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婚約者編
シャロン改めクローディア
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目の前の顔に違和感を感じると同時に、自分のカラダにも違和感があるのに気付く。
(…ちいさい?)
持ち上げてみた手は、どうみても赤子のそれで。目の前に見える父の顔は結婚式で見たそれよりもかなり若い。
(なにが、おきているんだろう)
私は、あの日死んだのではなかったか。ボロボロに痛めつけられ、満足に食事も出来ず、朽ち果てるように息ができなくなった。
(ねがいが、かなったの?)
同じ人間に、生まれ変わった。そういうことなのだろうか。父も、母も、変わっていない。ただ、関係性は一変しているようだ。私を産んだ母は、私を避けていたけれど、今回の母は私を大事に大事に育ててくれている。仕事も辞めていない…毎年のように妊娠するためあまり通えていない現状ではあるが。
父も毎日家に帰ってくる。
ごはんを一緒に食べて、お風呂に入って。弟や妹はとても可愛くて。
クローディア、と名前が変わり、ガーランド伯爵に父がなっていたことは驚いたが、幼い時からよく遊びに行っていたエイベル家でだいたいの事情を知った。母に前回の記憶があり、死んでしまった私を守るために自分たちに関わる事柄を変えていることを。
ありがたいと思った。
でも、それ以上に、クローディアにはやらなくてはならないことがあった。
(ギルバート殿下を、今度は守ってみせる。あの気持ち悪い男と、あの水色の髪の毛の女から)
学園に入学したあの日、ギルバートはガラリとその性格が変わってしまった。あんなに穏やかで優しかったのに、わけのわからない女に熱をあげ、自分を蔑み始めた。
クローディア…シャロンは、家庭で居心地が悪く、人間観察をする癖がついていた。だからギルバートがなぜあんなあからさまに変わってしまったのかを観察することにした。初等部までいなかったあの気持ち悪い男が、常にギルバートにくっついているのもイヤだった。ギルバートが熱をあげている女はどちらかと言えばサバサバしていて、ギルバートにしなだれかかったりするものの、その瞳は妙に冷めていた。ランベールという気持ち悪い男の方が、ギルバートに執着を見せていた。
シャロンは愛情薄い家庭で育ってきたために、向けられる愛情には敏感だった。ギルバートが自分を深く愛し、…その理由まではわからなかったが、大切に思ってくれていることをよく知っていた。だから変わってしまったギルバートからは、作為的なものしか感じなかった。何より、あの目。美しく煌めく赤い瞳がいまはどんよりと濁っているのだ。
何が原因なのか知りたくて、婚約を解消されなかったのをいいことにシャロンはそのまま結婚した。
「リーシャを愛妾にする、愛しているのは彼女だけだから」
と嫌悪感に満ちた顔で自分を見るギルバートの瞳からは涙が溢れていた。このまま、こんな状態が続いたら、無理矢理ねじ曲げられた心が壊れてしまうのでは。
そして、あの女を正妻に出来なかったとシャロンの頬を叩いたギルバートは、シャロンと情交に及んだ。
「リーシャ、気持ちいい、最高だ!」
とあの女の名前を呼びながらシャロンに腰を打ち付けるギルバートの顔は、「気持ちいい」と言いながら苦痛を耐えるように歪んでいて、後から後から涙を溢れさせている。
あの気持ち悪い男がシャロンに暴力を振るいながらさも嬉しそうに話すおかげで、シャロンはすべてを知ったけれど、…全裸で鎖に繋がれボロボロのカラダではどうすることもできなかった。せめて、魔力を鍛えていれば。後悔しか浮かんでこない。この先には絶望しかなくて、ギルバートを解放できないことをただただ申し訳なく思った。
自分に暴力を振るう相手に申し訳ないなんて、おかしいかもしれない。でもこれは、ギルバートの本心ではないと気付いてしまったから。
もう力が入らず、瞼すら開かない中でシャロンは祈った。
(もし生まれ変わって、ギルバート殿下、貴方に会えたら。私が今度は貴方を守ってみせるから。だから、どうか、壊れないで)
(…ちいさい?)
持ち上げてみた手は、どうみても赤子のそれで。目の前に見える父の顔は結婚式で見たそれよりもかなり若い。
(なにが、おきているんだろう)
私は、あの日死んだのではなかったか。ボロボロに痛めつけられ、満足に食事も出来ず、朽ち果てるように息ができなくなった。
(ねがいが、かなったの?)
同じ人間に、生まれ変わった。そういうことなのだろうか。父も、母も、変わっていない。ただ、関係性は一変しているようだ。私を産んだ母は、私を避けていたけれど、今回の母は私を大事に大事に育ててくれている。仕事も辞めていない…毎年のように妊娠するためあまり通えていない現状ではあるが。
父も毎日家に帰ってくる。
ごはんを一緒に食べて、お風呂に入って。弟や妹はとても可愛くて。
クローディア、と名前が変わり、ガーランド伯爵に父がなっていたことは驚いたが、幼い時からよく遊びに行っていたエイベル家でだいたいの事情を知った。母に前回の記憶があり、死んでしまった私を守るために自分たちに関わる事柄を変えていることを。
ありがたいと思った。
でも、それ以上に、クローディアにはやらなくてはならないことがあった。
(ギルバート殿下を、今度は守ってみせる。あの気持ち悪い男と、あの水色の髪の毛の女から)
学園に入学したあの日、ギルバートはガラリとその性格が変わってしまった。あんなに穏やかで優しかったのに、わけのわからない女に熱をあげ、自分を蔑み始めた。
クローディア…シャロンは、家庭で居心地が悪く、人間観察をする癖がついていた。だからギルバートがなぜあんなあからさまに変わってしまったのかを観察することにした。初等部までいなかったあの気持ち悪い男が、常にギルバートにくっついているのもイヤだった。ギルバートが熱をあげている女はどちらかと言えばサバサバしていて、ギルバートにしなだれかかったりするものの、その瞳は妙に冷めていた。ランベールという気持ち悪い男の方が、ギルバートに執着を見せていた。
シャロンは愛情薄い家庭で育ってきたために、向けられる愛情には敏感だった。ギルバートが自分を深く愛し、…その理由まではわからなかったが、大切に思ってくれていることをよく知っていた。だから変わってしまったギルバートからは、作為的なものしか感じなかった。何より、あの目。美しく煌めく赤い瞳がいまはどんよりと濁っているのだ。
何が原因なのか知りたくて、婚約を解消されなかったのをいいことにシャロンはそのまま結婚した。
「リーシャを愛妾にする、愛しているのは彼女だけだから」
と嫌悪感に満ちた顔で自分を見るギルバートの瞳からは涙が溢れていた。このまま、こんな状態が続いたら、無理矢理ねじ曲げられた心が壊れてしまうのでは。
そして、あの女を正妻に出来なかったとシャロンの頬を叩いたギルバートは、シャロンと情交に及んだ。
「リーシャ、気持ちいい、最高だ!」
とあの女の名前を呼びながらシャロンに腰を打ち付けるギルバートの顔は、「気持ちいい」と言いながら苦痛を耐えるように歪んでいて、後から後から涙を溢れさせている。
あの気持ち悪い男がシャロンに暴力を振るいながらさも嬉しそうに話すおかげで、シャロンはすべてを知ったけれど、…全裸で鎖に繋がれボロボロのカラダではどうすることもできなかった。せめて、魔力を鍛えていれば。後悔しか浮かんでこない。この先には絶望しかなくて、ギルバートを解放できないことをただただ申し訳なく思った。
自分に暴力を振るう相手に申し訳ないなんて、おかしいかもしれない。でもこれは、ギルバートの本心ではないと気付いてしまったから。
もう力が入らず、瞼すら開かない中でシャロンは祈った。
(もし生まれ変わって、ギルバート殿下、貴方に会えたら。私が今度は貴方を守ってみせるから。だから、どうか、壊れないで)
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