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第一章
わたしが知らなかったこと①
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「王妃陛下にお目通り、ですか?」
「うん。まぁ、その前にまずは、ロレックスにヴィーの話をしなくてはならない。
婚約打診の話もお母様はまったく聞いてないんだよ、ヴィー。
断るつもりであっても、一言あるべきだろう」
お母様は、「まったくあいつは…」とため息をついた。
「ロレックスがどこまで今の話を受け入れられるかわからないが、お母様は、今ヴィーから聞いた話をすべて話すつもりだ。
そうしないと、家族の対策をたてられないだろう?」
「対策、ですか…?」
「そうだよ。
ヴィー。お母様は、同じ人生を歩ませる気はないよ。18歳まで、死んだように生きてなおかつ最後は殺されるなんて…。
お母様の大切な大切な娘を、そんな不幸な目に遭わせたりしないよ、今回はね。
一番のカギは皇太子との婚約だ。まぁ、候補だとしても、そんなことに縛られる必要はない。そんな暴言を吐くようなヤツと、うまくいく必要もない。
だとすれば、いま、どんな状態なのか?これをロレックスに吐かせて、どうすればいいか考えよう」
「吐かせてだなんて、奥様、物騒すぎです」
「ははは、つい、王妃陛下の話をしたら、近衛騎士だったときの感情が出てきてしまったみたいだな」
マーサと顔を合わせて苦笑いするお母様…
「…近衛騎士?お母様が、ですか?」
「え?」
「え?」
「え?」
三人で見事にはもってしまったが、お母様とマーサは私を凝視している。何か失言をしてしまったのだろうか。
「…ヴィー」
「はい」
「さっき、ヴィーは、王妃陛下は隣国のカーディナル魔法国から嫁がれた、と言ったね」
「はい。…間違っていましたか…?」
「いや、その通りなんだが…。
お母様も、カーディナル魔法国の出身だと知っているよね…?」
「え…?お母様、が、カーディナル魔法国の出身…?」
「え…」
お母様は驚きで固まってしまったようだった。
マーサをそろりと見ると…マーサも絶句している。
沈黙を破ったのは、お母様だった。
「…確かに。王妃陛下についてこちらに来てから、実家には帰ってはいないが…。
ヴィーが10歳になるまで、自分のことを話さなかったのか、私は?」
不可解だ、という顔をするお母様に、マーサが
「大旦那様を、今と同様、お許しになれなかったのでしょうかねぇ?
大奥様とご連絡をお取りになっていても…たぶん大奥様も、大旦那様には奥様のことをお伝えしてないのでしょうし…」
「…そうだな。『あの人があんなこと言ったおかげで、私までとばっちりで可愛い孫に会えないのよ!?絶対、貴女たちのことなんて教えてあげないわ!!』って…怒ってるからな」
お母様は、困ったような顔で私を見る。
「ヴィー。あのね…。
お母様は、カーディナル魔法国で、王妃陛下の…当時は、カーディナル魔法国の王女殿下だったんだが、殿下の近衛騎士を務めていたんだよ」
「だから、お母様は剣をたしなまれるのですか」
「たしなまれる…という言葉がどうかわからないが、お母様は、カーディナル魔法国の辺境伯爵家の長女でね。
…カーディナル魔法国は、男だから家を継ぐ、とかはないんだよ。女王陛下も立つ国だから、男でも女でも、その家の家長がふさわしいと認めた者が次期当主になれるんだ。
辺境伯爵家は、王都から離れた辺境を他国の侵略から守るという命を与えられている家でね。武力を重視しているんだよ。
お母様も、小さい時から剣の稽古をしてね。それが当たり前だったから、ツラいとかもなくて、むしろ好きだったんだよな。お母様の父上…ヴィーにとってのおじい様も、厳しく鍛えてくれてね。家を継ぐ前に、王城で騎士として働くことにしたんだよ。父上も、まだ隠居するつもりがなかったからね」
懐かしそうに話すお母様は、「だけど」とため息をついた。
「…お母様がお仕えした王女殿下は、そのままカーディナル魔法国の女王陛下になるはずだったんだが、この国の…モンタリアーノ国の次期国王に、一目惚れしてしまってね。妹殿下に次期女王の座を譲って、こちらに嫁がれることになったんだよ」
「お嬢様、お茶をどうぞ」
マーサに声を掛けられ、ハッとする。前回の人生で、まったく知らなかった内容にただただ聞き入っていた。
「…ありがとう」
口をつけると、ちょうど飲みやすい温度だった。マーサは、本当にすごいと思う。
ごくごくと一気に飲んでしまう私を見て、マーサが笑う。
「あれだけお話されれば、喉もかわきますよ。次は、果実水をお持ちしますね」
そう言って庭園から出ていくマーサの背中を見ながらお母様が言った。
「お母様は、近衛騎士だったから、護衛という形でこちらに来たんだけど…王妃陛下が、カーディナル魔法国にすぐには帰してくれなくてね。お二人の結婚式や即位式などであれよあれよという間に、二年以上過ぎてしまって。
その間、次期宰相だというロレックスと何度か顔を合わせるうちに、その…恋愛関係になっていたんだよ」
娘にこんな話をするのは恥ずかしいな、とお母様はヘニャリと笑った。
「それで、お母様もこちらの国の人間になることにしたんだ。
王妃陛下にはこちらの国の近衛騎士がつくことになったから、私は騎士を辞してオルスタイン家に入ることにしたんだが、それを聞いた父上が激怒してね…。
『辺境伯爵家の次期当主と決まっていたのに、モンタリアーノ国に嫁ぐだと!?お前のような人間は勘当だ!!』と…。『二度とこちらに来るな!!』と、それ以外にもいろいろ罵声を浴びせられたんだが…お母様も、こういう性格だから頭に血がのぼってしまってね。
悪いとも思ってないから謝罪するつもりもないし。
それ以来、父上とはなんの連絡もとっていない。母上とのやり取りはあるんだが」
「そうだったのですか…」
そこでハッと気づいた私はお母様に尋ねた。
「カーディナル魔法国の出身であるということは、お母様も、魔法が使えるのですか?」
「うん。まぁ、その前にまずは、ロレックスにヴィーの話をしなくてはならない。
婚約打診の話もお母様はまったく聞いてないんだよ、ヴィー。
断るつもりであっても、一言あるべきだろう」
お母様は、「まったくあいつは…」とため息をついた。
「ロレックスがどこまで今の話を受け入れられるかわからないが、お母様は、今ヴィーから聞いた話をすべて話すつもりだ。
そうしないと、家族の対策をたてられないだろう?」
「対策、ですか…?」
「そうだよ。
ヴィー。お母様は、同じ人生を歩ませる気はないよ。18歳まで、死んだように生きてなおかつ最後は殺されるなんて…。
お母様の大切な大切な娘を、そんな不幸な目に遭わせたりしないよ、今回はね。
一番のカギは皇太子との婚約だ。まぁ、候補だとしても、そんなことに縛られる必要はない。そんな暴言を吐くようなヤツと、うまくいく必要もない。
だとすれば、いま、どんな状態なのか?これをロレックスに吐かせて、どうすればいいか考えよう」
「吐かせてだなんて、奥様、物騒すぎです」
「ははは、つい、王妃陛下の話をしたら、近衛騎士だったときの感情が出てきてしまったみたいだな」
マーサと顔を合わせて苦笑いするお母様…
「…近衛騎士?お母様が、ですか?」
「え?」
「え?」
「え?」
三人で見事にはもってしまったが、お母様とマーサは私を凝視している。何か失言をしてしまったのだろうか。
「…ヴィー」
「はい」
「さっき、ヴィーは、王妃陛下は隣国のカーディナル魔法国から嫁がれた、と言ったね」
「はい。…間違っていましたか…?」
「いや、その通りなんだが…。
お母様も、カーディナル魔法国の出身だと知っているよね…?」
「え…?お母様、が、カーディナル魔法国の出身…?」
「え…」
お母様は驚きで固まってしまったようだった。
マーサをそろりと見ると…マーサも絶句している。
沈黙を破ったのは、お母様だった。
「…確かに。王妃陛下についてこちらに来てから、実家には帰ってはいないが…。
ヴィーが10歳になるまで、自分のことを話さなかったのか、私は?」
不可解だ、という顔をするお母様に、マーサが
「大旦那様を、今と同様、お許しになれなかったのでしょうかねぇ?
大奥様とご連絡をお取りになっていても…たぶん大奥様も、大旦那様には奥様のことをお伝えしてないのでしょうし…」
「…そうだな。『あの人があんなこと言ったおかげで、私までとばっちりで可愛い孫に会えないのよ!?絶対、貴女たちのことなんて教えてあげないわ!!』って…怒ってるからな」
お母様は、困ったような顔で私を見る。
「ヴィー。あのね…。
お母様は、カーディナル魔法国で、王妃陛下の…当時は、カーディナル魔法国の王女殿下だったんだが、殿下の近衛騎士を務めていたんだよ」
「だから、お母様は剣をたしなまれるのですか」
「たしなまれる…という言葉がどうかわからないが、お母様は、カーディナル魔法国の辺境伯爵家の長女でね。
…カーディナル魔法国は、男だから家を継ぐ、とかはないんだよ。女王陛下も立つ国だから、男でも女でも、その家の家長がふさわしいと認めた者が次期当主になれるんだ。
辺境伯爵家は、王都から離れた辺境を他国の侵略から守るという命を与えられている家でね。武力を重視しているんだよ。
お母様も、小さい時から剣の稽古をしてね。それが当たり前だったから、ツラいとかもなくて、むしろ好きだったんだよな。お母様の父上…ヴィーにとってのおじい様も、厳しく鍛えてくれてね。家を継ぐ前に、王城で騎士として働くことにしたんだよ。父上も、まだ隠居するつもりがなかったからね」
懐かしそうに話すお母様は、「だけど」とため息をついた。
「…お母様がお仕えした王女殿下は、そのままカーディナル魔法国の女王陛下になるはずだったんだが、この国の…モンタリアーノ国の次期国王に、一目惚れしてしまってね。妹殿下に次期女王の座を譲って、こちらに嫁がれることになったんだよ」
「お嬢様、お茶をどうぞ」
マーサに声を掛けられ、ハッとする。前回の人生で、まったく知らなかった内容にただただ聞き入っていた。
「…ありがとう」
口をつけると、ちょうど飲みやすい温度だった。マーサは、本当にすごいと思う。
ごくごくと一気に飲んでしまう私を見て、マーサが笑う。
「あれだけお話されれば、喉もかわきますよ。次は、果実水をお持ちしますね」
そう言って庭園から出ていくマーサの背中を見ながらお母様が言った。
「お母様は、近衛騎士だったから、護衛という形でこちらに来たんだけど…王妃陛下が、カーディナル魔法国にすぐには帰してくれなくてね。お二人の結婚式や即位式などであれよあれよという間に、二年以上過ぎてしまって。
その間、次期宰相だというロレックスと何度か顔を合わせるうちに、その…恋愛関係になっていたんだよ」
娘にこんな話をするのは恥ずかしいな、とお母様はヘニャリと笑った。
「それで、お母様もこちらの国の人間になることにしたんだ。
王妃陛下にはこちらの国の近衛騎士がつくことになったから、私は騎士を辞してオルスタイン家に入ることにしたんだが、それを聞いた父上が激怒してね…。
『辺境伯爵家の次期当主と決まっていたのに、モンタリアーノ国に嫁ぐだと!?お前のような人間は勘当だ!!』と…。『二度とこちらに来るな!!』と、それ以外にもいろいろ罵声を浴びせられたんだが…お母様も、こういう性格だから頭に血がのぼってしまってね。
悪いとも思ってないから謝罪するつもりもないし。
それ以来、父上とはなんの連絡もとっていない。母上とのやり取りはあるんだが」
「そうだったのですか…」
そこでハッと気づいた私はお母様に尋ねた。
「カーディナル魔法国の出身であるということは、お母様も、魔法が使えるのですか?」
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