もう一度、あなたと

蜜柑マル

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ソウリュウくんと、小野先生と、カイリュウくんと、時々陛下

閑話~シンの話

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「トウリュウ様、ことのほかハルチカ様をお気に召したようですね。ソウリュウ様を揶揄う目的が70%でしょうが、あんなに触れるのは珍しい。カイト様以外には基本興味がない方なのに」

そんな言葉とは裏腹に、シンの目は俺をじっと見据えていた。

「話はなんだ」

「まず、正妃…いえ、元、ですね。あの腐れ女が吐いた内容をご報告します」

「あいつに言ったんだろ?俺は」

「ソウリュウ様」

シンから圧を放たれる。幼い時から鍛えてくれた師匠には、未だに叶うことはない。一瞬、カラダが強ばるほどの圧だった。

「ソウリュウ様は次期国王ではなくとも王族ですね。嫌でも聞いていただきますよ。王族としての義務は果たすべきです。ハルチカ様という番ができたいま、ソウリュウ様はこのまま王家にいらっしゃることが決まったのです。王家はイヤだと野良になるなら構いませんが、その場合、ハルチカ様は野良の番ですね。よろしいのですか」

淡々と紡がれる言葉なのに、有無を言わさぬ圧をかけられる。

「…申し訳ありませんでした、師匠」

シンは、ふ、と瞳を和らげると、

「トウリュウ様がハルチカ様についていて心配なのでしょうが、大丈夫ですよ。何かしたらカイト様に棄てられますから、いかなトウリュウ様でもおかしなことはなさりませんよ」

と俺の肩をポンポンと叩いた。

「さて、続けます。まず、カイト様の鱗を飲んでいた件ですが。カイト様ご兄弟のご実家の親戚が北ノ京にいるのはご存知ですか?」

「母上から聞いたことがあるが、俺は交流はないな」

「北と東は、関係がいいとは言えませんからね。まあ、うちに限らず南も西もですが」

シンは、「さて、ここで質問です」と昔のように俺に聞いた。

「なぜ北が周りの国から引かれているのでしょうか?」

「…あそこは、女性君主の国で、当主も女しか継がせない国だからだ。オスは徹底的に貶められているな」

うんうん、と頷くシン。

「それから、一妻多夫制だ。うちのあほ親父は例外として、基本的にどの国も一夫一妻で相手を生涯大切にする。番が後から現れた場合は別だが…」

「メスの数が圧倒的に少ないのに、家を継げるのがメスだけだと決まっているわけですからね。とにかく数を生むしかない。ああ、トウリュウ様も北にお生まれになれば良かった…?いや、ダメですね、種馬にされてしまうわけですから、今のように傲慢にご自分の我は通せないわけですから」

あまりあのクソ親父を好きではないのだろうと思ってはいたが、シンがこれだけあからさまに親父をディスるのは初めて聞いた。

「シン、何かあったのか?珍しいな、そんな言い方」

シンは俺の言葉にニヤリとすると、

「トウリュウ様ご本人に大嫌いだと告白したので、隠す必要がなくなりました」

と言った。なるほど…。国王相手に大したもんだ。

「おっと、話が逸れましたね。申し訳ありません。カイト様のご実家に、当主に就任するからとあちらの親戚が挨拶に来たそうです。その時に、話を盗み聞きしたのだと言いました」

元正妃が話したというのは、こんな内容だ。

北ノ京のメスは、他の国のメスと比べ物にならないほど傲慢であり、それが赦されている生き物だ。番が見つかる確率はゼロに近い…同じ龍でありながら、番に対する執着はゼロに近いと言われている。元々、数が少ないメスは、番が見つかる確率が少ない。北のメスはメスの子どもを生むことに執着するため、相手など誰でもいいのだそうだ。中には、見目を重視するために番がいても自分の夫…名ばかりの夫にするメスがいる。

「番がいるのに、…それが、」

「そうです。あの腐れ女がやった、番の鱗を飲んで疑似的な番になる、という方法です」

番がいても、その方法で自分を番だと思わせて子種を注がせることができる。

「トウリュウ様は2回で済みましたからあの通りですが、5回を超えるあたりから精神がおかしくなるそうです。本能を押さえつけられ、無理矢理別な相手と…番だと思わされていても、本能が拒絶するのでしょうね。嘔吐から始まり、気が狂って死に至るそうです。引き裂かれた番は無理矢理鱗を剥がされ、十分な手当ても受けさせてもらえず。5回超えるとダメになる、とわかってからはどちらも廃棄されるため手をかけることはない…まさに、使い捨てです」

淡々と告げるシンに、俺は吐き気を覚えた。

「いったい、なんだと思ってるんだ…廃棄だと?」

「ええ。しょせんは種馬ですから。いくらでも代わりの利く」

クソ親父を大事に思うわけではないが、2回で済んで本当に良かったと思う。
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