、」
私は陛下を見た。
「殿下も18歳で亡くなったと書いてありました。なぜ亡くなったのですか?」
「ルヴィア嬢が死んだから、後を追って自殺したそうだ」
「な、」
自殺ですって…?
「殿下は、ご自分が皇太子であるのに、その責任を放棄したのですか?私を追って自殺した?」
「ルヴィア嬢、ひとついいか?」
ぶつぶつ呟いている私に陛下が声をかける。
「なんでしょうか」
「キミは、モンタリアーノ国の公爵家の令嬢に突き落とされたそうだが、理由を知っているか?」
「理由、ですか?」
「ああ。ジークは、『ルヴィと公爵家の令嬢に接点はなかった。なぜ彼女を突き落としたのかわからない』と言っていた」
「サフィア・コリンズ様とは、直接の面識はございませんでした。私を突き落とす前にサフィア様は、『殿下の婚約者は私である。貴女のように候補などではない。貴女がいたせいで、殿下の時間が無駄になったのだから、死んで罪を償え』と仰いました」
今まで、突き落とされた瞬間を思い出すと身体が冷えて震えそうになっていたが、殿下のあまりにも勝手すぎる行動の数々に頭に血がのぼっていた私は、サフィア様を思い出しても怖さを感じなかった。
「ジークの正式な婚約者…?」
陛下は首を傾げると、「まったくわからない。あいつは一体、前回の人生でなにをやってたんだ…!」と顔をしかめた。
「…毎日、見に来てた…?」
陛下は気の毒そうな顔で私を見ていた。お父様とおばあ様は諦めたような顔で笑っていて、…お母様はいなかった。
「ちょっと刺激が強すぎるから、やっぱり出ていってもらったわ」
おばあ様はそう言うと「ヴィーちゃん」と私を呼んだ。
「はい…」
「ジークフリート皇子はね。簡単に言うと、魔力は高くて魔法も一級品だけど、それ以外は成長が伴わなかったの。誰にもきかず、教えてもらうこともせず、ただヴィーちゃんを好きだ、自分のものにしたい、それしかなくて。
肝心のヴィーちゃんの気持ちも、周りの人たちの困惑とか迷惑とか巻き込まれた人たちの行く末とか、なんにも考えられずに突っ走っちゃったみたい」
「あの、陛下」
「なんだい」
「私の部屋に入った、って…」
「不法侵入だ。申し訳ない」
「触った、って、」
「申し訳ない」
「カーディナルに一緒に住む…?誰が?誰と?」
「キミとジークだ」
「な、」
頭がクラクラして目の前もチカチカする。
「私、一言も言われてないです、こんな、」
限界を迎えた私はそこで意識が途切れた。
目が覚めると、椅子に座ったお父様に横抱きにされていた。
「ヴィー、大丈夫かい?良かった、目が覚めて」
お父様はホッとしたように息を吐くと、私の髪を撫でた。
「ルヴィア嬢、大丈夫か」
声のしたほうに視線を向けると、そこには陛下が。慌てて立ち上がろうとすると「いや、頼むからそのままいてくれ」と言われる。
お父様が、私を椅子に座らせてくれた。
「…すまないな。いくらなんでも、急すぎたよな」
「陛下からお聞きしてはいましたが、こうして改めて文字で見ると…かなり怖いですね、ジークフリート皇子は」
「拗らせすぎよね…」
おばあ様もウンウンと頷く。
二人の様子を見て私は言った。
「お父様も、おばあ様も、これをご存知だったのですか?」
二人は顔を見合わせるとコクリと頷いた。
「あのね、ヴィーちゃん」
「…はい」
「確かに以前の人生でジークフリート皇子がヴィーちゃんに対してしたことは、許されないことばかりだと思う。暴言、蔑みはもちろんだけど、…知らないうちにこんなことされてたんだからね」
本当にその通りだ。
「ジークフリート皇子は、3歳のときに家族が味方になってくれなかった」
お父様がポツリと言った。
「ひとりぼっちで、何をするでもなく毎日図書館に来て本の背表紙に目を向けて…でも、何を映すでもない虚ろな瞳が僕は耐えられなくてね。
だから、家族から離れてカーディナルに行けばいいと勧めてしまったんだ。あのまま、死んでいるように生きている彼を見ていられなかった」
「カーディナルに来て、陛下や魔術団に受け入れてもらったけど、心の奥にある虚無感みたいなものはなくならなかったんじゃないかと思うのよね。
元々魔力を暴走させてしまったのも、自分の存在を否定されたことによるものだし。
埋めたくても埋められない寂しさを抱えていたジークフリート皇子が、ヴィーちゃんを見て心が満たされたのですって」
「心が、満たされた」
「そうだ。あいつは、キミを初めて見たときにひどく嬉しそうに笑ったんだ。影がある笑いしかしなかったあいつが、5歳児らしく、それは嬉しそうに笑ったんだ」
陛下は私を見ると苦しそうな表情になった。
「ルヴィア嬢」
「はい」
「正直言って、私も、ジークのやったことや考えていたことは理解しがたい。その…気持ち悪いだろう?」
気持ち悪い…気持ち悪いというか、
「自分で自己完結して周りを見るつもりがない、権力だけはあるダメ皇子だと思いまして…気持ち悪いというか、なんでこんなふうに勝手なことするのかな、って」
私はだんだん腹が立ってきた。
「私は、自分に魔力があることを知りませんでした。だから、魔力を発現させたかったという殿下の言い分は聞きません。一言も、殿下は私に言いませんでした。
殿下が私を5歳の時から知っていて、見に来ていることも知らなかった。
私を妃候補から外した理由も知らなかった。
先ほど、」
私は陛下を見た。
「殿下も18歳で亡くなったと書いてありました。なぜ亡くなったのですか?」
「ルヴィア嬢が死んだから、後を追って自殺したそうだ」
「な、」
自殺ですって…?
「殿下は、ご自分が皇太子であるのに、その責任を放棄したのですか?私を追って自殺した?」
「ルヴィア嬢、ひとついいか?」
ぶつぶつ呟いている私に陛下が声をかける。
「なんでしょうか」
「キミは、モンタリアーノ国の公爵家の令嬢に突き落とされたそうだが、理由を知っているか?」
「理由、ですか?」
「ああ。ジークは、『ルヴィと公爵家の令嬢に接点はなかった。なぜ彼女を突き落としたのかわからない』と言っていた」
「サフィア・コリンズ様とは、直接の面識はございませんでした。私を突き落とす前にサフィア様は、『殿下の婚約者は私である。貴女のように候補などではない。貴女がいたせいで、殿下の時間が無駄になったのだから、死んで罪を償え』と仰いました」
今まで、突き落とされた瞬間を思い出すと身体が冷えて震えそうになっていたが、殿下のあまりにも勝手すぎる行動の数々に頭に血がのぼっていた私は、サフィア様を思い出しても怖さを感じなかった。
「ジークの正式な婚約者…?」
陛下は首を傾げると、「まったくわからない。あいつは一体、前回の人生でなにをやってたんだ…!」と顔をしかめた。
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