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婚約者編
キーマン、ランベール②
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「…その男は、確実に罰を受けるんですよね」
「ああ。家庭教師の男だけではなく、モロゾフ公爵家は取り潰しが決まった。ランベール君の父親は無理矢理ミアを娶らされた、自分は被害者だ、なんて言いやがったから氷で貫いてやったよ、足を。イヤならイヤだといくらでも断れたくせにいいとこ取りばかりしやがって、義務も権利もごった煮だ。あんな貴族、いるだけで害悪だ。ふざけた家族ごっこをしていたようだがその金も貴族だからこそ得られた金だからな。これからは自分で稼いで家族を養っていけばいい。…まあ、相手の女は貴族じゃなくなると聞いたら子どもまで投げ捨てて逃げていったよ。真実の愛とやらはどうしたんだろうな。滑稽だ」
冷たく嗤うジークハルトは、「それから、」と話を続ける。
「ランベール君の母親、ミアは捕縛された。息子が犯されたのを、あの女は知っていたそうだ。痛みにうち震えるランベール君に、おまえが誘ったんだろう、気持ち悪いカラダだから性根も気持ち悪く育ったんだとそう言い放ったそうだ。それを聞いたサヴィオン父上は嘔吐後、卒倒した」
重いのに迷惑な、とブツブツ文句を言ったジークハルトは、眠るランベールに視線を移す。
「サヴィオン父上は孫だから自分が面倒を見ると言ったんだが、父上自身、離縁して独り身になる。陸にいない日のほうが多いし、ランベール君が一人でいることに代わりはないように思うんだよな…可哀想だ。こうして今日、奇跡的にアレクの運命の相手だとわかったわけだろう?アレク、ランベール君をうちで預からないか?ルヴィは常に家にいるわけだし、ここは賑やかだろう?ナディール叔父上もなんともないような顔をしながら内心かなり心配しているのがバレバレだし、ランベール君が自分の目に届く範囲にいるのは叔父上にとってもいいことだと思う。アルマディンもいるし」
ジークハルトの言葉にブンブンと首を縦に振るアレクサンドライトを見て、「ただな、」と続ける。
「ランベール君はさっき言ったように、まだ10歳だ。おまえ、我慢できるか?」
「我慢、…ですか?」
ジークハルトの言葉の意味がわからず首を傾げたアレクサンドライトに、
「おまえ、さっき、ランベール君の匂いで発情しただろう。彼に手を出さずに、彼が少なくとも高等部に入るまで、カラダの関係を我慢できるか、と聞いているんだ。おまえ、いま17歳だろ?いままでは良かったが、ヤりたい真っ盛りに相手が家の中にいて我慢できるか、って聞いてるんだ」
途端に顔を真っ赤にしたアレクサンドライトは、
「お、俺は、そんな鬼畜みたいな真似、しません!!…意に染まないことを強要されて傷ついたランベールに、そんなこと、しません…俺が、守ってやりたい。それは、俺からも、です。俺は香りを感じますが、ランベールがそうだとは限らない…そのときは、…諦めます」
それは無理だろうな、と思いつつ、ジークハルトはそれ以上突っ込むのはやめることにした。せっかく、こうして変わろうとしているアレクサンドライトを見守りたいと、そう思ったから。
「わかった」
そう返事をして、アレクサンドライトの顔を乱暴に拭いてやる。アレクサンドライトは恥ずかしそうに小さく笑った。これからこんなふうに感情を見せてくれるようになるのかと思うと、ジークハルトも嬉しく泣きそうになった。
そのとき、扉がノックされる。
「食事の用意ができました」
ルヴィアの声に相好を崩したジークハルトは、「わかった、ありがとうルヴィ」と答えると、
「じゃ、飯にしよう、アレク」
「…ランベールを、連れて行ってもいいですか」
躊躇いがちにランベールを見つめるアレクサンドライトに、「そうだな」と答える。
「おまえの温もりを教えてやるといい。おまえの腕の中が世界で一番安心できる場所だと」
コクリ、と頷いたアレクサンドライトは、そっと眠るランベールを抱き上げた。
(…軽い)
よく見れば、幼い顔には隈も見える。頬も心なしか痩けているようだ。アレクサンドライトは自分がいかに恵まれた境遇にいるのかを思い知り、ランベールの今までを思ってまた涙した。
(俺が、必ず守ってやるからな)
たとえ俺がキミの運命にはなれなくても、キミを守るから。
(だから、きっと、幸せになって欲しい)
ランベールを少しでも感じたくて、アレクサンドライトはいつもなら飛んで移動するのだが、ゆっくり、噛み締めるように食堂へと歩いて行った。
食堂に入ってきた息子が大事そうにランベールを抱き抱えているのを見て、ルヴィアは顔を緩ませた。ジークハルト同様、息子の感情の起伏がないこと、なににも、誰にも興味をしめさず淡々と生きている様に心を痛めていたため、その変化が嬉しくて仕方なかった。アレクサンドライトの運命の香りがするランベールを、ルヴィアはより一層大切にしたいと強く思う。息子とともに、守っていきたいと。
アレクサンドライトはそんなことを両親が考えているとは露ほども思わず、じっ、とランベールを見つめたまま器用に椅子に腰を降ろした。そのままランベールを膝の上に乗せ、背中を支えるようにして上半身を起き上がらせる。自分の胸にランベールの顔を抱き込むようにしたアレクサンドライトは、ふ、と微笑んだ。
(あらあ…なんて可愛い…)
思わずジークハルトを見ると、夫も同じ様に感じたのだろう、顔をほんのり赤くして身悶えている。ルヴィアは微笑み、
「…アレク、あったかいうちに食べて」
「はい、いただきます。…母上、」
「なあに?」
「いつも、ありがとう。これまで、俺を大事に育ててくれてありがとう。恥ずかしい話だけど、俺、そういうのわかってなかった。当然だ、なんて胡座をかいてたつもりはないけど、当たり前のように父上と母上の愛情を受けてきたんだな、って。…感謝します。ありがとう、父上、母上」
そう言って食べ始めた息子を見ながら、(…ああ)とルヴィアは静かに感動に震えた。やはり、人は人と関わって成長していくものなのだ、と。誰にも興味を示さないアレクサンドライトは、恵まれた容姿と能力にも関わらずまったくと言っていいほど欲求のない子どもだった。自分たち家族にはそれなりだったが、学園での話などは一切出ない。学園の教師であるジークハルトの弟カイルセンにそれとなく聞いてみた時にも、「大人しく、静かで、常に一人でいる。周りを寄せ付けないようにしているのかな…感じる人間は感じると思います、アレクの静かな拒絶を」と言われた。
それが、こんなふうに変わろうとしている。ルヴィアは、ランベールに感謝した。アレクサンドライトの前に偶然とは言え、現れてくれたランベールに。
モグモグ咀嚼する息子を夫婦揃ってほっこりと見ていると、「…う、」と小さな呻き声が聞こえ、ランベールが身動ぎするのが見えた。アレクサンドライトは途端に箸を置き、優しくランベールを抱き締め直す。
うっすらと瞳を開けるランベールは、自分を優しい顔で見つめる美しい赤い瞳に見惚れた。
「キレイ…」
そっと手を伸ばし頬に触れると、目の前の人物は顔を真っ赤にした。そのとき、ぶわっ、と涼やかなとてもいい薫りに包まれる。安心する、いい薫り。
(これ、…この人の、匂いなのかな)
確かめたくてランベールは相手の胸に顔を埋めた。ドクドクと激しい鼓動を感じるとともに、とてもいい香りがする。清涼なのに、ほんのりと甘い香りが。
「…ふわ、」
何かに酔ったようにランベールは恍惚とした表情になり、ギュウッとアレクサンドライトに抱き付く。
「いい匂い…」
その言葉に、激しく脈うつアレクサンドライトの心臓がドクリ、と跳ねた。
「ランベール、…ラン…ッ」
名前を呼ばれて見上げると、男性は顔を真っ赤にして瞳を潤ませていた。自分が何かしてしまったのかと、「…ごめんなさい、」と謝ると、ギュ、と抱き締められた。
(…あったかい)
大好きだと言いきれるくらいのいい薫りに包まれて、ランベールも相手にギュウギュウと抱き付いた。
「…なにも、謝らなくていいんだ。はじめまして、ラン、俺はアレクサンドライト・エイベルっていうんだよ」
「アレクサンドライト、さま、」
ランベールは顔を上げると、「アレクサンドライト様は、とてもいい匂いがします」と微笑んだ。
(…っ、か…っっっっわ、いい…っ!んん…っ!!)
胸を撃ち抜かれたような衝撃を受けて、しかし両親がニヤニヤしながら自分たちを見ていることに気付き、アレクサンドライトはなんとか息を整える。
「…どんな、匂いがする?」
「スーッとする、ひんやりした朝の匂いと、優しくて甘い匂いがします。初めて嗅ぐけど、すごく、好きな匂いです。すごくいい匂い。…アレクサンドライト様の、匂いなんですか?」
アレクサンドライトは深呼吸すると、「ランは、」
「…ランベール、キミは、エイベルの血をひいているだろう?エイベルの運命の香りについて、聞いたことはないか?」
「…エイベル?アレクサンドライト様のお名前ですよね、僕はモロゾフです、ランベール・モロゾフ」
その返事を聞いてジークハルトが口を開いた。
「ランベール君」
声のしたほうに視線を向けたランベールは、「…あ」と小さく洩らした。
「…僕を、助けてくれた、」
「そうだ。俺はジークハルト・エイベル。一緒にいたのは俺の叔父、ナディール・エイベル。まだ会ってないが、キミの祖父はサヴィオン・エイベルだ。…会ったことが、ないんだろう?」
「…おじいさま?…会ったこと、ないです。あの家には、お父様もいない。いるのは、お母様と、お手伝いさんたちだけ、あと、…あの、イヤなことばかり、する、気持ち悪い男の人…」
顔を歪めたランベールは、またアレクサンドライトの胸に顔を埋めた。スウスウと匂いを嗅いでいる。
「…気持ち悪いから、やだ、って言ったけど、僕が可愛いからだ、って、好きだよ、って言われて、そんなこと、言ってくれる人、誰もいなかったから、気持ち悪いけど、僕も好きになったほうがいいのかな、って、でも、気持ち悪いことに変わりはなくて、僕のおちんちんとか舐めたんだ、気持ち悪くて、でも、嫌われたらまた一人になっちゃうかもしれないって思って、僕のこと、好きになってくれる人なんていないから、」
「ああ。家庭教師の男だけではなく、モロゾフ公爵家は取り潰しが決まった。ランベール君の父親は無理矢理ミアを娶らされた、自分は被害者だ、なんて言いやがったから氷で貫いてやったよ、足を。イヤならイヤだといくらでも断れたくせにいいとこ取りばかりしやがって、義務も権利もごった煮だ。あんな貴族、いるだけで害悪だ。ふざけた家族ごっこをしていたようだがその金も貴族だからこそ得られた金だからな。これからは自分で稼いで家族を養っていけばいい。…まあ、相手の女は貴族じゃなくなると聞いたら子どもまで投げ捨てて逃げていったよ。真実の愛とやらはどうしたんだろうな。滑稽だ」
冷たく嗤うジークハルトは、「それから、」と話を続ける。
「ランベール君の母親、ミアは捕縛された。息子が犯されたのを、あの女は知っていたそうだ。痛みにうち震えるランベール君に、おまえが誘ったんだろう、気持ち悪いカラダだから性根も気持ち悪く育ったんだとそう言い放ったそうだ。それを聞いたサヴィオン父上は嘔吐後、卒倒した」
重いのに迷惑な、とブツブツ文句を言ったジークハルトは、眠るランベールに視線を移す。
「サヴィオン父上は孫だから自分が面倒を見ると言ったんだが、父上自身、離縁して独り身になる。陸にいない日のほうが多いし、ランベール君が一人でいることに代わりはないように思うんだよな…可哀想だ。こうして今日、奇跡的にアレクの運命の相手だとわかったわけだろう?アレク、ランベール君をうちで預からないか?ルヴィは常に家にいるわけだし、ここは賑やかだろう?ナディール叔父上もなんともないような顔をしながら内心かなり心配しているのがバレバレだし、ランベール君が自分の目に届く範囲にいるのは叔父上にとってもいいことだと思う。アルマディンもいるし」
ジークハルトの言葉にブンブンと首を縦に振るアレクサンドライトを見て、「ただな、」と続ける。
「ランベール君はさっき言ったように、まだ10歳だ。おまえ、我慢できるか?」
「我慢、…ですか?」
ジークハルトの言葉の意味がわからず首を傾げたアレクサンドライトに、
「おまえ、さっき、ランベール君の匂いで発情しただろう。彼に手を出さずに、彼が少なくとも高等部に入るまで、カラダの関係を我慢できるか、と聞いているんだ。おまえ、いま17歳だろ?いままでは良かったが、ヤりたい真っ盛りに相手が家の中にいて我慢できるか、って聞いてるんだ」
途端に顔を真っ赤にしたアレクサンドライトは、
「お、俺は、そんな鬼畜みたいな真似、しません!!…意に染まないことを強要されて傷ついたランベールに、そんなこと、しません…俺が、守ってやりたい。それは、俺からも、です。俺は香りを感じますが、ランベールがそうだとは限らない…そのときは、…諦めます」
それは無理だろうな、と思いつつ、ジークハルトはそれ以上突っ込むのはやめることにした。せっかく、こうして変わろうとしているアレクサンドライトを見守りたいと、そう思ったから。
「わかった」
そう返事をして、アレクサンドライトの顔を乱暴に拭いてやる。アレクサンドライトは恥ずかしそうに小さく笑った。これからこんなふうに感情を見せてくれるようになるのかと思うと、ジークハルトも嬉しく泣きそうになった。
そのとき、扉がノックされる。
「食事の用意ができました」
ルヴィアの声に相好を崩したジークハルトは、「わかった、ありがとうルヴィ」と答えると、
「じゃ、飯にしよう、アレク」
「…ランベールを、連れて行ってもいいですか」
躊躇いがちにランベールを見つめるアレクサンドライトに、「そうだな」と答える。
「おまえの温もりを教えてやるといい。おまえの腕の中が世界で一番安心できる場所だと」
コクリ、と頷いたアレクサンドライトは、そっと眠るランベールを抱き上げた。
(…軽い)
よく見れば、幼い顔には隈も見える。頬も心なしか痩けているようだ。アレクサンドライトは自分がいかに恵まれた境遇にいるのかを思い知り、ランベールの今までを思ってまた涙した。
(俺が、必ず守ってやるからな)
たとえ俺がキミの運命にはなれなくても、キミを守るから。
(だから、きっと、幸せになって欲しい)
ランベールを少しでも感じたくて、アレクサンドライトはいつもなら飛んで移動するのだが、ゆっくり、噛み締めるように食堂へと歩いて行った。
食堂に入ってきた息子が大事そうにランベールを抱き抱えているのを見て、ルヴィアは顔を緩ませた。ジークハルト同様、息子の感情の起伏がないこと、なににも、誰にも興味をしめさず淡々と生きている様に心を痛めていたため、その変化が嬉しくて仕方なかった。アレクサンドライトの運命の香りがするランベールを、ルヴィアはより一層大切にしたいと強く思う。息子とともに、守っていきたいと。
アレクサンドライトはそんなことを両親が考えているとは露ほども思わず、じっ、とランベールを見つめたまま器用に椅子に腰を降ろした。そのままランベールを膝の上に乗せ、背中を支えるようにして上半身を起き上がらせる。自分の胸にランベールの顔を抱き込むようにしたアレクサンドライトは、ふ、と微笑んだ。
(あらあ…なんて可愛い…)
思わずジークハルトを見ると、夫も同じ様に感じたのだろう、顔をほんのり赤くして身悶えている。ルヴィアは微笑み、
「…アレク、あったかいうちに食べて」
「はい、いただきます。…母上、」
「なあに?」
「いつも、ありがとう。これまで、俺を大事に育ててくれてありがとう。恥ずかしい話だけど、俺、そういうのわかってなかった。当然だ、なんて胡座をかいてたつもりはないけど、当たり前のように父上と母上の愛情を受けてきたんだな、って。…感謝します。ありがとう、父上、母上」
そう言って食べ始めた息子を見ながら、(…ああ)とルヴィアは静かに感動に震えた。やはり、人は人と関わって成長していくものなのだ、と。誰にも興味を示さないアレクサンドライトは、恵まれた容姿と能力にも関わらずまったくと言っていいほど欲求のない子どもだった。自分たち家族にはそれなりだったが、学園での話などは一切出ない。学園の教師であるジークハルトの弟カイルセンにそれとなく聞いてみた時にも、「大人しく、静かで、常に一人でいる。周りを寄せ付けないようにしているのかな…感じる人間は感じると思います、アレクの静かな拒絶を」と言われた。
それが、こんなふうに変わろうとしている。ルヴィアは、ランベールに感謝した。アレクサンドライトの前に偶然とは言え、現れてくれたランベールに。
モグモグ咀嚼する息子を夫婦揃ってほっこりと見ていると、「…う、」と小さな呻き声が聞こえ、ランベールが身動ぎするのが見えた。アレクサンドライトは途端に箸を置き、優しくランベールを抱き締め直す。
うっすらと瞳を開けるランベールは、自分を優しい顔で見つめる美しい赤い瞳に見惚れた。
「キレイ…」
そっと手を伸ばし頬に触れると、目の前の人物は顔を真っ赤にした。そのとき、ぶわっ、と涼やかなとてもいい薫りに包まれる。安心する、いい薫り。
(これ、…この人の、匂いなのかな)
確かめたくてランベールは相手の胸に顔を埋めた。ドクドクと激しい鼓動を感じるとともに、とてもいい香りがする。清涼なのに、ほんのりと甘い香りが。
「…ふわ、」
何かに酔ったようにランベールは恍惚とした表情になり、ギュウッとアレクサンドライトに抱き付く。
「いい匂い…」
その言葉に、激しく脈うつアレクサンドライトの心臓がドクリ、と跳ねた。
「ランベール、…ラン…ッ」
名前を呼ばれて見上げると、男性は顔を真っ赤にして瞳を潤ませていた。自分が何かしてしまったのかと、「…ごめんなさい、」と謝ると、ギュ、と抱き締められた。
(…あったかい)
大好きだと言いきれるくらいのいい薫りに包まれて、ランベールも相手にギュウギュウと抱き付いた。
「…なにも、謝らなくていいんだ。はじめまして、ラン、俺はアレクサンドライト・エイベルっていうんだよ」
「アレクサンドライト、さま、」
ランベールは顔を上げると、「アレクサンドライト様は、とてもいい匂いがします」と微笑んだ。
(…っ、か…っっっっわ、いい…っ!んん…っ!!)
胸を撃ち抜かれたような衝撃を受けて、しかし両親がニヤニヤしながら自分たちを見ていることに気付き、アレクサンドライトはなんとか息を整える。
「…どんな、匂いがする?」
「スーッとする、ひんやりした朝の匂いと、優しくて甘い匂いがします。初めて嗅ぐけど、すごく、好きな匂いです。すごくいい匂い。…アレクサンドライト様の、匂いなんですか?」
アレクサンドライトは深呼吸すると、「ランは、」
「…ランベール、キミは、エイベルの血をひいているだろう?エイベルの運命の香りについて、聞いたことはないか?」
「…エイベル?アレクサンドライト様のお名前ですよね、僕はモロゾフです、ランベール・モロゾフ」
その返事を聞いてジークハルトが口を開いた。
「ランベール君」
声のしたほうに視線を向けたランベールは、「…あ」と小さく洩らした。
「…僕を、助けてくれた、」
「そうだ。俺はジークハルト・エイベル。一緒にいたのは俺の叔父、ナディール・エイベル。まだ会ってないが、キミの祖父はサヴィオン・エイベルだ。…会ったことが、ないんだろう?」
「…おじいさま?…会ったこと、ないです。あの家には、お父様もいない。いるのは、お母様と、お手伝いさんたちだけ、あと、…あの、イヤなことばかり、する、気持ち悪い男の人…」
顔を歪めたランベールは、またアレクサンドライトの胸に顔を埋めた。スウスウと匂いを嗅いでいる。
「…気持ち悪いから、やだ、って言ったけど、僕が可愛いからだ、って、好きだよ、って言われて、そんなこと、言ってくれる人、誰もいなかったから、気持ち悪いけど、僕も好きになったほうがいいのかな、って、でも、気持ち悪いことに変わりはなくて、僕のおちんちんとか舐めたんだ、気持ち悪くて、でも、嫌われたらまた一人になっちゃうかもしれないって思って、僕のこと、好きになってくれる人なんていないから、」
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