上 下
5 / 110
第一章

もう一度…?①(2月23日修正)

しおりを挟む
ハッと目を開くと、見慣れた白い天井が目に入る。

視線を動かすと月や星の形を模したモチーフが目に入る。これは…昨日までいた私の部屋ではない…?こんな飾りは…10歳のあの時にすべて取り払ったのだから。

「死んだように生きていけ」

殿下の言葉は呪いのように私を縛り、蝕んだ。

なぜあんな風に言われたのか、考えても考えてもわからなかった。考え続けているうちに、「私は家族にとっても邪魔な存在なのではないか?」と思うようになった。

私が6歳のとき、双子の弟が産まれた。お父様もお母様も「ヴィーに兄弟ができたよ!」と嬉しそうで、私も自分の兄弟ができたことをとても喜んだのだが、そんなとき、侍女たちの話が聞こえてきた。

「これで侯爵家も安泰ね、やっと跡継ぎのお坊っちゃまたちが産まれてくれて」

安泰、という意味はよくわからなかったが、私ではダメなのだと暗に否定されているのだということは感じた。

なぜダメなのか、どうしてなのか?そのときに、お父様やお母様に尋ねてみれば良かったのだろう。しかし私はできなかった。二重に否定されたらどうしよう、という恐怖心が勝ってしまったのだ。

だから、殿下の言葉を考えるうちに、「私はいらない、存在している意味がない、無価値な人間。家族にも邪魔な人間」という結論を導きだし、重ねて傷つくのを恐れてお父様にもお母様にも殿下に言われた言葉や暴力について相談しなかった。

だんだん鬱ぎこむようになった私を、お母様はとても心配した。双子の弟に手がかかり大変なのに、私との時間をもってくれようとした。

しかし弟たちの侍女の、「お嬢様はもう大きいのに、まだ奥様に甘えて独り占めしようとするのかしら。まったく情けないわね。後継ぎのお坊ちゃまたちに奥様も手をかけたいでしょうに」という陰口に、ますます自分を邪魔者だと思うようになった。

殿下が言うように、私はただの穀潰し、侯爵家にいるべき人間ではないんだ。でも、この家を出て、どうやって暮らしていけばいいのかわからない。だから毎日、なるべく人目につかないように部屋に閉じ籠り、侍女たちにも手をかけさせると思われているのではないかと恐れ、必要最低限のことだけをしてもらうことにした。

お母様は、私がおかしくなったのは殿下との顔合わせからだとお父様に訴えた。そもそも、婚約者ではなく妃候補とはなんなの?そんな中途半端な立場で、ヴィーはどうなるの?貴方からお断りして、ヴィーを守って!

でもお父様は動かなかった。お母様はしびれを切らし、私を連れて家を出ようとしたが、王家から待ったがかかった。皇太子の妃候補である娘を侯爵家から連れ出すことは認められない、と。私だけが連れ戻され、お母様は追い出された。

お母様がいなくなり、弟たちには、「お姉様のせいだ!」と散々責められた。お父様も、私を見なくなった。必要事項はすべて執事や侍女を通して伝えられ、私との接触を殊更避けた。思いがけず屋敷の中で会うと、無表情のまま通りすぎる。私は最早、お父様の中には存在していないようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大好きだったあなたはもう、嫌悪と恐怖の対象でしかありません。

ふまさ
恋愛
「──お前のこと、本当はずっと嫌いだったよ」 「……ジャスパー?」 「いっつもいっつも。金魚の糞みたいにおれの後をついてきてさ。鬱陶しいったらなかった。お前が公爵令嬢じゃなかったら、おれが嫡男だったら、絶対に相手になんかしなかった」  マリーの目が絶望に見開かれる。ジャスパーとは小さな頃からの付き合いだったが、いつだってジャスパーは優しかった。なのに。 「楽な暮らしができるから、仕方なく優しくしてやってただけなのに。余計なことしやがって。おれの不貞行為をお前が親に言い付けでもしたら、どうなるか。ったく」  続けて吐かれた科白に、マリーは愕然とした。 「こうなった以上、殺すしかないじゃないか。面倒かけさせやがって」  

【完結】あなたから、言われるくらいなら。

たまこ
恋愛
 侯爵令嬢アマンダの婚約者ジェレミーは、三か月前編入してきた平民出身のクララとばかり逢瀬を重ねている。アマンダはいつ婚約破棄を言い渡されるのか、恐々していたが、ジェレミーから言われた言葉とは……。 2023.4.25 HOTランキング36位/24hランキング30位 ありがとうございました!

婚約者に捨てられましたが

水川サキ
恋愛
婚約して半年、嫁ぎ先の伯爵家で懸命に働いていたマリアは、ある日将来の夫から告げられる。 「愛する人ができたから別れてほしい。君のことは最初から愛していない」 浮気相手の女を妻にして、マリアは侍女としてこのまま働き続けるよう言われる。 ぶち切れたマリアはそれを拒絶する。 「あなた、後悔しますわよ」

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

死に戻ったわたくしは、あのひとからお義兄様を奪ってみせます!

秋月真鳥
恋愛
 アデライドはバルテルミー公爵家の養子で、十三歳。  大好きな義兄のマクシミリアンが学園の卒業式のパーティーで婚約者に、婚約破棄を申し入れられてしまう。  公爵家の後継者としての威厳を保つために、婚約者を社交界に出られなくしてしまったマクシミリアンは、そのことで恨まれて暗殺されてしまう。  義兄の死に悲しみ、憤ったアデライドは、復讐を誓うが、その拍子に階段から落ちてしまう。  目覚めたアデライドは五歳に戻っていた。  義兄を死なせないためにも、婚約を白紙にするしかない。  わたくしがお義兄様を幸せにする!  そう誓ったアデライドは十三歳の知識と記憶で婚約者の貴族としてのマナーのなってなさを暴き、平民の特待生に懸想する証拠を手に入れて、婚約を白紙に戻し、自分とマクシミリアンの婚約を結ばせるのだった。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

あなたがわたしを捨てた理由。

ふまさ
恋愛
 王立学園の廊下。元婚約者のクラレンスと、クラレンスの婚約者、侯爵令嬢のグロリアが、並んで歩いている。  楽しそうに、微笑み合っている。アーリンはごくりと唾を呑み込み、すれ違いざま、ご機嫌よう、と小さく会釈をした。  そんなアーリンを、クラレンスがあからさまに無視する。気まずそうにグロリアが「よいのですか?」と、問いかけるが、クラレンスは、いいんだよ、と笑った。 「未練は、断ち切ってもらわないとね」  俯いたアーリンの目は、光を失っていた。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

処理中です...