32 / 110
皇太子サイド
モンタリアーノへの帰還①
しおりを挟む
俺がカーディナルに来て半年ほど経つと、叔母上との訓練が始まった。
自分の中にある魔力の塊を認識して、それを自分の意思で形を整えることが魔力をコントロールする第一歩だという。
「溢れるくらいの魔力量に恵まれていながら、なぜ感知できない?おまえはやる気があるのか!?」
…叔母上は、この上なく厳しかった。
言葉で痛め付けられるのはもちろん、髪の毛を引っ張り上げられたり蹴られたり、突き飛ばされたりした。
ボロボロになって部屋に戻ってくる俺を見て、アキラさんはボロボロ泣いた。
「3歳相手にこんなの許されんの!?日本だったら虐待で即逮捕だろ!?ファンタジー要素どこ行った!?」
第五部隊の人たちに手当てをしてもらいながらぐったりする俺を見て、アキラさんはリッツさんにやめさせるべきだと直訴したらしい。
しかし、リッツさんに、「じゃあ、おまえはジークの居場所がなくなってもいいんだな」と言われて撃沈したと伝え聞いた。
「…ジーク君。僕、なんにもできなくて…ほんとに、申し訳ない」
ブルブル震えながら色が変わるほど自分の手を握りしめるアキラさん。
「アキラさん、…心配していただいて、ありがとうございます」
俺の言葉を聞いてアキラさんはバッと顔を上げる。
「ジーク君」
「でも、アキラさん、俺…大丈夫です。
こうやって、手当てもしてもらえるし…何より、叔母上がやってくれているのは、俺に対する愛情だと思っていますから」
叔母上は厳しい。でも、どんなに時間がなくても必ず俺との時間を作ってくれる。カーディナル魔法国の女王なのに、魔術団にきて、俺と一緒にご飯を食べたりしてくれる。俺のたどたどしい、どうでもいい話も一生懸命聞いてくれる。モンタリアーノにいたときのように、自分の存在を疑問視するようなことは一度もなかった。
「それでも…!それでも、虐待は!犯罪です!」
アキラさんの怒る様が面白くて思わず笑ってしまう。
叔母上と訓練できない日は、ひたすら自分の魔力と向き合うことに集中した。自分の内側へ、内側へと意識を向ける。
更に半年が過ぎた頃、俺はようやく自分の中の魔力を感知できるようになった。それと同時に、強い魔力を持っている人からは魔力を感じられるようになった。
叔母上は、俺を実際の戦場に連れ出すようになった。敵からの攻撃が届かない範囲で、カーディナルの魔術団の動きをひたすら見て記録するように言われた。
最初のうちは、恐ろしくて目を開けることができず、叔母上に「ムダな時間を過ごすんじゃない!仲間の動きを学ぶ絶好の機会なんだぞ!」と怒鳴られた。我慢して見ているうちに、魔力の出力の仕方が人それぞれ違うことが見て取れるようになってきた。
そうこうするうちに、その人の特性、魔力の色がわかるようになった。
叔母上に伝えると、満足気に頷いてくれた。魔力を感知できるようになってから、更に一年が過ぎていた。
「ジーク。一度、モンタリアーノ国に戻るといい」
思いがけない言葉に叔母上を見返すと、
「何も、追い出そうというんじゃない。…そんな、傷ついたような顔をするな」
困ったような顔で叔母上は俺の頭を撫でた。
「魔法を使う訓練もまだしてない。いつでも帰ってくればいい」
「帰って…?」
「ああ。自分の特性を使いこなすのはまだまだだが、基本的な魔法はもうできるはずだ。
私の手を借りなくても、モンタリアーノ国からここへおまえ一人で飛べるはずだ」
だから、いつでもくればいい。そう言って叔母上は笑った。
「…わかりました」
「よし、じゃあ行くか」
「え?」
「いつでも戻ってこれるんだ。感傷的に別れを惜しんだりする必要はない」
いつでも、みんながおまえを待っているんだ、ジーク。
「だから、安心して行ってこい」
叔母上は、モンタリアーノ国へ帰れ、ではなく、行ってこいと言ってくれた。カーディナル魔法国の一員として、俺を認めてくれたようで嬉しかった。
「ありがとうございます」
ふふ、と笑って叔母上は「よく頑張った」と言ってくれた。心に染み渡る、優しさにあふれた言葉だった。
「では、行くか」
「はい!」
自分の中にある魔力の塊を認識して、それを自分の意思で形を整えることが魔力をコントロールする第一歩だという。
「溢れるくらいの魔力量に恵まれていながら、なぜ感知できない?おまえはやる気があるのか!?」
…叔母上は、この上なく厳しかった。
言葉で痛め付けられるのはもちろん、髪の毛を引っ張り上げられたり蹴られたり、突き飛ばされたりした。
ボロボロになって部屋に戻ってくる俺を見て、アキラさんはボロボロ泣いた。
「3歳相手にこんなの許されんの!?日本だったら虐待で即逮捕だろ!?ファンタジー要素どこ行った!?」
第五部隊の人たちに手当てをしてもらいながらぐったりする俺を見て、アキラさんはリッツさんにやめさせるべきだと直訴したらしい。
しかし、リッツさんに、「じゃあ、おまえはジークの居場所がなくなってもいいんだな」と言われて撃沈したと伝え聞いた。
「…ジーク君。僕、なんにもできなくて…ほんとに、申し訳ない」
ブルブル震えながら色が変わるほど自分の手を握りしめるアキラさん。
「アキラさん、…心配していただいて、ありがとうございます」
俺の言葉を聞いてアキラさんはバッと顔を上げる。
「ジーク君」
「でも、アキラさん、俺…大丈夫です。
こうやって、手当てもしてもらえるし…何より、叔母上がやってくれているのは、俺に対する愛情だと思っていますから」
叔母上は厳しい。でも、どんなに時間がなくても必ず俺との時間を作ってくれる。カーディナル魔法国の女王なのに、魔術団にきて、俺と一緒にご飯を食べたりしてくれる。俺のたどたどしい、どうでもいい話も一生懸命聞いてくれる。モンタリアーノにいたときのように、自分の存在を疑問視するようなことは一度もなかった。
「それでも…!それでも、虐待は!犯罪です!」
アキラさんの怒る様が面白くて思わず笑ってしまう。
叔母上と訓練できない日は、ひたすら自分の魔力と向き合うことに集中した。自分の内側へ、内側へと意識を向ける。
更に半年が過ぎた頃、俺はようやく自分の中の魔力を感知できるようになった。それと同時に、強い魔力を持っている人からは魔力を感じられるようになった。
叔母上は、俺を実際の戦場に連れ出すようになった。敵からの攻撃が届かない範囲で、カーディナルの魔術団の動きをひたすら見て記録するように言われた。
最初のうちは、恐ろしくて目を開けることができず、叔母上に「ムダな時間を過ごすんじゃない!仲間の動きを学ぶ絶好の機会なんだぞ!」と怒鳴られた。我慢して見ているうちに、魔力の出力の仕方が人それぞれ違うことが見て取れるようになってきた。
そうこうするうちに、その人の特性、魔力の色がわかるようになった。
叔母上に伝えると、満足気に頷いてくれた。魔力を感知できるようになってから、更に一年が過ぎていた。
「ジーク。一度、モンタリアーノ国に戻るといい」
思いがけない言葉に叔母上を見返すと、
「何も、追い出そうというんじゃない。…そんな、傷ついたような顔をするな」
困ったような顔で叔母上は俺の頭を撫でた。
「魔法を使う訓練もまだしてない。いつでも帰ってくればいい」
「帰って…?」
「ああ。自分の特性を使いこなすのはまだまだだが、基本的な魔法はもうできるはずだ。
私の手を借りなくても、モンタリアーノ国からここへおまえ一人で飛べるはずだ」
だから、いつでもくればいい。そう言って叔母上は笑った。
「…わかりました」
「よし、じゃあ行くか」
「え?」
「いつでも戻ってこれるんだ。感傷的に別れを惜しんだりする必要はない」
いつでも、みんながおまえを待っているんだ、ジーク。
「だから、安心して行ってこい」
叔母上は、モンタリアーノ国へ帰れ、ではなく、行ってこいと言ってくれた。カーディナル魔法国の一員として、俺を認めてくれたようで嬉しかった。
「ありがとうございます」
ふふ、と笑って叔母上は「よく頑張った」と言ってくれた。心に染み渡る、優しさにあふれた言葉だった。
「では、行くか」
「はい!」
98
お気に入りに追加
8,258
あなたにおすすめの小説
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【R18】義弟ディルドで処女喪失したらブチギレた義弟に襲われました
春瀬湖子
恋愛
伯爵令嬢でありながら魔法研究室の研究員として日々魔道具を作っていたフラヴィの集大成。
大きく反り返り、凶悪なサイズと浮き出る血管。全てが想像以上だったその魔道具、名付けて『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』を作り上げたフラヴィは、早速その魔道具でうきうきと処女を散らした。
――ことがディルドの大元、義弟のパトリスにバレちゃった!?
「その男のどこがいいんですか」
「どこって……おちんちん、かしら」
(だって貴方のモノだもの)
そんな会話をした晩、フラヴィの寝室へパトリスが夜這いにやってきて――!?
拗らせ義弟と魔道具で義弟のディルドを作って楽しんでいた義姉の両片想いラブコメです。
※他サイト様でも公開しております。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった
山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』
色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。
白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。
【R-18】後宮に咲く黄金の薔薇
ゆきむら さり
恋愛
稚拙ながらもHOTランキング入りさせて頂けました🤗 5/24には16位を頂き、文才の乏しい私には驚くべき順位です!皆様、本当にありがとうございます🧡
〔あらすじ〕📝小国ながらも豊かなセレスティア王国で幸せに暮らしていた美しいオルラ王女。慈悲深く聡明な王女は国の宝。ーしかし、幸福な時は突如終わりを告げる。
強大なサイラス帝国のリカルド皇帝が、遂にセレスティア王国にまで侵攻し、一夜のうちに滅亡させてしまう。挙げ句、戦利品として美しいオルラ王女を帝国へと連れ去り、皇帝の後宮へと閉じ籠める。嘆くオルラ王女に、容赦のない仕打ちを与える無慈悲な皇帝。そしてオルラ王女だけを夜伽に召し上げる。
国を滅ぼされた哀れ王女と惨虐皇帝。果たして二人の未来はー。
※設定などは独自の世界観でご都合主義。R作品。ハッピエン♥️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる