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この先の道は

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「…んっ。ソフィアさんっ!」

目を開くと、佐々木さんが視界に映った。

「佐々木さん…」

よく見ると、佐々木さんも顔が赤くなっている。あいつに殴られたのだろう。

「ご、ごめんなさい、佐々木さん、私のせいで…っ」

私の恋人みたいに認識されてしまったせいで佐々木さんまで巻き込んでしまい、傷つけてしまった。情けなくて、悔しくて涙がボロボロこぼれる。

「何を言ってるの!?自分を心配しなよ!腕、大丈夫!?顔も腫れてるし…あいつ…っ!なんてことしやがる…っ」

カラダをかろうじて起こすと、先ほどの女性の姿はなく、しかし夢ではなかった証拠のように血だまりが残されていた。

「…さっきの女性のカラダは、見たことのない男がふたりで運び出していった。ソフィアさん。あいつが言ってたんだけど、」

私と佐々木さんは恋仲だと思われているため、ふたりで駆け落ちしたということにする。ソルマーレ国から国王夫妻が来るため、佐々木さんと離されてしまうのではないかという懸念のためだ、探さないでくれ、という内容で私の部屋に置き手紙をしたそうだ。

「明日の就任式が終わったら自分が朱雀州の知事になるから、その祝いにたっぷりおまえの目の前で可愛がってやる。あとはふたり仲良くあの世に送ってやるから安心しろ、って…!クソッ、この縄さえ解ければ…っ!」

佐々木さんの声は聞こえているのだが、だんだん頭がボンヤリしてくる。うまく、頭が、回らない…。熱が出てきたようにカラダが熱くなってくる。

前世でセックスレスの挙げ句浮気夫のせいで死んで、今度は望みもしないセックスを強要され、最後は殺される…。ソフィアのカラダは、まだ純粋な処女のままだったのに…。愛情を交わした相手とではなく、あんなイカれ野郎に犯されてしまうなんて…ソフィアに申し訳なくて、後から後から涙があふれてくる。

「…ギデオンさん…」

ごめんね。指輪、返せない。大事に持って帰るよ、って言ったのに。

悪魔と口づけたあの夜が浮かび、切なくなる。ペットロスが、現実になっちゃって、

「…ごめんね、ギデオンさん」

途切れる意識の片隅で、「フィー!」と私を呼ぶ懐かしい声が聞こえた気がした。












「ではこれより、新皇帝、並びに新州知事の就任式を始めます。名前をお呼びしますので、順番に陛下の前にお並びください」

就任式の式進行を務めるのは、現青龍州知事の拝田誠人。羅刹の後ろ楯になる、というこの彼は、羅刹に負けず劣らずの脳筋であるのだが、長年秘書官に容赦なく鍛え上げられたお陰で今は質実剛健の知事に成長した。

「新皇帝、拝田英樹」

「…はい」

現朱雀州知事は立ち上がると、国賓であるソルマーレ国国王夫妻に一礼し、壇上に上がる。陛下の前でまた一礼し、居並ぶ面々に正対する。その顔にはなんの表情も浮かんでいない。

「続いて、新玄武州知事、拝田蘇芳」

「はい」

同じように壇上に進む蘇芳からも、なんの感情も読み取れなかった。

「続いて、新青龍州知事、拝田羅刹」

羅刹は国賓席に一礼すると、誠人の前まで進み、「叔父上、ありがとうございます」と言って深々と頭を下げた。

「…楽しみだ。よろしくたのむ」

そう言った誠人に一瞬だけ微笑んだ羅刹は、蘇芳の隣に立ってじっと下を見下ろした。

「…続いて」

名前を呼ばれる前に、立ち上がったのは上総。だが、

「新朱雀州知事、拝田織部」

「はい」

「…なっ!?なにを…っ」

立ち上がった織部の腕を掴もうとした上総の腕はギリギリと締め上げられた。その相手は、朝霧だ。

「衛兵、捕縛しろ。ついでに猿轡もしておけ」

夫が捕まえられたのを見た紫陽は何事かと目を見開いたが、隣に潜んでいた影に同じく捕縛された。

織部は何事もなかったかのように壇上に進む。

「最後に。新白虎州知事、拝田朝霧」

「はい」

朝霧が立ち上がると、会場の一角から大歓声が上がった。それを窘めるように、「父上…っ。兄上も…っ」と、彼の愛しい妻の声があがる。

朝霧が壇上にあがり、全員が揃って一礼すると、会場から大きな拍手が沸き上がった。

現皇帝である拝田啓一郎は、「みな、よくきてくれた。この晴れの日を迎えられたこと、心より感謝する」と微笑み、ひとりひとりに任命状を手渡した。

再度、壇上の全員が一礼すると、会場からもまた拍手が沸き上がる。それが鎮まるのを待ち、

「では、別会場に立食の準備がしてある。そちらで、今日のよき日を皆で祝おう」

啓一郎の声で、会場にいた人間たちが動き出す。後に残されたのは、啓一郎、英樹、蘇芳、羅刹、織部、朝霧、そしていまや罪人として捕らえられている上総と紫陽…。さらに、ソルマーレ国国王とその近衛騎士として同行した、ギデオンの姿があった。
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