下げ渡された婚約者

相生紗季

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王子の所以

共通点

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 ルイーザ嬢も花が好きなんだ。
 僕は嬉しくて、庭園のあちこちを紹介して回った。

「手前に鮮やかな一年草を植えているんです」
「池! この辺りは自然な雰囲気を大事にしています」
「ルイーザ嬢は何色がお好きですか? 僕はやっぱり緑です。葉の色です!」

 しゃべりながら庭を走り回ったから、僕はすっかり息があがってしまった。

「どうですか、ルイーザ嬢! うちの庭は! すごいでしょう!」

 たったひとつの季節のなかの、たった1日。
 庭というのは見せる姿を日々変えていくものだから、まだまだ紹介しきれていないけれど。
 僕は、自分の好きなものをルイーザ嬢と共有できてうれしかった。

「とっても素敵ですわ」

 あちこち動く僕を眺めていたルイーザ嬢は、ひかえめに微笑んだ。

「曇りの日も綺麗なんですよ。かげって色がなじむんです」
「そうなのですね」
「また一緒にまわりましょう。僕、いつでもご案内しますよ」

 僕はにこにこと頬があがってしまう。
 反対に、ルイーザ嬢は口を横に引き締めた。
 あれ、嫌だったかな。

「ぜひ。ご案内してください」

 涼しい顔で言う彼女は、僕に気を遣ってくれてるのかもしれなかった。

「叔父さまーっ!」

 そこにアリッサの声がした。
 声のした方に目線をやると、中庭からアリッサが手を振っている。
 中庭にはテニス用のネットが張ってある。
 ラケットを持ったアンドレアとコリン・ノースが、ネットをはさんでボールを打ち合っていた。

「おふたりとも、お上手ですわ」

 ルイーザ嬢が小さくこぼす。
 それほどに、アンドレアとコリン・ノースは躍動していた。
 アンドレアは長い手足を活かし、大きく腕を振るように打つ。
 コリン・ノースは球の動きを機敏に察し、球が落ちる場所にすでにいる。
 ふたりは軽くラケットを振り、ラリーを続けるのを楽しんでいるように見えた。

「打ち損ねたら交代、ってルールにしたら、ぜんぜん私に回ってこなくなっちゃったんです」

 嬉しそうにアリッサは言った。
 ネットの横に、僕とルイーザ嬢も並ぶ。

「やーあアルフレッド、ルイーザ嬢オッ!」

 パコンッ。

「庭園を満喫ッ!」

パコンッ。

「したかな?」

 アンドレアお姉さまは器用にも、球を打つ合間に僕らに声をかける。

「それじゃあ、そろそろ決着をつけようかッ!」

 バコッ!
 アンドレアが腕をしならせた。
 これまでのラリーとは種類の違うラケットの振り。
 真剣勝負が始まる音だった。

「お母さまー! 頑張ってくださいーっ!」

 アリッサが無邪気にアンドレアの応援をする。
 僕とルイーザ嬢は、黙ってふたりの勝負を見ていた。
 僕たちふたりが、コリン・ノースの応援なんかするはずない。
 完全にアウェイな中――コリン・ノースは善戦していた。
 アンドレアより体格は小さく、服装もワンピースのままだったが、コリン・ノースはアンドレアに食らいついている。
 正直に言うと、ふたりの試合は見ごたえがあった。
 スピードの速いボールのやりとりは、さらに勢いを増し――
 バコンッ! とアンドレアが打ったボールに、

「あっ!」
「よしっ!」

 コリン・ノースが追いつくことができず、勝負は決着した。
 アンドレアが汗をぬぐい、コリン・ノースに手を差し出す。

「こんなに良い試合をしたのは久しぶりだよ! ありがとう」
「はい。こちらも。ありがとうございます」

 おそるおそる、といった感じでアンドレアの手を握るコリン・ノース。
 ぱちぱちとアリッサが拍手をして、ゲームは終わった。
 三人は片づけを始める。
 手持無沙汰な僕は、同じく立ちっぱなしのルイーザ嬢に聞いてみた。

「ルイーザ嬢もテニスやりますか?」
「いえ、私はいいです。アルフレッド様はなさらないんですか?」
「いえ、僕もいいです……」

 目が合って、僕は吹き出した。
 よっぽど嫌だったらしいルイーザ嬢の顔が可笑しかったからだ。

「アルフレッド様は、私の顔を見てよく笑いますよね。そんなに変ですか?」

 じと、と見つめられるので慌てて弁解する。

「変じゃないですよ! むしろ、あたたかい気持ちになります!」
「あたたかい気持ちって……」

 どういう意味です……とルイーザ嬢はやっぱり僕をにらむのだった。
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