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番外編~結婚生活編

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「ギデオンさん、本当に玄武州に行く気なの?」

「父上に手紙は出しました。ジャポン皇国とアミノフィア国との国交を開くための準備がありますし。橘さんにもご挨拶したいので。なによりフィーと離れるのはイヤです」

仕方なく双子王子とともに4人で汽車に乗り込む。

「アリスちゃんとオリヴィアちゃんに早く渡して欲しかったのに」

「フィー。フィーがジャポン皇国に出発してしまったあと、わたくしがあのふたりになんと言われたかわかりますか?『ソフィア様は、本当はお兄様のことが好きじゃないから出て行ってしまったのではないか、ソフィア様が戻ってこれるようにお兄様が出て行ったらいい』なんて言われたんですよ。フィーはわたくしのことが好きなのに、なんて酷いことを…しかしわたくしだけが帰ったらまた攻撃されるに決まっています。ですから、フィーと一緒じゃなければ帰りません」

え…。

「でも、ギデオンさん、」

「でも、は聞きません。フィー、わたくしの膝に乗って。もっと密着したいです」

「兄上!公共の場です!」

「外野がうるさい…」

そんなこんなで玄武州に辿り着くと、駅で撫子さんが待っていてくれた。

「お姉さま、いらっしゃいませ!」

「撫子さん、こんにちは、お邪魔します。紹介しますね、こちらのふたりが」

「ソルマーレ国第2王子、ディーン・エヴァンスです」

「同じく第3王子、ゼイン・エヴァンスです。このたびはお世話になります」

悪魔もペコリと頭を下げると、

「撫子さん、先日はありがとうございました」

「ギデオン様、ふふふ、お姉さまと仲直りできたのですね、良かったです」

撫子さんが準備してくれていた馬車に乗り、またご実家にお邪魔する。

「おふたりは、トゥランクメント族の呪【シュ】について研究なさりたいそうですね、私の兄の橘がお役にたてると思います。今日は家におりますので、遠慮なく話を聞いてくださいね」

「ありがとうございます」

頭を下げる双子王子を見て、

「そういえば、何を研究したいのかまだ聞いていませんでしたね。わたくしの呪いは解けましたが、それについて何かを知りたいのですか」

「いえ、兄上…兄上は、物心ついたときにはもう『処女の顔が動物に見える』状態だったわけですが、いつ、誰にかけられたのかわかっていないですよね」

悪魔が頷いたのを見て、ゼイン王子は

「あの腐れ詐欺師が手引きしたに決まっていますが、知らないうちに呪いをかけられたために兄上はずっと苦しんで来られた。王位継承も放棄しなくてはならなかったかもしれないのです。そういう不幸を防ぐために、何か手立てはないものかと。それを研究したいのです」

すると撫子さんが、

「呪【シュ】を防ぐ術はございます」

と静かに言った。

「…え?」

「私たちトゥランクメント族…いま、この国にいるトゥランクメント族は呪【シュ】を使うことはしません。わざわざ自分達の首を絞めるような真似はしない。火種を起こしても仕方ありませんからね。ただ、昔はそうではありませんでした。兄がギデオン様にお話したように、呪い殺したり、相手を不幸に陥れる手助けを生業としている者もおりましたので…それに対抗するための術が生まれたのはある意味当然のことです」

撫子さんは、首にかけていたネックレスを外すとディーン王子に見せた。

「これは…守る、という漢字ですよね」

「ええ。呪【シュ】に対抗する守【シュ】と刻んでおります。この石は悪意から身を守ってくれるという水晶です」

ディーン王子から受け取り、マジマジと見たゼイン王子は、

「これは流通しているのですか」

撫子さんは首を横に振ると、

「先ほども申し上げた通り、国内で呪【シュ】を使うようなバカ者はおりません。これは、私が作ったのです」

「作った…?」

「はい。私の実家は片桐というのですが、片桐家は守【シュ】の刻印の技術を継承する家のひとつなのです」

刻印の技術…。

「我が家は全員この技術を持っています。私の子どもには継承しませんが、兄ふたり、妹ふたりの子どもには継承させるつもりです」

「使うことがないのに、ですか?」

「ええ。技術は継承しなくてはなりません」

ディーン王子とゼイン王子は顔を見合わせると、

「撫子様。僕たちは先ほど申し上げた通り、いつかけられるかわからない呪【シュ】から、身を守るべきだと考えているのです。兄上の事例しかわかりませんが、ソルマーレ国にトゥランクメント族の子孫がいないとは限らない。先ほど、呪い殺したり、と仰いましたね。もし我々の父が今呪い殺されるような目に遭えば、国が混乱します。兄上が立太子したとは言え、近隣諸国への直接の挨拶もまだ済んでおりませんし、同盟国とは言え父が亡くなったとたん勢力図が変わる可能性もある。差別や区別ではなく、影響が大きい位の人間ほど、身を守らなくては…守ることが義務だと思うのです」

撫子さんはふたりの話をじっと聞いていたが、

「この守【シュ】を、ソルマーレ国で買っていただけるということですか」

…さすがビジネスマン蘇芳の奥さん。

「…これは僕たちふたりの勝手な考えです。まだ兄上にもお話していませんでしたので」

「もちろん、父上にも。そういう術が存在するかどうかわかりませんでしたから」

「わたくしは、呪いをかけられていた身としてその守【シュ】をソルマーレ国に取り入れるべきと考えます。撫子さん、権利、契約について誰とお話すればいいですか」

「トゥランクメント族の刻印技術を持つ3家…片桐、藍原、近江の家長と話し合っていただけますか。もしお話が成立した暁には、その利益は玄武州には通さずトゥランクメント族に直接降りるようにしていただきたいのです」

悪魔はスッと目を細めると、

「玄武州知事の奥様の発言とは思えませんが」

「…トゥランクメント族は、閉鎖的ではないのになかなか新しい人が入ってきてくれません。我が家の兄ふたりも、妹も、まだ配偶者がいない。藍原、近江も同様と聞いております。トゥランクメント族が自由に使える資金が欲しいのです。我々の技術なのですし、ジャポン皇国では今のところ無用の長物でしかありません。蘇芳様も否やはないかと」

撫子さんはため息をつくと、

「資金があるからすぐに人が来るわけではないでしょうが、何しろ必要がなかったので、アパートがないんです。空き家も古いものしかないので、移住したいと言ってくれる人がもし現れても住む家がないのです。そういう環境面から整備していきたいのです」

なるほど、と頷いた悪魔は、

「では、そのように。話し合いの際は撫子さんもご参加ください。蘇芳さんにも今のお話はお伝えいただけますか」

「わかりました。よろしくお願いいたします」

ふたりのやり取りを聞いていた双子王子は、

「兄上…そうなると、僕たちのジャポン皇国への留学の目的は達成されたことになります。その術を研究したくて留学するつもりでしたから」

…そうだ。元々今年4月からジャポン皇国に留学する、って言ってたのは立太子を避けるため、逃げるため、だったんだもんね。来年の留学はハッキリした目標があったけど、撫子さんの話でそれも解決してしまった。

「そうですか…それであれば、来年4月からはアミノフィア国へ行きなさい。二人で海軍養成学校に入りながら幹部養成過程も受けて、再来年にはソルマーレ国とジャポン皇国で海軍創設を成しなさい。ジャポン皇国とアミノフィア国の国交を開くにしても、あなた方がお手伝いできたら更に早く創設をできるでしょう。皇帝陛下にもご了承いただければ、ですが」

「では、実家に着きましたら義父を転移魔術でこちらに連れて参ります。蘇芳様も早めに来ると言っておりましたので、改めてお話いたしましょう」

「ついでと言ってはなんですが、我が父もお願いできますか」

「わかりました」

…国のトップふたりを、知事の妻の実家とは言え一市民の家に呼んでいいものなのだろうか、と思っているのはたぶん私だけなんだろうなあ…。
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