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第ニ章
動き出す、二度目の人生(シーラ視点)
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「シーラ」
ヴィーを寝かせて居間に戻ってくると、ロレックスに呼ばれた。
「なんだい?」
「…2年程前、僕がジークフリート皇子について話したこと、覚えてるかい?」
「ジークフリート皇子って、ヴィーの敵の皇太子のことだろう」
「そうだ」
「たしか、弟君がお生まれになったときだったよな。
魔力が暴走して、自分の部屋を焼いたと」
「そうだ。
あの時、君は『カーディナルに行ったほうがいい』と言っていた」
「そうだね。
王妃陛下は、弟のカイルセン様を生んだばかりだったし…魔力が強い皇太子の相手は産後すぐには難しいのではないかと思ったからね」
ロレックスに、当時のジークフリート皇子の話を聞いたときは、なんて痛々しいと思ったものだ。
だから、王妃陛下を差し置いて、そんな助言もしてしまったわけだが…。
「ヴィーの話を聞いた今は、余計なことを言うんじゃなかったという悔恨しかないな」
「いや、元々は僕のおせっかいから始まったことだし…。
ヴィーと同じ年の子ども、…どうしても放っておけなかった」
ロレックスは、苦痛を堪えるようにギュッと眉間にしわを寄せる。
「いま、皇太子はどうしてるんだ?」
「まだ、皇太子ではないよ、シーラ。
皇太子、と発表はしていないんだ」
「…そうだったか。今のところ、第一皇子、第二皇子、と呼ばれているのだったな」
つい、ヴィーの話につられてしまうが、まだ皇太子として正式に発表されたわけではない。
「つい先週、カーディナルから帰国されたんだ」
「先週。
先週まで、カーディナルにいたのか」
「ああ。
まだ5歳なのに、ずいぶん精悍な顔つきになってね。
エルネストが…国王陛下が、僕に感謝する、と。
『あの時、おまえが決断させてくれなければ、僕はあの子を永遠に失うところだった』と」
「…失えば良かったんだ」
ヴィーが、18歳で死んだ、殺されたという未来を受け入れたくない私は思わず吐き捨てた。
「ヴィーのことを思うと、ほんとにそうなんだけど。
ジークフリート皇子はね。帰ってきて真っ先に、僕のところに来たんだよ。
『オルスタイン侯爵、ご無沙汰しております』って。5歳が、だよ。
あの時、貴方だけが俺を見てくれました、感謝しています、と、そう言ったあとに」
「あとに?」
「…見つけました、って。そう言ったんだ」
「見つけた?何を?」
「自分を救ってくれる存在を」
「カーディナルで見つけたってことか?」
「いや、わからない。でも、すごく嬉しそうでね。
あんなに喜んで僕に報告してきたのに、その存在を諦めたのか?5年後に?」
「子どもだぞ。気持ちなんてコロコロ変わるに決まってるだろう」
「そこなんだよ」
「そことは?」
「シーラ、カーディナルに行ったら…それとなく探ってくれないか?」
「何を?」
ハーッとため息をつくと、ロレックスは、「だからぁ!」と呆れたように言う。
「ジークフリート皇子が見つけたという、大切な存在だよ!」
…呆れられているのはわかるが、さっぱりロレックスの言いたいことが理解できない。
「それを見つけてどうする?」
「だから…!…自分を救ってくれる存在だという女性が、カーディナルの方であったら、その方をジークフリート皇子の婚約者にすればいいじゃないか!!」
「…なるほど!」
「遅いよ!」
まったく、とブツブツ言いながら「シーラ、ワイン飲むかい?僕は明日から一週間飲めないから、今夜飲んでおきたいんだよ」
「妊娠中だから、ジュースにしてくれ」
ロレックスはさっと立ち上がるとグラスを2つと、最近お気に入りの赤ワインを持ってきて注いだ。
私のグラスには、オレンジジュースを注ぐ。
軽くグラスを合わせて口に含むと、甘酸っぱさが広がる。
「ただ、見つけられるかどうかは自信はないぞ」
「シーラ、君には強い味方がいるだろう?」
未だに宮廷に影響力を持っている、とロレックスが言う。
「…母上か」
「そう。君の母上の情報網で、ジークフリート皇子の想い人を探してほしいんだ」
そして、と言うとロレックスはヴィーの前では絶対に見せないであろう、氷の宰相の顔になった。
「見つけ次第、国王のケツを叩いて、最速で婚約を結ばせる。
二代続けてカーディナルから王妃を娶るなら、国の関係もますます強固になるからな」
そう言ったあとに、
「…カーディナルの女王陛下は、まだご結婚されてないよな?」
「ああ、まだそのような話はきいていない」
「だとすれば、女王陛下のお子様ではないだろうから、血が近すぎる心配もないだろうし」
ロレックスはグイッとグラスを傾けると一気に飲み干した。
「ヴィーは必ず守る。
ジークフリート皇子に婚約者ができれば、いくら頭がわいててもヴィーを妃候補に、なんて言わないだろう」
ロレックスの瞳はギラギラと光っていた。
私はそのロレックスを見ながら…でも、その救ってくれる存在が、女性なのかどうか…それ以上に人間かどうかはどこにも保証はないのでは、と考えていた。…怖くて言えなかったが。
ヴィーを寝かせて居間に戻ってくると、ロレックスに呼ばれた。
「なんだい?」
「…2年程前、僕がジークフリート皇子について話したこと、覚えてるかい?」
「ジークフリート皇子って、ヴィーの敵の皇太子のことだろう」
「そうだ」
「たしか、弟君がお生まれになったときだったよな。
魔力が暴走して、自分の部屋を焼いたと」
「そうだ。
あの時、君は『カーディナルに行ったほうがいい』と言っていた」
「そうだね。
王妃陛下は、弟のカイルセン様を生んだばかりだったし…魔力が強い皇太子の相手は産後すぐには難しいのではないかと思ったからね」
ロレックスに、当時のジークフリート皇子の話を聞いたときは、なんて痛々しいと思ったものだ。
だから、王妃陛下を差し置いて、そんな助言もしてしまったわけだが…。
「ヴィーの話を聞いた今は、余計なことを言うんじゃなかったという悔恨しかないな」
「いや、元々は僕のおせっかいから始まったことだし…。
ヴィーと同じ年の子ども、…どうしても放っておけなかった」
ロレックスは、苦痛を堪えるようにギュッと眉間にしわを寄せる。
「いま、皇太子はどうしてるんだ?」
「まだ、皇太子ではないよ、シーラ。
皇太子、と発表はしていないんだ」
「…そうだったか。今のところ、第一皇子、第二皇子、と呼ばれているのだったな」
つい、ヴィーの話につられてしまうが、まだ皇太子として正式に発表されたわけではない。
「つい先週、カーディナルから帰国されたんだ」
「先週。
先週まで、カーディナルにいたのか」
「ああ。
まだ5歳なのに、ずいぶん精悍な顔つきになってね。
エルネストが…国王陛下が、僕に感謝する、と。
『あの時、おまえが決断させてくれなければ、僕はあの子を永遠に失うところだった』と」
「…失えば良かったんだ」
ヴィーが、18歳で死んだ、殺されたという未来を受け入れたくない私は思わず吐き捨てた。
「ヴィーのことを思うと、ほんとにそうなんだけど。
ジークフリート皇子はね。帰ってきて真っ先に、僕のところに来たんだよ。
『オルスタイン侯爵、ご無沙汰しております』って。5歳が、だよ。
あの時、貴方だけが俺を見てくれました、感謝しています、と、そう言ったあとに」
「あとに?」
「…見つけました、って。そう言ったんだ」
「見つけた?何を?」
「自分を救ってくれる存在を」
「カーディナルで見つけたってことか?」
「いや、わからない。でも、すごく嬉しそうでね。
あんなに喜んで僕に報告してきたのに、その存在を諦めたのか?5年後に?」
「子どもだぞ。気持ちなんてコロコロ変わるに決まってるだろう」
「そこなんだよ」
「そことは?」
「シーラ、カーディナルに行ったら…それとなく探ってくれないか?」
「何を?」
ハーッとため息をつくと、ロレックスは、「だからぁ!」と呆れたように言う。
「ジークフリート皇子が見つけたという、大切な存在だよ!」
…呆れられているのはわかるが、さっぱりロレックスの言いたいことが理解できない。
「それを見つけてどうする?」
「だから…!…自分を救ってくれる存在だという女性が、カーディナルの方であったら、その方をジークフリート皇子の婚約者にすればいいじゃないか!!」
「…なるほど!」
「遅いよ!」
まったく、とブツブツ言いながら「シーラ、ワイン飲むかい?僕は明日から一週間飲めないから、今夜飲んでおきたいんだよ」
「妊娠中だから、ジュースにしてくれ」
ロレックスはさっと立ち上がるとグラスを2つと、最近お気に入りの赤ワインを持ってきて注いだ。
私のグラスには、オレンジジュースを注ぐ。
軽くグラスを合わせて口に含むと、甘酸っぱさが広がる。
「ただ、見つけられるかどうかは自信はないぞ」
「シーラ、君には強い味方がいるだろう?」
未だに宮廷に影響力を持っている、とロレックスが言う。
「…母上か」
「そう。君の母上の情報網で、ジークフリート皇子の想い人を探してほしいんだ」
そして、と言うとロレックスはヴィーの前では絶対に見せないであろう、氷の宰相の顔になった。
「見つけ次第、国王のケツを叩いて、最速で婚約を結ばせる。
二代続けてカーディナルから王妃を娶るなら、国の関係もますます強固になるからな」
そう言ったあとに、
「…カーディナルの女王陛下は、まだご結婚されてないよな?」
「ああ、まだそのような話はきいていない」
「だとすれば、女王陛下のお子様ではないだろうから、血が近すぎる心配もないだろうし」
ロレックスはグイッとグラスを傾けると一気に飲み干した。
「ヴィーは必ず守る。
ジークフリート皇子に婚約者ができれば、いくら頭がわいててもヴィーを妃候補に、なんて言わないだろう」
ロレックスの瞳はギラギラと光っていた。
私はそのロレックスを見ながら…でも、その救ってくれる存在が、女性なのかどうか…それ以上に人間かどうかはどこにも保証はないのでは、と考えていた。…怖くて言えなかったが。
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