下げ渡された婚約者

相生紗季

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成人の儀

3着の式典服

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「よろしいんでしょうか。私がこちらにいても」

 格式高い、伝統的な形のドレスをまとったルイーザ嬢は、たんなる疑問、というような態度で口を開いた。
 きょろきょろと周りを見回すような振る舞いこそしないが、興味深そうな視線で部屋を眺めている。

「もちろんです。あなたは、僕の婚約者ですから」

 僕は胸を張った。
 とはいえ、ここはたいした部屋ではない。
 クローゼットと呼ばれる部屋だ。
 我が家では、それぞれが普段着る服のオーダーを出す。セオドアは職人にきちんとした礼服を作らせているし、アンドレアは流行りものに敏感だ。末っ子の僕はどうせ汚すからとおさがりが多い。
 例外が、マグノリア国の式典時の服だ。どういうわけか、父は僕たちに揃いの服を着せたがる。まとめて発注された式典服は、このクローゼットに運ばれる。
 僕たちの目の前には、3着の式典服。成人の儀の王子ではこの形のジャケットを着用するのだ。

「アルフレッド様はこちらを着ていただきます」
「そうだろうな!」

 執事が指したのは、黒いスタンダードなものだった。
 他のふたつは、個性的なしつらえだった。
 ひとつは、明度を抑えたシックな赤。絶対にアンドレアお姉さまだ。
 もうひとつは、黒色に深い青の糸で細かな装飾が縫い取られている。セオドアのものだろう。

「セオドア様とアンドレア様はこまかく注文をなさっていました」
「気にしてなかったのは僕だけか」
「さようでございます」
「並ぶと地味だな~」
「黒は」

 ルイーザ嬢が強い声をあげた。
 顔を見れば、きっと鋭い顔つきだ。

「黒は、由緒正しい伝統的なお色です。地味だなんてとんでもない!」

 まるで、僕を責めるかのような口ぶりだ。

「今日の成人の儀はアルフレッド様が主役なのですから、文化の規範を示すのは素敵なことですわ」

 すらすらと言葉を並べて、胸を張る。
 執事はあっけにとられていた。

「じゃあ……着てきます」
「きっとお似合いになりますわ!」

 得意げに言うものだから、僕は少し恥ずかしくなった。
 ルイーザ嬢は、僕を励まそうとしているのだ。少し、分かりにくい形ではあるけれど。僕にはもう分かっていた。
 自分ひとり簡素な礼服を着ることが、それほど嫌だったわけではない。
 たんなる、軽い自嘲のつもりだった。人に見せたい姿があったり、先んじて準備をしたり、目をかけている職人がいたり、そういう視点は王位継承者に必要だと思う。
 広い視点がない僕は王子にふさわしくないと、つい口に出してしまうのが癖になっていた。
 ルイーザ嬢は、それをはねのけようとする。僕の自嘲を「そんなことない」と撤回させる。
 その言葉の力強さが、僕にはとても心強い。

「あれ?」

 ジャケットに手をかけて、僕は気づいた。
 執事が僕の様子をうかがう。

「どうなさいましたか?」
「……きゃっ」

 手元を覗いたルイーザ嬢が声をあげた。
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