もう一度、あなたと

蜜柑マル

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裏に引っ越したその日に、ソウリュウくんは僕を番だと忘れてしまいました。

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その夜。僕の眠りは突然破られた。

頭を何かで覆われ、カラダを何かで締め付けられた後に持ち上げられる。

「んーっ!!」

声を上げたとたん、鳩尾を殴られ吐き気が襲う。

そのまま運ばれ、ドサリと乱暴に落とされた。背中が痛い。頭の包みを剥ぎ取られ、視界がいきなり明るくなる。目の前に立っていたのは、

「…リンさん」

「気安く呼ぶな、卑しい男が!」

いきなり頬を張られ、ジンジンと痛みが増してくる。

「せっかくソウリュウの中からおまえの存在を消してやったのに、あいつは私のことを見向きもしない!それどころか、近寄らせもしない!これだから東のオスどもは!私にひれ伏し、その尊い身を触れさせてくださいと懇願するべきだろうが!…ふん、まあ、いい。おい、」

リンさんが声を掛けると、奥からもうひとり運ばれてきた。

「…ライリュウさん!?」

被せられた袋の下からでてきたのは、ライリュウさんだった。なんで?あんなに厳重に…護られているんじゃなかったの?シンさんはどうしたんだろう、まさかシンさんまで捕らえられてしまったのだろうか?陛下やセイリュウさんはどうしたのだろう。

グルグルと頭の中で考える僕の目の前で、リンさんはライリュウさんをじっと見下ろした。

「…本当は、あんたのこともあたしの夫にしたかったけど、女王様に献上しなくちゃならなくなったからね。あんたに番がいないからって聞いたら俄然張り切っちゃって、あのクソババア」

汚く舌打ちしたリンさんは、そのままニヤアと嗤った。物語に出てくる魔女のような顔だ。控え目に言っても気持ち悪い。

「…まあ、何回かヤったらすぐに飽きるだろうし、あのババアは。初物が好きだから。そうしたら、あたしが飼ってやる。ソウリュウと一緒にね」

ライリュウさんは、まったく動くことなく、僕のことをじっと見ている。猿轡をされているために声を出すことはできないが、その目に焦りや不安は見られなかった。静かに
、凪いだ瞳。

リンさんは僕に視線を移すと、「さて…」とまたニヤリとした。

「おまえが龍ならよかったんだけど?残念なことに龍じゃないから、我が国で使っている鱗を飲んで疑似番になる、って手が使えないのよねぇ…?残念、実に残念だわぁ…だからね?」

そういうと、後ろ手に縛られた僕の背中を蹴った。さっきぶつかったところで、かなり痛み咳き込んでしまう。

「鱗の代わりに、おまえの骨を使うことにしたの。それを飲めば、ソウリュウの態度も少しはましになるかもしれないでしょ?おまえを番だと忘れていても、思い出すかもしれないんだから。でも、思い出してももう遅いけどねぇ…なぜなら、おまえはもうこの世にいないんだから」

…僕がこの世にいない?

リンさんは、僕を足で踏みつけると、嬉しそうな声で嗤った。

「アハハ、自分の番を失った、しかも、自分が忘れてしまっている間に…!そんな現実に、ソウリュウはどうなるのかしらね?気が狂うのかしら。…いい気味よ!この私をコケにしやがった罰だ!!」

僕を見下ろすリンさんの顔は、悪鬼のように醜く歪んでいた。直視できないほどに。

「…おまえを殺して、燃やす。そして、残った骨を飲んでソウリュウに抱かれてやる。ありがたく思え」

リンさんが顎をしゃくり、それを合図に隣に立つ覆面姿の人がスラリと腰の剣を抜く。その青白く光る切っ先に、無意識にカラダが震え始めた。

ガタガタ震える僕を意地悪い顔で見下ろしたリンさんは、

「いずれあの世で会えるでしょ。ま、あんたが死んで、ソウリュウはあんたのことなんて忘れるだろうけどね」

と高笑いする。言ってることが昨日から無茶苦茶だ。この人の頭の中はいったいどうなってるんだ?

恐怖からなんとか逃れたくて意識を逸らそうとしても、光る剣先は消えてはくれない。その剣が振りかぶられ、僕はギュッと目をつぶった。
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