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皇太子サイド
今度こそ③
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ルヴィの魔力を感じることができなくて呆然とする俺に、母上が声をかける。
「ジーク、あなたが毎日確認してた魔力、あれ、オルスタイン宰相のお嬢さんでしょう」
ハッとして母上を見ると、「私だってそのくらいわかるわよ。ましてや今は貴方、同じ空間にいるんだから」と言う。
「…魔力が、探れません」
ルヴィに、何か起きたのか?魔力を感じられないなんて、まさか、また、
自分の体がスウッと冷たくなり、ガタガタと震え出す。思い出すのは、あの時のルヴィの手の冷たさ。まさか、まさか、
震える俺の手に温かい何かが触れた。
「にいたま、どこかいたい?」
心配そうな顔をして俺を見るカイルが、一生懸命手を擦ってくれる。ほんのりとあたたかくなり、震えが落ち着いてくる。
「カイル、ありがとう」
「にいたま、だいじょぶ?」
「ああ、カイルのおかげで大丈夫だ」
エヘヘ、と笑うカイルはそのまま俺の手を擦ってくれた。
「ジーク、貴方、なぜオルスタイン宰相のお嬢さんの魔力を探ってたの?」
母上の質問にビクッと体が反応する。
なんと説明すればいいのかわからず黙っていると、
「かあたま、にいたまいじめる、ダメ!」
とカイルが俺の前に立って通せんぼのような格好をした。
「いじめてないわよ」
「いじめてない、くない」
母上は苦笑いすると、「秘密が多い息子にしちゃったのも、元はと言えば私だものね」と言った。
「さっき、エルネストが騒いでたわ。『僕に仕事を押し付けようとするからだ、因果応報だ』って。
オルスタイン宰相の奥方とお嬢さん、一週間も帰宅しない彼に愛想をつかせてカーディナル魔法国に行ってしまったそうよ」
「え!?」
以前の人生で、ルヴィがカーディナル魔法国と関わりを持ったことはなかったはずだ。関わらなかったからこそ、彼女の魔力は発現しなかったのだ。俺のやり方では、結局ダメだった。最期まで、ルヴィの使う魔法を見ることは叶わなかった。
以前と同じ人間に戻ったのに、こんなにも出来事が異なるなんて。
そこでハッと気づく。俺が皇太子にならず、この国を離れたらルヴィとの接点もなくなる。皇太子ではない俺に、ルヴィが妃候補となるはずがない。
自分がカーディナル魔法国に行くことばかり考えて、ルヴィとの関係性が変わることに気づいていなかった。ルヴィを自分のものにすると言いながら、前回と同じようにしか考えていなかった。
ルヴィがカーディナルにいつまでいるのかもわからない。
この国から出て、この先ルヴィと出会うことはできるのだろうか?
自分の愚かさに舌打ちしたくなった俺に、母上が言う。
「オルスタイン宰相の奥方は、元々私の近衛だった女性なの」
「…叔母上に、聞きました」
「いつ?」
「こちらに、一緒に戻ってくださったときに」
「どうして?」
「…彼女の、娘の方の魔力を、感知したからです」
「それで?」
「叔母上と、どんな人物か見に行ったんです」
母上は、ハーッと呆れたように嘆息して天を仰いだ。
「貴方たち、何をしてるのよ…。
覗き見とか、あまり褒められた趣味じゃないわよ」
「…すみません。でも、モンタリアーノ国に、母上とカイル以外の魔力があるなんて俺は思いもしなくて、どんな人なのか、確かめたくなってしまったんです」
「確かめたのに、毎日魔力を探ってたの?」
「それは、」
「ジーク」
母上は俺の両肩をグッと掴んだ。ものすごい力だ。
「貴方、変質者みたいよ」
「変質者…?」
「女の子を追いかけ回して、」
「追いかけてません!」
「魔力を追いかけてるじゃない!」
グッと詰まった俺に母上の容赦ない言葉が続く。
「自分がまったく知らないうちに、知らない人に自分のことを探られてどんな気持ちがする?
貴方、相手の気持ちをなんにも考えずにただ自分の欲求を満たそうとしてるだけよ」
「でも、」
「直接会う勇気もないから、そんな気持ち悪いことするのね」
「気持ち悪い…」
「気持ち悪いでしょ。貴方、ぜんぜん会ったこともない同い年の女の子に、『殿下、私、ずっと殿下のこと見てました!』って言われて、この日はここで誰と何してましたね、って具体的に自分の行動をこと細かく話されて、『嬉しい!キミはなんて情熱的なんだ!いますぐ結婚しよう!』ってなる?」
「…いろいろおかしいですが、そんなこと言われたら怖いです」
「貴方、それをやってるんだけど」
「俺は、毎日見てません!」
そう、見てない。今は。
「魔力を探ってる時点で同じよ!」
言い合う俺と母上を見てオロオロするカイルは、「かあたま、」「にいたま、」とふたりの間を行ったりきたりする。
「そもそも、俺の立場もそうだし、彼女だって…そんな簡単に会ったりできるわけないじゃないですか」
「貴方は何を言ってるの?
同じくらいの年の子どもを城に集める方法なんていくらでもあるじゃない」
「え?」
「貴方の御披露目も兼ねて誕生日パーティーをするとか!私が主催して小さなレディたちを集めるお茶会と言う名の婚約者選定会をするとか!
一対一で会うのは難しくても、実際に会おうとすればできるのよ!」
貴方の立場なら否応なしにね、と母上は皮肉たっぷりに言った。
「でも、彼女が来るとは、」
「断れないようにする手だっていくらもあるのよ」
貴方は言い訳ばっかりね、と呆れたように俺を見て、「まぁ、私が相談できる母親じゃないから仕方ないけど。でも、」
母上は冷えきった視線をよこす。
「気持ち悪いわ」
「…ただ、魔力を探ってるだけですよ」
本当は以前の人生のように、毎日見に行くつもりだったのだがそれについては黙っていた。
「わかったわ。じゃあ、今から貴方、カーディナルに行きなさい」
「え…?」
「行って、あちらでお世話になった方々に聞いてきなさい。貴方がやっていることをどう思うか。
この母の言葉が信じられないのでしょう」
母上は、チラリと俺を見ると、「オルスタイン宰相の奥方のお母様はね、」とニヤリと嗤った。
「…なんですか」
「ものすごい腕前の魔術師なの。私がこちらに来てから何年かして、魔術団団長を辞したと聞いたけれど」
「…その人がなにか?」
母上の言いたいことがまったくわからずイライラしながら聞く。
「貴方、オルスタイン宰相の奥方の魔力も見た?」
「近くに行って、ようやく感知できましたが、それが、」
「お嬢さんは魔力が高いわね」
「だから、いったい、何が言いたいんですか!?」
「団長の娘は魔力が低く、父親と同じく騎士になった。息子も同じ。団長は、とてもガッカリしてたの。
そこに、あの魔力量の子どもが…自分の孫がやってくる。
団長はきっと、」
母上はこの上なく嬉しそうに嗤った。
「カティの力を借りてでも、そのお孫さんをカーディナルにとどめようとするでしょうね」
「どうやって、留め置くのですか」
これだから、と言って頭を軽く振ると、母上はニヤニヤした。
「あちらで結婚させるとか、ね」
「ルヴィは、モンタリアーノ国の人間ですよ!?」
「あら、ルヴィちゃんっていうの」
しまった、と思ったものの、「カーディナルで結婚なんて、オルスタイン宰相が黙ってるはずが、」そもそも俺以外の人間と結婚なんて、と思いながら反論すると、
「貴方は団長に会ったことがないからね」
ウフフと笑って、「彼女は、自分が決めたことはどんなことをしてもやりとげるのよ。どんなことをしても、ね」
もう婚約者とか決まっちゃってたりして~!とニヤニヤする。
行ったばかりでそんなわけがない、と言いたかったがもう限界だった。
「ジーク!ちゃんと聞いてくるのよ!」
嬉しそうに叫ぶ母上を睨み付け、俺はカーディナル魔法国に飛んだ。
「にいたま!かいるも!」
と聞こえた声に、ごめん、と謝りながら。
「ジーク、あなたが毎日確認してた魔力、あれ、オルスタイン宰相のお嬢さんでしょう」
ハッとして母上を見ると、「私だってそのくらいわかるわよ。ましてや今は貴方、同じ空間にいるんだから」と言う。
「…魔力が、探れません」
ルヴィに、何か起きたのか?魔力を感じられないなんて、まさか、また、
自分の体がスウッと冷たくなり、ガタガタと震え出す。思い出すのは、あの時のルヴィの手の冷たさ。まさか、まさか、
震える俺の手に温かい何かが触れた。
「にいたま、どこかいたい?」
心配そうな顔をして俺を見るカイルが、一生懸命手を擦ってくれる。ほんのりとあたたかくなり、震えが落ち着いてくる。
「カイル、ありがとう」
「にいたま、だいじょぶ?」
「ああ、カイルのおかげで大丈夫だ」
エヘヘ、と笑うカイルはそのまま俺の手を擦ってくれた。
「ジーク、貴方、なぜオルスタイン宰相のお嬢さんの魔力を探ってたの?」
母上の質問にビクッと体が反応する。
なんと説明すればいいのかわからず黙っていると、
「かあたま、にいたまいじめる、ダメ!」
とカイルが俺の前に立って通せんぼのような格好をした。
「いじめてないわよ」
「いじめてない、くない」
母上は苦笑いすると、「秘密が多い息子にしちゃったのも、元はと言えば私だものね」と言った。
「さっき、エルネストが騒いでたわ。『僕に仕事を押し付けようとするからだ、因果応報だ』って。
オルスタイン宰相の奥方とお嬢さん、一週間も帰宅しない彼に愛想をつかせてカーディナル魔法国に行ってしまったそうよ」
「え!?」
以前の人生で、ルヴィがカーディナル魔法国と関わりを持ったことはなかったはずだ。関わらなかったからこそ、彼女の魔力は発現しなかったのだ。俺のやり方では、結局ダメだった。最期まで、ルヴィの使う魔法を見ることは叶わなかった。
以前と同じ人間に戻ったのに、こんなにも出来事が異なるなんて。
そこでハッと気づく。俺が皇太子にならず、この国を離れたらルヴィとの接点もなくなる。皇太子ではない俺に、ルヴィが妃候補となるはずがない。
自分がカーディナル魔法国に行くことばかり考えて、ルヴィとの関係性が変わることに気づいていなかった。ルヴィを自分のものにすると言いながら、前回と同じようにしか考えていなかった。
ルヴィがカーディナルにいつまでいるのかもわからない。
この国から出て、この先ルヴィと出会うことはできるのだろうか?
自分の愚かさに舌打ちしたくなった俺に、母上が言う。
「オルスタイン宰相の奥方は、元々私の近衛だった女性なの」
「…叔母上に、聞きました」
「いつ?」
「こちらに、一緒に戻ってくださったときに」
「どうして?」
「…彼女の、娘の方の魔力を、感知したからです」
「それで?」
「叔母上と、どんな人物か見に行ったんです」
母上は、ハーッと呆れたように嘆息して天を仰いだ。
「貴方たち、何をしてるのよ…。
覗き見とか、あまり褒められた趣味じゃないわよ」
「…すみません。でも、モンタリアーノ国に、母上とカイル以外の魔力があるなんて俺は思いもしなくて、どんな人なのか、確かめたくなってしまったんです」
「確かめたのに、毎日魔力を探ってたの?」
「それは、」
「ジーク」
母上は俺の両肩をグッと掴んだ。ものすごい力だ。
「貴方、変質者みたいよ」
「変質者…?」
「女の子を追いかけ回して、」
「追いかけてません!」
「魔力を追いかけてるじゃない!」
グッと詰まった俺に母上の容赦ない言葉が続く。
「自分がまったく知らないうちに、知らない人に自分のことを探られてどんな気持ちがする?
貴方、相手の気持ちをなんにも考えずにただ自分の欲求を満たそうとしてるだけよ」
「でも、」
「直接会う勇気もないから、そんな気持ち悪いことするのね」
「気持ち悪い…」
「気持ち悪いでしょ。貴方、ぜんぜん会ったこともない同い年の女の子に、『殿下、私、ずっと殿下のこと見てました!』って言われて、この日はここで誰と何してましたね、って具体的に自分の行動をこと細かく話されて、『嬉しい!キミはなんて情熱的なんだ!いますぐ結婚しよう!』ってなる?」
「…いろいろおかしいですが、そんなこと言われたら怖いです」
「貴方、それをやってるんだけど」
「俺は、毎日見てません!」
そう、見てない。今は。
「魔力を探ってる時点で同じよ!」
言い合う俺と母上を見てオロオロするカイルは、「かあたま、」「にいたま、」とふたりの間を行ったりきたりする。
「そもそも、俺の立場もそうだし、彼女だって…そんな簡単に会ったりできるわけないじゃないですか」
「貴方は何を言ってるの?
同じくらいの年の子どもを城に集める方法なんていくらでもあるじゃない」
「え?」
「貴方の御披露目も兼ねて誕生日パーティーをするとか!私が主催して小さなレディたちを集めるお茶会と言う名の婚約者選定会をするとか!
一対一で会うのは難しくても、実際に会おうとすればできるのよ!」
貴方の立場なら否応なしにね、と母上は皮肉たっぷりに言った。
「でも、彼女が来るとは、」
「断れないようにする手だっていくらもあるのよ」
貴方は言い訳ばっかりね、と呆れたように俺を見て、「まぁ、私が相談できる母親じゃないから仕方ないけど。でも、」
母上は冷えきった視線をよこす。
「気持ち悪いわ」
「…ただ、魔力を探ってるだけですよ」
本当は以前の人生のように、毎日見に行くつもりだったのだがそれについては黙っていた。
「わかったわ。じゃあ、今から貴方、カーディナルに行きなさい」
「え…?」
「行って、あちらでお世話になった方々に聞いてきなさい。貴方がやっていることをどう思うか。
この母の言葉が信じられないのでしょう」
母上は、チラリと俺を見ると、「オルスタイン宰相の奥方のお母様はね、」とニヤリと嗤った。
「…なんですか」
「ものすごい腕前の魔術師なの。私がこちらに来てから何年かして、魔術団団長を辞したと聞いたけれど」
「…その人がなにか?」
母上の言いたいことがまったくわからずイライラしながら聞く。
「貴方、オルスタイン宰相の奥方の魔力も見た?」
「近くに行って、ようやく感知できましたが、それが、」
「お嬢さんは魔力が高いわね」
「だから、いったい、何が言いたいんですか!?」
「団長の娘は魔力が低く、父親と同じく騎士になった。息子も同じ。団長は、とてもガッカリしてたの。
そこに、あの魔力量の子どもが…自分の孫がやってくる。
団長はきっと、」
母上はこの上なく嬉しそうに嗤った。
「カティの力を借りてでも、そのお孫さんをカーディナルにとどめようとするでしょうね」
「どうやって、留め置くのですか」
これだから、と言って頭を軽く振ると、母上はニヤニヤした。
「あちらで結婚させるとか、ね」
「ルヴィは、モンタリアーノ国の人間ですよ!?」
「あら、ルヴィちゃんっていうの」
しまった、と思ったものの、「カーディナルで結婚なんて、オルスタイン宰相が黙ってるはずが、」そもそも俺以外の人間と結婚なんて、と思いながら反論すると、
「貴方は団長に会ったことがないからね」
ウフフと笑って、「彼女は、自分が決めたことはどんなことをしてもやりとげるのよ。どんなことをしても、ね」
もう婚約者とか決まっちゃってたりして~!とニヤニヤする。
行ったばかりでそんなわけがない、と言いたかったがもう限界だった。
「ジーク!ちゃんと聞いてくるのよ!」
嬉しそうに叫ぶ母上を睨み付け、俺はカーディナル魔法国に飛んだ。
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